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連載小説「オボステルラ」 【第三章】10話「扉の向こう」(1)


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第三章の登場人物



10話 扉の向こう(1)


 翌日、早朝から馬3頭で、鉱山らしき場所へと出発したリカルド達4人。昼前には現地に着いた。まずは前日と同じように、馬を遠くに駐めて、徒歩で近づき様子をうかがう。

「…本当ね…。鉱山だとしても、ちょっとまともな場所じゃなさそうね…」

ナイフは、ミリアとエレーネにそう声を掛ける。不自然なほどに堅牢な門。なぜか扉の外側に閂が掛けられている。内側からの何かを逃さないためだろう。そして異様に多い見張りの数。

「昨日、突撃しなくて正解だったわよ、あなたたち」

一方でリカルドは、周辺の山を見たり、石を拾ったりしている。

「リカルド?」

「…ん? ああ、ごめん。何の鉱山なんだろうと思ってね…」

そう言って、さっき拾った石をじっと見る。黒みがかった鉄色の石…。この地域でこの黒は、珍しい色だ。

「…もしかしたら、なにか希少な鉱石を発掘しているのかもしれないな…」

「そんな高尚なお仕事をやっているにしては、相当にヤクザな雰囲気よ」

ナイフが上着を脱ぎ、ぐっと背伸びをして手足の筋を伸ばす。リカルドも万が一に備え、剣を抜きやすいようあらかじめマントを脱いだ。

「まあ、とりあえずはお話をしてみようか。ミリア。君はエレーネから離れないでね」

そういって、いつもの涼しい微笑みで門へと近づいていくリカルド。3人もその後ろに着いていった。



「…失礼。ここは鉱山ですか?」

リカルドが微笑みながら、何人もいる門番の一人に話しかけた。せめて話ができるよう、少しでも理知的に見える者を選んで声を掛けたが…。

「ああ? なんだお前は? 去れ!」

…あまり意味はなかった。リカルドは微笑みを崩さないまま、続ける。

「我々は人を探しているんです。ツマルタ鉱山にはいなかったので、もしかしたらこちらで働いているのではないかと思って」

「いねえよ! 去れ!」

とりつく島もない感じだ。リカルドは大仰にため息をつく。




「警察に行方不明届けも出して、探してもらっているんです。警察の方と一緒に来ればよかったんだけど。ああ、今から引き返して、呼んでこようかなあ…」

「……!」

男が一瞬だけ言葉に詰まる。やはり、何か違法なことを行っている場所なのかもしれない。

「その人が見つかれば、警察を呼ぶ必要なんてないんだけど。15歳の男の子で……」

「ここには子どもは居ねえよ。皆、18歳より上だ。じじいはいっぱい居るがな」

門番が剣に手をかけたままそう答える。ナイフがリカルドのすぐ横で、じっと警戒する。

「おい、どうした」

と、門の横の勝手口から、一人の男が出てきた。鉱山の管理棟の主、グレイである。騒ぎを聞きつけたようだ。4人はその顔を見て、「とても人相が悪い……」とさらに警戒を強める。

「グレイさん。いや、こいつらが、人捜しに来たとかで」
「人捜し…?」

グレイは嫌な笑顔を浮かべながら、リカルドに近づいてくる。

「場所をお間違えではないですか? ここは、身内だけで回している場所なので、お探しの方はいないかと…」

「いえ、きっといると思うんです。15歳の男の子で、ゴナンと言う名で、背はこのくらいで、体が細くて、金髪で。バンダナを巻いてベストを着ていると思うんですが……」

「ここに未成年はいませんよ。過酷な現場なのでね」

「では、中を探させてもらえませんか? それで居ないようだったら、諦めますから」

リカルドは少し必死な形相になって、グレイに詰め寄った。「リカルド」とナイフが押さえる。

「それはできません。あなた方が商売敵の手の者だという可能性もある。中の情報は隠しているのです」

「公にできないことをしているのではないの? 踏み込んでもよいのだけど」

ナイフがリカルドの横で、ぐっと拳を握りながらグレイを威嚇した。

「……なぜ、この場所をご存じで?」

「…ゴナンを捜し回っていて、偶然、見つけたのですが?」

「ふうん…」

グレイはリカルドを見、そしてその隣のナイフをじっと見る。横に立つ私兵にそっと何かをささやいた。

「…お強い仲間をお持ちのようですね。でも、中には入れられませんし、そのような子どもはうちにはいません。お引き取りを」

そう言うグレイの周りに、勝手口からさらにゾロゾロと10名近く私兵が出てきた。これだけの兵を常駐させているとは、やはり普通の鉱山とは思えない。

「…ここはツマルタ鉱山とは違って、民営で頑張って開いたしがない鉱山で、私有地です。もし押し入ろうというのなら、こちらは不法侵入で訴えることもできるのです。どうせお探しの方は居ないのだから、無茶はされないほうがいい」

「……」

法に訴えるつもりなど微塵もなさそうだが、ナイフはリカルドに耳打ちをした。

「…リカルド……。5、6人ならなんとかなるかと思っていたけど、さすがにこれでは多勢に無勢だわ」

「……そうだね…」

5、6人ならなんとかなるの?とエレーネは驚いて聞いていた。リカルドは両手を軽く挙げて、グレイに伝える。

「…そうですね…。子どもを雇わないというのなら、ここには居ないかな? ひとまず今日は諦めます。……また、捜しに来るかもしれませんが…」

「…何度来ていただいても、無駄足ですよ。ご覧の通り」

そう言ってグレイは仰々しくお辞儀をする。潮時のようだ。4人は門を離れ立ち去っていった。その後ろ姿が見えなくなるのを見届けて、グレイは舌打ちをする。

「…今の男が言ってたのは、最近入ってきたガキみたいな奴のことだな。何が身寄りのない、足が付かない者だ。見つけ出されてるじゃねえか。しかも15歳かよ。流石に子どもに手を出すのはまずいってのに…。あの野郎…、今度来たら文句を言っておかないと」

ゴナン達を売りに来た食堂の男への文句を苦々しく呟き、横の私兵に尋ねる。

「あのガキは、どうしている?」

「いや、それが……」

そう言って、私兵はグレイに耳打ちをする。グレイはふん、としかめっ面になる。

「そうか…。まあ、仕方がねえな。畜生。こんなにすぐに使い物にならなくなるなんて、無駄金じゃねえか。つくづくついてねえぜ」






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