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【#キナリ杯応募作品】 フルテン!

フルテン[Full ten]
ボリュームやトーンなどのつまみの位置を最大にすること。
もともと、アンプなどのつまみには0から10までの数字が振られていることが多いことから、最大値の10の位置にすること=フルボリュームにする事を指して「フルテン」と呼ぶようになった。転じて、ギターやベースについているボリュームやトーンコントロールについても、最大の値に設定することを「フルテン」と言うようになったという。(民明書房刊「バンドマン用語早わかり」より)

1

大衆割烹「大さき」は、都心から出る私鉄電車に乗って15分ほどの、各駅停車しか止まらない駅の、商店街と呼ぶにはいささか短い路地を進んだ先に、こじんまりと佇んでいる。縄のれんの向こうから、今日もいつもと同じように焼き鳥の焼ける良い匂いがしている。

その日の夕方、僕が2杯目の芋焼酎の水割りを飲み干そうというところに、ひょっこりこの店の常連、オグさんがやってきた。
「よう」
「こんばんは、…て、オグさん、何しょって来たの」
オグさんは「ああ、これね」という顔をして、瓶ビールちょうだいとカウンターの向こうにいるバイトのかなちゃんに伝えると、よっこらせ、と何やら年寄りじみた動きで楽器のケースを壁に立てかけて、運ばれてきたおしぼりで顔を拭き、ビールをかなちゃんに注いでもらって、くいと旨そうに呑んでから、
「ありゃね、タカちゃんに頼まれて持ってきたの。ベースだよ」
「ベース?オグさん、ベースやってんですか?」
「あれ、言ったことなかったっけ」

僕がこのお店でオグさんと喋ることと言えば、今年の阪神は調子良いだの悪いだの、挙げ句は85年のバックスクリーンへの3連続ホームラン、あれは凄かったという話ばかりで、音楽やバンドの話なんてついぞした記憶がない。

「まあバンドなんて社会人になってからはほとんどね…頼まれて他のバンドの手伝いをすることはあるけどね。あとは家でちょこちょこと弾く程度でね」
「あ、小倉さんいらっしゃい。今日はわざわざすみません」
カウンターの向こうから、タカちゃんがお通しとメニューを持って現れた。
「まあ、良いって。うちのベースも、タカちゃんがステージで弾いてくれたら本望だろうよ」
ありがとうございます、と言って、タカちゃんはちょっと頭を下げると、板場に戻っていった。
「タカちゃんもベース弾くんですね」
「うん、文化祭でね、ライブやるって言うからさ」
まあ、アレだよね、と言いさして、オグさんは煙草に火を付けながら、
「文化祭のライブってのはさ」

オグさんに言わせると、こういうことらしい。
色気づいてくる年頃の男子高校生にとって、勉強のできるヤツは期末試験、スポーツのできるヤツは体育祭で、それぞれ「キャーキャー言われる」機会がある。だけど、どっちも駄目なヤツはどうすれば良い?そこで文化祭だよ。そこでは、どんなジャンルであれ「認めてもらえるチャンス」はある。中でも「バンドのライブ」は最高の機会なのだ、と。

「まあ、音楽を高校生あたりで音楽を始めるヤツってのは、クラシックとか吹奏楽とか真面目なやつは別として、ギターとか始めちゃう男子ってのは、だいたい『モテたい』ってのがきっかけだろうね。ま、女の子の場合はよくわかんないけどさ」

高校生の頃「鉄道研究会」にいた僕にとっては、わかるような、わからないような話には違いないのだけれど、それでもやっぱり、オグさんの言わんとする所はわかるような気もする。
僕はアイスペールから氷をグラスに移して、ちょっと濃い目に芋焼酎を入れ、水割りを作った。
オグさんはおかわりのビールを頼んだ。

