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Notefolio #14 | 対妖怪加湿器OFF魔決戦兵器、加湿器ロック

冬、加湿器の季節。
人は乾燥した空気に潤いを求めて、人工的に加湿する。
なぜ冬は空気が乾燥するのかと言えば、単純に言えば家の中を温めると、飽和水蒸気量は増えるのに、空気中の水分量は変わらないため相対的に湿度は下がるからである。

我が家には1歳の娘がおり、よりよい住環境のためにと加湿器をつけている。SHARP製である。
しかし困った事に我が家にはいつしか妖怪が住み着くようになってしまった。妖怪加湿器OFF魔である。

今では多くの家電にチャイルドロックという機能が付いている。この加湿器も例外ではなく標準装備されている。

チャイルドロックがどういう機能であるかは説明不要であると思われるが、このSHARPの加湿器には困った仕様がある。
それは、チャイルドロックをONにすると全てのボタンが操作不能になる。電源ボタン「以外」は。

つまり、いくらチャイルドロックをONにしても、電源ボタンを押せば加湿器は機能を停止してしまう。そして再びONにするには、一度チャイルドロックをOFFにしてから、電源ボタンを押す必要がある。

このチャイルドロックは、あるボタンを「3秒以上」押すとONになるというよくある仕様であるため、つまり、一度妖怪加湿器OFF魔の攻撃をくらうと、チャイルドロックを解除してから電源ボタンをONにし、再びチャイルドロックをONにするというとてもめんどうな事をしなければならない。とても、めんどう、なのである。大事な事なので2回言っておこう。
しかも妖怪は、すばやく現れる。

そう、妖怪とは娘である。

そんなわけでしばらく頭を悩ませていた僕の頭にあるアイデアが降ってきたので、作ってみた。
対妖怪加湿器OFF魔の対策グッズである。

動画を作ってみたので、ご覧になっていただきたい。

開け方を知らないと開けられない機構になっており、つまりこれは一種の鍵と言ってもいいかもしれない。

そして、以下は特に読まなくてよいものづくり的解説風ポエムである。

アイデアと仕組み

アイデアを思いついてから設計、3Dプリント、組み立て、取り付けまで2日かかった。本当は1日で終わらせる予定だったのだが、クリアランスの調整に何度か3Dプリントしたため時間がかかってしまった。

仕組みはこのようになっている。

内部の円筒形のレールと、それに沿う爪の付いたツマミが鍵となる機構、構造となっている。
レールは上下2本あり、それらを「ある箇所で」行き来する事ができる。下のレールがロック用で、上のレールが電源ボタンを押すための導線となっている。「ある箇所」は、外から見ても分からず「知って」いる必要がある。

上記の動画を元にもう少し詳しく動作を説明すると、ロック用の下レールに鍵爪がある状態では、ツマミは70度程度しか回すことができないが、この70度のちょうど真ん中の位置でツマミを引き上げると上のレールに移行できる。そのまま45度程回転させると下方向のレールに合い(これはケースに目印があるため角度を覚えて置く必要はない)、ツマミを押すとそのまま加湿器の電源ボタンを押す事ができる。
あとは、この手順の逆の操作を行い、再びツマミの鍵爪をロックの位置に戻す。

つまりまとめると、(ツマミ)鍵爪を下のレールに沿わせ「ロック状態」にしておき、電源ボタンを押せないようにしておく。そして電源ボタンを押す必要があるときは、「知っている解除の手順」を踏みボタンを押す。逆の手順で操作し、再び「ロック状態」に戻す。

設計と出力、組み立て

大まかな流れは、3D CADで設計し、3Dプリンターで部品を造形、そして組み立てて、加湿器に取り付けて動作確認。
というかいつもの流れである。

3Dプリンターならではの設計の工夫としては、断面が四角い鍵爪やレールだと造形が難しいので、断面が三角の鍵爪、レールにした。こうすることで、アンダーカットが45度となり、問題なく(プリンターにもよるが)造形される。

