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連載小説「オボステルラ」 【第三章】3話「価値」(1)


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第三章の登場人物



3話 価値(1)


 翌日。

巨大鳥についての情報収集ついでに、工房巡りである。「せっかくだから、ゴナンにいろんな工房を見せてあげたい」とのリカルド発案のプランだ。

 今朝も早朝から鍛錬を頑張っていたゴナン。宿の前で2人と合流したナイフは、すぐにゴナンの腕や足に触れて張りをチェックする。

「…ゴナン…。だから、最初から追い込みすぎるのはよくないわよ。急にたくさん鍛えたからって、すぐに体が強くなるわけではないのよ。焦らなくても大丈夫だから」

「……」

無表情ながらも、なんでバレたんだ、という雰囲気がわかりやすく現れるゴナン。ナイフはふう、と嘆息する。

「筋肉痛もかなり出てるでしょ? 筋肉痛から回復するときに筋肉は強くなるものなのだから、休ませることも大事なのよ。特に鍛錬のし始めはね」

「……うん……」

「リカルドも気をつけて見てあげて。この調子じゃ、倒れるまで鍛錬しちゃうわよ、この子は」

「……」

ゴナンの隣にいるリカルドに声をかけるが、気もそぞろなのか、返事がない。

「リカルド? 聞こえてる?」

「…あ、ああ。ゴメン。何?」

ようやくこちらに気付くリカルド。昨日の食堂での一件以来、どうにも調子が悪そうだ。ナイフは眉をひそめた。

「……私も、あなたの拠点に泊まろうかしら…」

「…えっ。なんで? ダメだよ! いくらキングサイズのベッドでも、ナイフちゃんが入って3人になったら、流石にぎゅうぎゅうになっちゃうよ!」

リカルドが慌てる。なぜ一緒のベッドで寝る前提なのかが謎だが、ナイフは再び嘆息してリカルドの肩にポンと手を置く。

「心配してるのよ。……しっかりね」

「…ああ、ゴメンね。ありがとう」

 と、宿からミリアとエレーネがいそいそと出てきた。

「お待たせしてごめんなさい! 寝癖ができてしまって。わたくし、自分で寝癖を直したことがなかったので、エレーネに教えてもらっていたの」

ミリアがなんとも微笑ましい遅参の理由を真剣に伝えてくる。
これまでは髪が長かったし、身支度などはすべてメイドなどの仕事だったであろうから、思いも寄らない方向に髪が跳ねたまま収まらない状態が衝撃的だったようだ。ナイフはふふっ、と笑った。

「まあ、じゃあ、今日生まれて初めて自分で寝癖を直したのね」

「ええ、そうよ! まだ少し時間はかかってしまうけれど。もう、どれだけ寝癖ができたって大丈夫よ」

からかい口調のナイフに、しゃんと胸を張って答えるミリア。「普通のミリア」として1つできることが増えて、嬉しそうだ。

「寝癖を無事に撃退できたようで、良かったよ。さあ、出発しようか」

リカルドも微笑んで声をかけた。しかし、口調は朗らかでも、冷たい膜が張ったような微笑みだ。ゴナンはまた、心配そうにリカルドを見ていた。

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 宿のあるエリアから工房街はすぐ近く。長屋のような建物が並ぶ一角に来た。

「この辺りは、お店と一体になっている工房が並ぶエリアだよ。何か一つのものを専門で作る工房が多いね。刃物とか、時計とか、調理道具とか、発光石の装置とか…。ドアノブだけとか、いろんな機械や道具に使う金属の部品だけつくる工房なんかもあるんだよ。もっと奥に行くと、1箇所でいろんなものを作っている大きな工房や、販売専門の大店もあったりするけど」

「へえ…」

 リカルドの案内に、ゴナンは目を輝かせる。

店を覗き込むと、ゴナンがまだ見たこともないような何かが商品として並び、その奥には作業場が見える。

渋い顔をした男性が一心にものづくりをしている姿は、カッコいい。
初めて見る全てが面白く、ゴナンは逐一、足を止めてつい見入ってしまう。ミリアも多少興味ありげだが、ちょっと目に留める程度だ。少し冷めた目線に見える。

「ミリアはあまり、こういうのには興味はなかったかな?」

ミリアのその反応を少し意外に感じて、リカルドは声を掛ける。ミリアは首を横に振った。

「いいえ、我が国の産業のことは勉強はしているけど、実際に現場を見るのは初めてだもの、とても興味深いわ。でも、お父様やお兄様の方が、もっとこういうことに興味を持ってらっしゃったと思って」

「へえ、そうなの? 王も、王子も?」

それも初めて聞く話だ。リカルドはまた王家の話につい食いついてしまい、エレーネが心配そうに声をかける。

「……リカルド、あなた懲りてないわね…」

「……おっと。ごめん、あまり深く聞かない方がよかったかな?」

「いえ。もう、あなたを罠にかける必要はないから。何を聞いていただいても、大丈夫よ」

そうニコリと笑うミリア。やはり侮れない王女様だ。

「…お父様もお兄様も、機械や道具…、というか、わたくしにはおもちゃやガラクタにしか見えないようなものを、喜んで収集されていたのよ。それがあまりにもばかばかしい量で、わたくしは呆れかえってしまっていたの」

「そうなんだ。気が合いそうだな」

そう呟くリカルドに、ゴナンはまた昨日のなんとも言えない表情になる。あれは…、リカルドがあの部屋に集めているあれも…、おもちゃか、ガラクタか…。

「モノを集めるだけでは飽き足らず、機械士をわざわざ呼んで、くだらないものをオーダーで作らせたりもされていたの。鳥の人形がついていて、そこから鳴き声が鳴って時刻を告げる時計だとか…。なぜ、時計で鳥が鳴く必要があるのかしら……」

「確かに、時刻が来る度に鳥が鳴くなんて、うるさそう……」

ミリアの呆れたような感想に、エレーネも同意するが、リカルドは顔を輝かせる。

「ははっ。流石、王様、王子様だね。お抱えの機械士がいるなんて、うらやましいなあ」




そうやって少し楽しそうに父や兄の話をしていたミリアだったが、すぐにまた表情を曇らせてしまった。リカルドはそれ以上は深入りしないよう、話題を変えてゴナンに話しかける。

「ほら、ゴナン。あそこのお店。テントとか敷布とか、布物の野営道具を専門に作っている工房。あの寝袋も、僕のテントも、ここの製品だよ」

「あの寝袋、ここで作ってるの?」

「そうだよ。今、作業しているといいけどね。どうだろうなあ…」

そう言いながらリカルドは、慣れた感じで『工房タイキ』の看板が掲げられた工房へと入っていく。

「こんにちは、タイキさん、お久しぶりです」

「リカルドさん、だいぶご無沙汰ですね。お元気そうで」

リカルドを出迎えたのは、30代半ばくらいに見える細身の男性だ。店舗部分の一角で足踏みミシンを扱っていたが、立ち上がって一行を迎え入れてくれた。


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