タカちゃんは、去年からこのお店でアルバイトとして働いている。アルバイトと言っても、実はタカちゃんはこの「大さき」の、大将の妹さんの息子で、大将から見れば甥っ子である。タカちゃんは今、都立高校に通っていて、いずれは調理の道に進みたいらしく、それで修行、というほど厳しいものではないのだろうけれど、この「大さき」で仕込みや洗い物などの手伝いながら、大将から料理の手ほどきを受けているそうだ。来年からは調理の専門学校に行くつもり、ということなのだが、そんなタカちゃんがオグさんに「ベースを貸してほしい」と言い出したのは先週のことらしい。

「タカちゃんがさ、『小倉さん、ベースやってるんですか』ってね…ああ、ありがとう」
かなちゃんが運んできた熱々のもつ煮込みに、やや乱暴に七味唐辛子をかけながら、
「先週ねえ、『雪月花』の菜々子ママとさ、ここで呑んでて…で、何でそんな話になったのか覚えてないんだけど、なんかのはずみで、C-C-Bの話になって」
「C-C-Bって、あの止まらないヤツですか。懐かしい」
「うん、そそ。でね、C-C-Bのベースの人って、ストラップが短くて何かベースの位置が高くて、変な感じに見えたって話をね、ママが言うもんだからね…あちち」
煮込みは、まだ冷めていなかった。

「それは違うかもよって説明したんだよね。ベースのストラップの長さ、つまりベースをどの高さで持つかってのはね、格好良く見せたければ低いほうが良いんだよね」
「まあ、確かに低いと余裕で構えているように見えますもんね」
僕の頭の中に思い出せる「いかにも悪そうなハードロックのバンド」のイメージは、確かに楽器を低い位置で構えているような気がする。

「でもね、実際には低くすると、とにかく弾きづらい。右手のタッチもいいかげんになるし、左手のミュートもうまくできなくなる。逆に、高い位置にあれば、奏法としては安定する。ただし」
「見た目がダサい」
つまり、ベース・ギターという楽器においては「見た目とテクニックは反比例する」ということらしい。
「そういうもんなんですねえ」
「だからさ、C-C-Bのベースの人は、結構テクニック志向なんじゃないのかなって話をしてたら、カウンターの向こうで洗い物をしてたタカちゃんがさ、カウンターを乗り越えてくるんじゃないかってな勢いで、「小倉さん、ベースやってたんですか」ってさ、聞いてくるのよ、でねえ…話を聞いたら、ちょっとね…力を貸してあげたくなってね」

辛いなあ、これ、とオグさんは小さい声で行った。やはり、七味をかけすぎたらしい。

オグさんの語ったところによると、こういうことらしい。
タカちゃんはもともとお父さん(タカちゃんが中学生になったばかりの頃に、病気で急逝してしまったのだが―)の影響で、小学生の頃からエレキギターの手ほどきを受けていて、中学生の頃にはまあまあ弾きこなせるようになっていたそうだ。高校に進学すると、タカちゃんは早速、軽音楽部に入った。気の合う友達も出来て、バンドも組んだ。
軽音楽部にとっては、やはり文化祭のライブは一番のイベントである。とはいえ、時間にも機材にも限りがある中で、全ての部員が文化祭のステージに上がれるわけではない。タカちゃんも高1の時は裏方に徹し、高2の時は先輩のバンドのサイドギターでようやく文化祭のステージに立てたそうだ。そして今年の春である。3年生に進級するタカちゃんは、ようやく今年の文化祭は自分のやりたいジャンルの曲がやれるとばかりに、文化祭でのステージを楽しみにしていたのは言うまでもない。

