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勝手に1日1推し 63日目 「緑茶夢 傑作集」②

「緑茶夢(グリーンティードリーム)傑作集」(1~4)森脇真末味     漫画

昨日に引き続き、森脇真末味先生の傑作集をお届けします。再びとなりますが、昭和55年の作品です。しかし、今読んでもぎょっとするほど新しく、辛辣な作品の数々です。

傑作集には、表題作の「緑茶夢」以外にもたくさんの短編が収録されております。古式ゆかしい女の子像とは一線を引く、自分の世界や自立心を持つ女の子の物語だったり、一筋縄ではいかない恋模様を男の子視点で描いたり、ファンタジータッチで描かれている作品に悲哀が漂っていたり、明るい表面的な部分とは裏腹にチクリとする痛みが描かれている点が素晴らしいなって思います。綺麗な薔薇には棘がある、みたいな。どの作品にも一ひねりあって、憎いですね~。主人公だけでなく、登場人物のセクシュアリティが多彩で、存在するだけで重要な役割を担っている、且つ、強烈なオーラを放っているのもとても斬新ですので、未読の方には是非味わっていただきたいと強く思います!!

中でもロックバンド「スラン」のシリーズは格別です!胸熱です!凄い好きです!!多くの方が支持しているのは当然のこと!かの歌人、穂村弘さんは「「スラン」のボーカル安部弘から弘の名前をもらった」とまでおっしゃっております!(48日目参照)

分かるなあ~、かっこいいもん、弘は。溢れる才能を持て余し、感情の赴くまま、凶暴に横暴に振る舞うけれど、繊細で弱々しい部分を併せ持ち、そのちぐはぐさが特異な曲を作り出したり、圧倒的なパフォーマンスを生み出したりしているという、とても複雑で、それゆえ、とんでもなく魅力的な人物なんです。正に天才って感じがひしひしと伝わってきます。ルックスがお美しいってとこも、乱暴な素行とのギャップにグッとくるんだなあ。迸るパッション、荒ぶるソウル、ロックです!

ロックバンド「スラン」とマネージャー水野礼二との関係は、まるでビートルズとブライアン・エプスタインみたい!!ドキドキです。勝手にメンバーを連れてきたり、無理やり売れるための策を押し付けてきたり、、、衝突と和解を繰り返します(主に弘と)。その内情を様々な事件を通し、緻密に浮かび上がらせます。心理描写が秀逸~。さながら記憶に新しいクイーンの伝記映画「ボヘミアン・ラプソディー」やオアシスのドキュメンタリー映画のようですよ!

弘のわがままな言動も、彼ありきでスランが回っているのを自覚する彼より年上のバンドメンバー達は兄のように温かく見守りますが(弘はまだ16だから~)、対照的に年の近いマネージャーの礼二とは、いざこざが絶えません。その年近さゆえの対立ですが、そこには他のメンバーとは違う関係性が生まれます。礼二は弘の才能に全幅の信頼と少しの嫉妬を感じ、弘もまた同様に感じているのです。

みんなは受け止めてくれる 礼二はつきはなす 反対ばかりする 許してくれない だけどみんなはおれの手のとどく所にいない おれがつかめるのは礼二だけだ 礼二がいなくなったら おれはやさしい人間にとりまかれて ひとりぼっちだ

この弘の告白、震えます。

礼二は自身の力ではどうすることも出来ない弘から解放されたいけれど、彼の才能を諦めきれない。逆もまたしかりな弘なわけで、その葛藤の描写がこれまた素晴らしいし、お互いなくてはならない存在であるという痛々しい関係性にもうっとりしちゃいます。結局、こんなこと言われたら、ほだされちゃうよねえ・・・友愛・家族愛・恋愛・・・

更に、弘の成長と共にバンド自体が成長していくのもファン冥利に尽きると言うか何と言うか。シリーズとしての醍醐味がありまくります。

ちなみに、特に気に入っているお話は「アンバランス・シティー」と「黒いサンダル」です。

外部メンバー仲尾から売れるために曲のアレンジを強いられるも、非凡な才能をバンドと礼二に証明し、その実力をしらしめる弘。圧倒的な弘のパフォーマンス後の仲尾の言葉が印象的です。

うけないどころか聴けないぜ ましてやレコードなんて出せるものか

こういった曲こそ、世界の音楽の歴史を変えてきたんでしょ?って話。正に弘の曲は、そして歌声は、そういう存在なのです。メンバーも礼二も、もちろん弘を選びます。痺れます。(「アンバランス・シティー」)

知名度の高い夏のフェスの参加に揺れる弘。悩みながら訪れたライブハウスで偶然面識のあるコミックバンド「桃色軍団」大城から女性用の黒いヒール付きサンダルを譲り受けます。

その実、ライブの大小の価値や、バンドの在り方、ボーカルとしての立ち位置などに悩み、更には以前のステージでの失敗への恐怖心もぬぐえないでいた弘だったわけですが、悩みに悩んだ末、大城から手渡された黒いサンダルを履いてステージに上がります。

どこまでいっても不安定なら ビクつきながら歩くのはいやだ 失敗をこわがるのはいやだ 思い出すのもいやだ どうせならハデにころんでやる

この行動を起こすまでのストロークが本当にいいんです!出演したいけど出来ないバンドマンの声を聞くんです。畑違いのおもしろコミックバンド「桃色軍団」大城から学ぶんです。大きくなったね、弘。母か叔母の心持ちで涙しました。最終的にハデに転んでしまっても大丈夫っていう、最高のオチが待っておりまする。かっこええー。(「黒いサンダル」)

スラン最高!もう「スラン」というバンドが実在していないなんて信じられません。もうファンでしかありません!ありがとう!「スラン」。ずっとついていきます!「スラン」。そのためにも、正式ドラマーは雅子ちゃんでお願いします。

ということで、推します。


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