予測変換の静かなる侵略
iPhoneユーザーなのでアンドロイドもそうなのかはわからないが、スマホのフリック入力時の予測変換が日々アップデートされていて、最近、文字列が正しくなくても推測で変換候補を出してくれるようになった。
これは、ガラケーやパソコンの予測変換に慣れた身としてはかなり衝撃的なことだった。
打ち間違えたとしても訂正せずに意図した文字列が入力できる。
具体的には、「いいさつ」と打っても「挨拶」が第一候補にあがる。そのあと、「あいさつ」「いい撮影」「アイサツ」「イイサツ」ときて「いい札」「良い札」「いい撮」と続く。
従来の予測変換であれば、「いい札」がもっと上位に来てもいいはずだが、「いい札」よりも「挨拶」のほうが使う人が多いというデータから、入力された文字列よりも、打ち間違えた可能性のほうを優先して出したことになる。
どう考えても「いい札」のほうをより多く使う世界線はない。札コレクターか。
ただしこれも万能ではなくて、例えばひとつ右にずれて「かいさつ」と打ってしまったら、当然「改札」「改札口」「改札機」「開札」「カイサツ」「改札内」と並んでしまって「挨拶」が出てくることはない。
推測のアルゴリズムがどうなっているかは不勉強にして理解できないのだが、上下左右どこに間違えても修正してくれるというわけでもなく、成立する言葉がなければ広範囲で推測を出すということでもなく、常人の考える「普通」のやり方ではなさそうだ。
おそらく機械学習に近いこと(もしくはそれそのものかもしれない)をさせているんだろうと思うが、機械になにかを教えるというのは人間を含む生物の学習とはどうも違うんだろうなという印象がある。
端的に言うと、「こうなったから次はこうなるだろう」というのが学習の根本的なところで、我々はそれを感覚的にやってしまっているから、「機械に分かるように」説明することができない。
よく挙げられる例でいうと、我々はなぜ犬と猫を見分けられるのか。チワワとポメラニアンとドーベルマンとサモエドを同じ「犬」とし、マンチカンとアメリカンショートヘアとスコティッシュフォールドとサイベリアンを同じ「猫」とすることができるのか。種類の名前を知らなくても、雑種でも、これ犬?猫?とわからなくなった記憶がないのはなぜなのか。
我々はなにを指標として物事を認識しているのだろうか。
機械と生き物にその差があった時、それは「人間が作った」からだろうか。
それとも、そこに「命を命たらしめるもの」のヒントがあるのだろうか。
だいぶ哲学に寄ってしまったが、これ以上の引き出しがないので本来予定していた道筋に戻る。
予測変換が進化してきていて、打ち間違えにも対応してくれるほど便利になった、という話だった。
ついでに言うと、パソコンにはなかったがガラケーで登場した機能として、変換のみならず、次の単語を予測するというものがあった。
あれはキーボードを両手で打つ前提のパソコンに比べて、親指一本で、しかも連打する必要があるガラケーの弱点を補うためのものだと認識しているが、自分の意図するところと一致さえすればかなり便利だし、以前使用した単語を記憶するのでどんどん自分用にカスタマイズされていくものだった。
だからこそ、他人に見られてはいけない単語を隠蔽する必要があったりしたものだが。
今はおそらく、自分の履歴の記憶もあるだろうが、それよりも全世界から集めたデータを利用して全体をアップデートしている面が強いように思う。
そこで、だ。
予測変換は打ち込んだ文字と100%一致する必要がなく、次の単語も推測として表示される。
自分の履歴に完全に従うわけでもなく、集められたデータが個々人のデバイスに反映される。
自分が考えている文章がなんとなく頭にあり、でも完全には言語化されていない状態で、サジェストされた単語が目に入って、そっちのほうがいい得ているかもしれないな、と思って表現を変更したことはないだろうか。
あるいは、サジェストされた単語がいくつも視界に入ってくることで別の思考が始まってしまい、もともと考えていた文章がなんだったか思い出せなくなるといった経験はないだろうか。
それが重なって、もともと考えていた文章の表現はちょっと違ったはずだけれど思い出せないし、だいたい言いたいことは似ているからまあいいかとサジェストされた単語で投稿することになったことは?
それ、本当にあなたが表現したかった言葉ですか?
ちょっとホラー気味になってしまってこの時間帯にはぞっとしないんだが(ぞっとするのとぞっとしないのが同じ意味なのは日本語学習者にちゃぶ台返しされても仕方のないレベルだと思っている)、
つまり、予測変換のほうに自分の思考や発言が引っ張られることってあるんじゃないか?という話。
あるいは、星新一のショートショートの世界なら、予測変換を操作することで、意図的に民衆の思考をコントロールできるのではないか、とか。
それが科学者を利用した政府や王様の独裁化なのかもしれないし、どちらかというと星新一なら機械を利用しているつもりで機械に支配される人間、のほうを描くかもしれない。
そういったホラー気味のSFというか、あるいは風刺的な小説のネタになりそうだなーと思った話。
ほんとはもうちょっと寝かせて小説風にしてから出した方がよかったかもしれないけど。
でもやっぱり、陰謀論を主張するつもりはなくとも、予測変換に惑わされずに自分が思い描いていたほうの文章を書くように気を付けていきたいなーと思っている話。
ご覧いただきありがとうございました。
5月26日、2000字、1時間
ご覧いただきありがとうございます。 いただいたサポートの使い道はまだ決めておりませんが、大事に使わせていただきます。おやつになるかもしれないしPhotoshopになるかもしれません…