タカちゃんの演りたいジャンル。それは現在、つまり2008年の日本においては、もう「懐かしい」と言われるようになった「フュージョン」というジャンルで、それはつまりロックとジャズの融合したような音楽であって、よくテレビの天気予報や、スーパーのBGMでかかっている音楽、といえばわかりやすいかもしれない。一番わかりやすいのは、あのF-1の番組でかかっていた「ジャジャン、ジャジャ、ジャジャジャジャ、ジャジャーン」という、大仰な音のイントロで始まるあの曲なのだそうだが、それにしても、タカちゃんの世代が演奏したいというには、随分と大人びているように思えるジャンルには違いない。しかしタカちゃんにとっては、それは小さいころから、お父さんの運転する車のカーステレオで普通に聴いてきた音楽なのであって、フュージョンというジャンルも、タカちゃんにとっては未だに「現在進行形」のジャンルなのだそうだ。
さらに、この春休みには、バンドのドラムの子の紹介で、吹奏楽部でサックスを吹いているという子を紹介されたタカちゃんは、彼に今年の文化祭のライブを手伝ってもらえるという約束も取り付けることができて、これからだ、と思った矢先に。

軽音楽部で一番仲の良かった、ベースの子が、家の都合によってどうしても転居せざるを得なくなり、高校を転校することになった、というのである。
高校3年生での高校の転入は非常に珍しく、また難しいことであるのだそうだが、そうしなければならないほどの事情があった、ということなのだろう。タカちゃんはその子にあまり詳しいことも聞けぬまま、その子とお別れすることになってしまったのだという。

そんな気分で、バンドどころでもないのだが、タカちゃんにしてみれば高校生最後のライブである。やはり、ステージに立ちたい、という思いを消し去ることはできなかったし、そうしようと思っても、やはり思いが止まることはなかったのだろう。
しかし、新たにベースを探そうにも、それは言うほど簡単なことでもない。第一、べ―スというパート自体、高校生に限った話ではなく、プレイヤー人口そのものが決して多いわけではない。当たり前の話ではあるが、どのバンドでもベーシストを複数、必要としているわけではない。だが一方で困った事には、ベースはやっている人間が少ない一方で、バンドには必ずいなくてはいけないということであった。
このことはドラマ―についても同じ事が言えるが、高校の軽音楽部では、ドラムはやはり人気のパートであることは事実で、その点がベーシストと異なる、のだそうである。

結局、タカちゃんが最後の文化祭ライブに出るためには、自分でベースを弾くしかなくなった。
ギターをやっていたタカちゃんとしてみれば、ベースもさわったことはあり、弾きこなす自信がないでもなかった。もちろん、フィンガーピッキングやスラップといった、ギターとは異なる奏法テクニックが求められる分、決してハードルが低いわけではなかったが、タカちゃんはそれを乗り越えようと思ったのだ。
しかし、機材がない。部室にはベースが2本あるが、借りられるにしても日数は限られる。そんな日数では、ベースをマスターするのには到底覚束ない。
だから、タカちゃんは何とかしてベースを手に入れたかった。買うといっても、今のアルバイト代では高はしれているし、家庭も決して裕福であるというわけではなかった。せめて、ベースを貸してくれる人が欲しかったのだ。そして、できることなら、部室のボロいプレシジョンベースではなくて、楽器店で見とれてしまうようなベースでプレイしたい。誰か力を貸してくれる人はいないか。しかし、ベースをやっていた卒業生は、あまりタカちゃんと相性が良くなかったようで、相談するのもあまり気が進まなかった。
そんな悩めるタカちゃんが、思わぬところでオグさんのベース談義を聞いた。いつもカウンターで、機嫌よく呑んでいるこの人なら、お願いできるのではないか。タカちゃんはとっさにそう思ったらしいのだ。

お店もだんだんとお客さんが少なくなってくる時間に差し掛かる頃になって。
「じゃあ、タカちゃん。例の物、ちょっと見てみるかい」
オグさんは、やおらケースを持ち出すと、ファスナーを開いてベースを取り出した。

「ん。タカちゃんのリクエストどおり、家で一番音のパワーのあるヤツを持ってきた」
オグさんのベースは、ちょっと暗めの赤い色をしていて、その赤色の向こうにさざ波のような木目が浮き立っている。金属のパーツは磨き抜かれたかのような金色をしていて、お店の照明を受けてきらきらと輝いていた。
「わー、すげー。綺麗ですね」
ふふっとオグさんは笑うと、タカちゃんにちょっと自慢げに、
「2004年、チェコ製のスペクター、NS-4だよ。EMGのピックアップと、イコライザーが乗ってる。スルーネックで、ボディはフレイム・メイプル、とね。出音は完全に『ズンビン系』だよ。ま、こんなの弾いている高校生は滅多にいないだろうな」

