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連載小説「オボステルラ」 【第三章】9話「きっかけ」(1)
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9話 きっかけ(1)
あの日のことがきっかけになって、翌日以降もゴナンは坑夫や私兵からちょっかいを受けるようになってしまった。
声を上げなければ反抗もしてこないゴナンの態度が、娯楽も何もない彼らの嗜虐性をくすぐってしまったようだ。鬱憤をぶつけるかのように、足を掛けられたり、体当たりで倒されたり、時には蹴られたり。何日もそのような状態が続いているが、それでもゴナンは気に留めず、めげない。ドズは心配して見守りつつも、ゴナンの異様な辛抱強さに畏れすら感じていた。
さらにゴナンは、作業場から外へと石を運び出す役に変更になった。ドズの近くには居られなくなるが「もっと重い石を背負って、体を鍛えたいから」と願い出たのだ。トロッコを人力で押しながら、自らも石の詰まった籠を背負い、敷地の入口付近にある荷車へと運んでいく作業だ。
(黒い石と黒くない石、どっちも外に運び出すんだな…)
ゴナンは興味深げに、2つのレールそれぞれにあるトロッコを見る。石がたまりきったら、馬3頭で引いて敷地外へと運び出していくのだ。もちろんその際は坑夫が逃げないよう、皆は入口から遠ざけられる。
これまではずっと坑内での作業だったため、久々に太陽を浴びながらの作業だ。日差しがまぶしく感じる。ゴナンはバンダナをいつもよりも目深にして、隣の人と一緒に淡々とトロッコを押し続けていた。
(腰を低めにして、腰から押し出すように…)
ドズから習った、鍛えるための工夫も忘れない。
と、
「おい、速えよ、合わせろよ」
と隣の男が文句を言ってきた。以前、ゴナンに話しかけてきた、30代くらいの男だ。彼は籠を背負ってはいない。
「…ごめんなさい…」
「……ちっ。見た目の割に、押すのが強えんだな」
「……」
本当は力いっぱいトロッコを押したいが、力を合わせて押さないといけないため仕方が無い。これを一人で押せばもっと鍛錬になるのではないか…、などと考えるゴナン。
「…お前はなんで、そんなにおとなしいんだ?」
言葉少ななゴナンに業を煮やしたのか、そう尋ねてくる男。
「……なんで、って言われても…」
「いつも、やられっぱなしで、腹が立たねえのかよ」
「……」
この男はゴナンにちょっかいを出してくることはないが、助けに入ることもない。いつもただ、ニヤニヤと傍観している。ゴナンにしてみれば、双子の兄による苛めの経験から、反抗すればもっと厄介な状況になることがわかりきっているだけなのだが、それをこの男に説明するのは億劫だ。
「……別に、あれくらい、なんともない…」
「……へえ、我慢強いんだな…」
男は意味ありげに、そう呟いた。それきりゴナンはまた無言になったため、男は退屈そうに独り言を言いながらトロッコを押す。本当におしゃべりな男だ。
と、ふと気配を感じて、ゴナンは空を見上げる。
(……? 鳥…)
見上げた先には、鳥が飛んでいるのが見える。巨大鳥かもと思ったが、太陽が眩しい上に、遠くを飛んでいるため目のいいゴナンでも鳥の大きさがよくわからない。
(…気のせいだ…。普通の鳥もそう、見えてしまっているんだ…。それにもし巨大鳥だったら、なにか不幸なことが、起こるかもしれない…)
「おい、今度は止まってんじゃねえよ」
男がまたゴナンに文句を言う。慌てて下を向き、またトロッコを押し始めた。
↓次の話↓
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