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また、ツマミが抜け落ちないように、レールとなる円筒形の部品とケースに分割し、ツマミを挟むようにして組み立てられるようにした。
細かいことを言うと、円筒形のパーツ上部にツマミが鍵爪ごと入るようにレールを分割し隙間を作り、ケース側には分割したレールが付いている。互いのパーツを嵌合させると、ちょうどはまって一つのレールとなる。

UIの工夫

少しだけUIの工夫について。

この加湿器ロックを上部から見ると、ツマミとケースにそれぞれ目印がある。
前述のとおり、この鍵を開閉するにはツマミの角度がポイントなのでそれを合わせる目印とするためだ。

必要な目印は、「ツマミの角度」が、「ロック位置(範囲)」と、「ロック状態を解除する位置」の2つだ。

この2つの角度をケース側に造形として表現した。

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造形しただけだと見にくいので目立たせるためにカラーリングするのだが、その位置が問題だった。
そして結論から言うと、ケース側は「ロック位置(範囲)」のみカラーリングした。

理由は、(1)視線や意識をロック位置に誘導したかったのと、(2)ロック解除位置をあまり目立たせたくなかった、(3)そしてロック解除位置にカラーリングすると通常はその位置にツマミが合わせられていないのでツマミとの位置ずれを強調することは気持ち悪かったからだ。

妖怪を撃退して

加湿器ロックを取り付けて以降、妖怪加湿器OFF魔は成すすべもなくその姿を消した。
加湿器にひとときの平和が訪れた。
しかしこれは戦いのほんの序章に過ぎない。
娘はいつこの「知ってしまえば単純な機構」をクリアするともわからない。

子供とは成長のスピードが驚くほど早い。(まじで早い)
娘はよく某Eテレ番組の踊りを踊っているが、毎週毎週上達している。毎週新しい振り付けをマスターしている。まだ1歳だが?え、そうなの?
妻はピーカーブーもからだダンダンもべるが鳴るもマスターしているが、僕はピーカーブーがやっとだ。

おそらくお子さんがいらっしゃる多くの家庭で、子供の安全でよりよい暮らしのためにと様々な工夫・対策を凝らし、そして次々と突破されているのだろう。それはまさにセキュリティにおいて、ハッカーとのいたちごっこと相似形かもしれない。全国のお父さん、お母さん、お疲れ様です。

冷静に考えてみると、こんなものにわざわざCADや3Dプリンターを持ち出して独自の機構まで設計してちょっと大げさすぎるかもしれない。でも僕にはこのやり方がすでに馴染んでしまっている事に気付いた。
過去には、SWITCHのコントローラー拡張とか、ペンチのフックとか、ワインボトルのクリスマスツリーとか、カメラアクセサリーとか作りました。

工学部出身にありがちな「なければ作る」スタンスもそうだが、「ハックする」というマインドを愛している。そして最近では「物との付き合い方」を再考する時期に来ていると感じている。大量生産と工芸、デジタルファブリケーション、そしてものづくりの民主化。これらのキーワードがとっちらかっているだけのような気がして、手を動かして物を作る、その先の暮らしや社会に対しての接続、僕らはどこに向かえばいいのか。そんなことをぼんやりと考えている。

いつになく真面目っぽくまとまったところでそろそろ締めようと思いますが、僕は内心、加湿器ロックが取り付け数日で突破されてしまうのかとびくびくしている。いや、それはそれで喜ばしい事なのかもしれない。複雑である。

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最後に申し添えておくと、動画やアイキャッチのフォント、マティスEB(通称、エヴァフォント)じゃない事をここに謝罪しておきます。持ってなかった。雰囲気似ている小塚明朝でお茶を濁しました。お茶うまい。

最後の最後に念の為申し添えておくと、当記事に決してSHARPをdisる目的はありません。エアコンもSHARP使ってますし(謎のアピール)


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