こんなに饒舌で、専門用語ばかり喋るオグさんを、僕は初めて見た。
なんとなく、今夜のオグさんは生き生きとしている。
「ズンビン系って、何ですか」
「うん、ズンズンビンビン。ベースの音の、低い周波数のところと高い周波数のところががっつり強調された音ってことだね。だけど『ドンシャリ』っていうのとも、ちょっと違う。まあ、海外製の楽器に良くある派手めの音だよね。洋楽なんか聴くとさ、やっぱりなんかこう、景気の良い音してるじゃん。『どぅんつくぱー』みたいな。ああいうのはミックスがそうなってるからって事もあるけど、やっぱり楽器の出音からして性質が違うってのもね…あるような気がするね」

タカちゃんはちょっと緊張した面持ちで、「ベース、ちょっと持たせてもらっていいですか?」
「おう、いいよ、ってか、今夜連れて帰っていいんだし、抱いて寝たって構わない。しばらくはタカちゃんの好きにしていいんだぜ。可愛がってやりなよ」
タカちゃんと一緒にオグさんのベースを見に来たかなちゃんが、少しだけ赤面した。
「それとね、エフェクターね。BOSSのGT-6B。まあベースのエフェクターとして、欲しいエフェクトは全部揃っていると言っていい。ただ、こいつ重いったらないんだよな。ま、タカちゃんは若いから大丈夫か…で、貸し出しの条件だが」
「はい」
「もちろんお金なんかはいらないよ。ただね、練習した後は、必ずベースをウエスで乾拭きすること。これだけは欠かさないように頼むよ。それだけ守ってくれたら良いから。それに」
「タカちゃんが文化祭のライブでいいプレイをして、俺のカタキをとってくれたら、それでいい」
僕はオグさんがさらりと言った「カタキ」ということが気になったのだけど、今夜は何となく、それを聞くタイミングではないような気がした。

それから、また一週間が経とうとする頃。
「大さき」のカウンターには、いつものように、いつもの二人が座っている。

「オグさんって、ベースを始めたきっかけは何だったんですか」
「うーん、それはね。やっぱり細野さんになりたかったからかな」
「あ、あのYMOの」
「そそ。まあ、確かに細野さんになりたかったんだけど、正直なところ、ギターが上達しなくてさ」
「じゃあ、最初はギターを?」
「うん。でもねえ、ほら、よく聞くでしょ、Fのコードが抑えられなくてギター挫折したって話。実はね、俺はFはすんなり弾けた。だけど」
オグさんはビールを一口呑んで、しみじみと言う。
「Fを押さえたら最後、そこからコードチェンジできないの。つい、次のコードで何弦のどこを押さえるんだって考えちゃうんだな。あの頃は、世の中にFだけの曲があればいいのになー、なんて思ってたよ。ま、中学生の頃ってのはバカバカしい事を考えるもんだよねえ」

「タカちゃん、ベース頑張ってますかね」
「まあギターはまあまあ弾けてたみたいだし、タカちゃんなら大丈夫だろうね…ただねえ」
「何か心配なことが?」
「なまじギターをやってるからこそ、ちょっと心配というかね。ベースやってる人間としてはあんまり言いたくないんだけど、ギター弾いてるヤツが弾くベースって、とても上手く聴こえることがある…なんでだと思う?」
「やっぱり同じ弦楽器だし、すぐに弾きこなせるようになるから、とか?」
「まあ、そうだねえ。ギターは6弦、ベースは4弦。実はギターの弦の低い方の4本を1オクターブ下げたものがベースだから」
「じゃあ、ギターの基礎が出来てたら、すぐにでも弾けるってわけですか」
「まあ、弾けるには弾ける。でもね、ベースはリズム楽器だから」
「うん?」
「あんまりうろちょろされても困るってところがあるんだよ。ギタリストがギターを弾く感覚でベースと弾くと、無意識のうちに、運動量が多くなりがちになる。それほど必要のない音が無駄に増えちゃうんだよ。それはテクニックとしては素晴らしいかもしれないけど、聴いてて気持ちのいいベースじゃないかもしれない」
「なるほどね、ベースとしては、どっしり構えていたほうが良いってことですか」
「まあ、極端に言えば、ね。音の数よりも、出すべきタイミングで、出すべき音が出ているってのがベースの本分だろうね。特にタイミングは大事だね。最悪、音程を間違えても、聴いてる方はあんまり気づいてないってこともあるんだよね。でも、タイミング、つまりリズムが狂うと、てきめんに気持ち悪く聴こえる」
「いわゆる、あれですか、『走る』とか『モタる』っていうやつ」
「そうだねえ、そこがキープできないと、他のパートの人も困るし」
「リズムって、ドラマーが仕切るんだと思ってた」
「確かにそうなんだけどね。ドラマーが決めたビートを、何て言うんだろな、他のパートに通訳するのがベースって言うかさ。ギターにしろボーカルにしろ、『ベースをガイドにして弾いてる』って人は多いよね」

「だからベースやってる人は変に責任感が強いんですよね、職人肌というか」

「あれ、ゴンちゃんいつから来てたの?全然気づかなかった」
「やだな、さっきからいましたよ。なんかオグさん、デラさんと話し込んでるから挨拶できなかったっすよ」
ゴンちゃん。このお店に通い始めてから3ヶ月くらいだろうか。ゴンちゃんは聞けば誰もが知っている音響機器メーカーに勤めているのだが、いつもどこか銀行員を思わせるような、きりっとしたスーツとネクタイを着こなしている。

「で、バンドの話ですか。僕も昔はやってましたねえ」
「ゴンちゃんは何やってたの」
「僕はギターやってましたよ。シナロケなんかをコピーしてましたね」
「お、鮎川誠に憧れたクチだね」
「ですねえ、初めて手に入れたギターは黒のレスポール・カスタムでしたからね。もちろん、日本製のコピーモデルですけど」

ゴンちゃんが二杯目の梅干しサワーの、中に入っている梅を割り箸でぐしぐしと潰しながら、ちょうどいい頃合いになったところで、
「じゃあ、改めて乾杯」
僕はいつもの芋焼酎の水割り、オグさんは日本酒を呑んでいる。
3人がグラスを合わせたところで、
「おつかれさまです、あ、皆さんいらっしゃい」
学校帰りなのか、制服姿のタカちゃんが、背中に「Spector」と書かれたケースを背負って出勤してきた。

「今日のおすすめは、と」
ゴンちゃんは、いつも「今日のおすすめ」が書かれた、お店のホワイトボードのチェックに余念がない。
「大将、いわしのつみれ煮をください。それとニラ玉も」
「お、つみれか…旨そうだな。大将、俺にもつみれ煮ちょうだい」
オグさんが続いたものだから、つい僕も
「じゃあ大将、僕にもつみれお願いします」

「あいよっ。ニラ玉に、つみれ都合3つ…と。はい、つみれは山ね」
大将の元気な声が飛んだところで、タカちゃんがいつものTシャツ姿になって、この店でのいつもの居場所、カウンター越しの洗い場にやってきた。

オグさんが、「どうだい、ベースの練習はいい感じに出来てるかい?」
「はい、あのスペクター、凄い音ですね。ローなんか、がつんって感じですよ。部室のベースとは比べ物になりませんね」
オグさんは良かった、という表情で、目を細めながら、グラスの日本酒をつい、と飲み干してから、グラスを軽く上げて、
「おかわりを、ね」
「タカちゃん、イコライザーはあんまりかけすぎない方がいいね。フルテンにするのは、ここぞという時だけにしたほうがいいよ」
バイトのかなちゃんが、ラベルが米粒の形をしている一升瓶を大事そうに抱えてくると、オグさんのグラスに、静かに、たっぷりと満たした。オグさんのグラスには、表面張力で、ふっくらとしたドームが出来ている。
「おっ、これは口から迎えにいかないとな」
オグさんが、カウンターに置かれたグラスに、そっと口を付けているところに、
「お待たせしました、つみれ煮です」
タカちゃんが、3人前のつみれ煮を持ってきた。
「旨い」
さっそく箸を付けたゴンちゃんが、しみじみ呟く。
「いい出汁だね、大将」

3

洗い物をしているタカちゃんに言っているのか、僕やゴンちゃんに言っているのか、オグさんがしみじみと「出汁…」とだけ言った。
「そうだ、タカちゃんも将来は料理人になるんだし、今ベースやってるからさ、これは伝えておこうと思うんだけど」
オグさんは、丁寧につみれを箸で半分に割って、口に入れながら、
「ベースはね、突き詰めると『出汁』みたいなもんなのよ」

「ベースは出汁、ですか」
謎掛けのような台詞をオグさんに言われて、面食らっているタカちゃんに代わって、ゴンちゃんが言葉を継いだ。
「で、そのココロは?」
「うん、それはねえ、ほら、ベースって基本一人じゃ成立しないでしょ。ベースの弾き語りとか」
「まあ、確かに。SAGAの人はいましたけどね」
ゴンちゃんがにやりとして、言う。
「そういう例外はあるにしてもさ。出汁だってそれ自体旨味の塊ではあるんだけど「それだけ」を口にしたりはしないでしょ。何か他の材料と合わさって、料理されて初めて「美味しい」ってなる。ベースもそう。他の楽器と合うことでいい音、いい音楽になっていく」
「うん、確かに」
「なるほど」
「それだけじゃないよ」
オグさんは、ここからが本筋だ、とばかりにタカちゃんに向き合うと、
「俺は料理についちゃ全くの素人だけどさ、出汁ってのは、よく出来た出汁であればあるだけ、何でも美味しくできちゃうってところがあるんじゃないかなあ…ここに大将の作った、つみれ煮がある。これは十分美味しい。これは大将の腕が確かだからこうなるんだけど、例えばだよ、ここに、かの道場六三郎が精魂込めてとった『命の出汁』があるとして」
僕は、オグさんの話がどこに向かって転がっていくんだろう、と水割りを傾けながら聞いていた。
「で、その道場先生の『命の出汁』でだよ、俺が作った、いいかげんなつみれを煮たとする。これ、つみれが多少不細工だったとしてもだよ、まあまあ美味しく食べられそうな気がしないか?」
「まあ、道場さんの出汁なら食べてみたい気もしますねえ」
「ところが、これが逆ならどうだい?道場さんが作ったつみれを、俺が悪戦苦闘してとった出汁で、煮るの」
「何か凄く、罰当たりなことをしているような気がします」
オグさんは、だろう?という顔をゴンちゃんに向けると、
「バンドの中でのベースって存在はね、実はこれにかなり近いんだよ。ベースが上手ければ、そこに乗っかるギターやキーボ―ド、ボーカルにさ、もし多少難があったとしても、それは「ちゃんと聴ける」ものになる。だけど、ベースが拙いと」
オグさんは、日本酒をまたつい、と呑んでから、
「とても食えたもんじゃなくなるって話だね」

「だからさ、タカちゃん。ベースをやるって以上は、他にリーダーがいたとしても、頭のどこかで「自分がバンマスだ」って意識は必要かもしんないよ」
「オグさん、随分ハードル上げますねえ」
ゴンちゃんはにやりとしながら、「タカちゃん、どうなの?小倉おとーさんの話、勉強になってる?」
タカちゃんは、洗い物の手を少しだけ止めて、「わかるような気がします。だけど」
「本当に今の自分のプレイで良いのか、よくわかんなくて…」
大将がカウンターの奥から、
「貴史、今日はもう上がっていいぞ。今夜は小倉さんの話を聞いて、ベースの事、教えてもらえ」

タカちゃんは前掛けを外すと、「失礼します」と挨拶して、カウンターの、小倉さんと僕の間の席に座った。僕はタカちゃんに烏龍茶を振る舞った。

「さて、と」
オグさんは、椅子に座り直して、居住まいを正した。まるでタカちゃんの師匠であるかのように。
「で、ベース、どうよ。メンバーとはうまくやれてるかい」
「そんなにミスはしていないと思います…ピックを使わないで、指で弾くのはちょっと慣れるまで時間がかかりましたけど、やれてます。スラップはどうかな…どうしても力が入っちゃいますね」
「まあ、チョッパーは見せ場、だからなあ。気持ちはわかる」
「スラップとか、チョッパーって何ですか?」
「スラップとチョッパーは同じもの、だよ。ベースの奏法でね。ね、オグさん」
「厳密に言えば、違うって人もいるけどね。最近の若い子はスラップって言うよね」

オグさんに代わって、ゴンちゃんが僕に説明してくれた。
「右手をこうやって、親指と人差し指だけ伸ばして、あとの指は、畳む。そう、『田舎チョキ』の形にして、それで、親指と人差し指で、ベースの弦を縦に揺らす感覚で叩く。すると、弦がネックのフレットに当たって、弦が「ゲン」とか「ンペッ」って鳴るの。ああ、弦が「ゲン」って鳴るってのは駄洒落じゃないから」
「初心者のうちはね、どうしても人差し指で弦を弾く『プル』に力を入れすぎる。一番それらしい音が鳴るからね。でも、手首の回転が大事なんだよチョッパーは。そうじゃないと、親指のサムピッキングの力が弱くなる。こうやって」
オグさんは自分の右手の人差し指を左手で包み込むと、そこを中心として右手の手首をくるくると左右に回す。
「チョッパーの時、右手はこういう動きをしているわけでさ、で、親指の外側の硬いところを弦に当てていく感じかな」
オグさんが左手で包んだ人差し指をくるくるとしているところに、バイトのかなちゃんが空いたお皿を下げに来たのだが、何を思ったのか、少し赤面してそそくさと下がってしまった。
「まあチョッパーに関しては、プルを意識しすぎないことだな。弾いてる本人が思ってるよりも、意外と強い音が出ているもんだよ。ここで弦を上に向かって強くはじこうと力を入れすぎると、手が開く。すると、その分帰ってくる親指の、弦を叩くタイミングが遅くなる。だからサムピッキングにこそ注意を払ったほうがいいね。プルに気を取られると、それだけリズムキープが甘くなる」

タカちゃんが、次にオグさんに聞いた、というより相談したのは、

「メンバーが自分のベースをどう思っているのか知りたい」

ということのようだった。それならそれでメンバー同士で正直なところを聞いてみればいいんじゃないか、と僕なぞは思うのだが、そこは高校生と言えどバンドマンである。なかなかそうもいかないところがあるんだろう。今年の文化祭のバンドにはドラムの子の友達で、吹奏楽部に入っている「腕っこきのサックス・プレイヤー」が入っているのは、すでにオグさんから聞いていたことではあったのだけれど、その「サックス君」のお父さんからして、この街ではちょっと名前の知れている「市民管弦楽団」でサックスを吹いているという「父子鷹」なのだそうである。耳も肥えていて、高校生らしからぬプレイをするというそのサックス君を前に、ベーシストとしては初心者のタカちゃんは、自分が足を引っ張っているのではないか、という不安もあるらしい。

オグさんはそんなタカちゃんの話を、たまにお酒を呑み、肴を口にしながら聞いていて、しばらく考えてから、自分の演奏がメンバーにどう聞こえているか正直なところを知りたければ、
「メンバーの足元を見ろ」
と言うのである。

「足元、ですか」
「うん。足元。ほら、デラちゃんもゴンちゃんも、音楽を聴いてて、つい足でリズムとったり、体を揺らしたりってこと、あるでしょ」
「まあ、ありますね。うっかり電車の中でやっちゃうこともありますよ」
「これはさ、昔、俺の師匠にあたる人が言ってたことなんだけど」
オグさんに、師匠、いたんだ。
「あのね、音楽を聴いている人が体を動かす時ってね、リズムに関しては下半身、メロディに関しては上半身が動くっていうんだな。まあ、言われてみればそのとおりで、ダンスのステップなんかもそんな感じじゃないかなと思うんだけどね。ただ、これまでいろんなところでライブを見聞きして、自分でも演奏してきた経験で言えば、バンドのリズム体が上手くやっている時はね、他のメンバ―の足元は、大なり小なり、必ずそれに合わせて動いているはずだよ。動いているなら、それはそのバンドのメンバーが、リズム体を信用したってことだよ。もし、リズム体の出しているビートがおかしなことになっているなら、それに引きずられまいとして足元はむしろ固まるはずだから」

タカちゃんは、今度の練習の時にちょっと見てみます、と言っていたけれど、何よりオグさんに話を聞いてもらい、バンドマンとしての経験を話してもらえるだけで随分と勇気づけられているように、僕には見えた。
今日3杯目の梅干し割りで、出来上がりつつあるゴンちゃんが、
「でもさ、タカちゃんも偉いよね。ベースって地味じゃん。よくやる気になったねえ」
ゴンちゃん、そこを聞くかい。
「いや、別にけなしているわけじゃなくてさ。もう少し大人になると、意外とって言っちゃあオグさんに失礼になっちゃうけど、ベーシストってモテるんだけどね…あ、かなちゃん、おかわりヨロシク」
「そうなの?ゴンちゃん」
「まあねえ、バンドマンの都市伝説的にはそんな話、ありますねえ。ね、オグさん」
「アレか、ベースの音は、その、何だよ。届くからってやつか」
「そそ。それですよ」
「で、どこに届くの?」
「だからさ、ベースの音は低いでしょ。低い音は、低い場所を伝わるっていう話で。他の音は耳から聴こえるけど、低い音はフロアを伝って、女の子の」
子宮に届く、という声と、かなちゃんの「梅干し割、おまたせしました」が、僕の耳に同時に飛び込んできた。かなちゃんは赤面しながら、空いたグラスを下げて、カウンターの奥に入ってしまった。

「まずいなあ、今夜の僕ら、完全にセクハラ野郎ですよ。ねえデラさん」
「僕のせいじゃないよ」
「困ったなあ、もう」
「まあ、そういう理屈なら、バスドラムの音のほうがよっぽど届いていると思うけどね」と、オグさんはグラスの日本酒を干してから、
「ただ、妙齢の女性が、歳を重ねるにつれてだんだんと低音を意識して音楽を聴くようになる、という話は本当かもしれないよね。さて、そろそろお茶漬けにしようかな」
オグさんはそろそろ締めに入るようだ。僕もそれに習うとしよう。

4

その日は雨模様で、しかも僕の仕事も何かと細かいトラブルが続いたものだから、その夜はなんとなく鬱々とした気持ちで、僕はいつもよりもちょっと遅い時間に「大さき」の暖簾をくぐった。
「いらっしゃい」
今夜はこんな雲行きのせいか、あるいは暦のせいか、「大さき」のお客さんは少なめで、カウンターはいつもの席にオグさんと、ひとつ席を空けて、40歳を少し越したくらいの、きりっとしたスーツ姿の綺麗な女性が座っている。僕はちょっと迷ってから、オグさんの反対隣の席に座って、水割りのセットをかなちゃんに頼んだ。
厨房では、珍しくタカちゃんが何かを仕込んでいる。それを大将が見守っている。

「デラちゃん、こちらの方、初めてだっけ」
「はい?」
「こちらの方、タカちゃんのお母さんだよ。さえ子さん」
「こんばんは」
「ああ、初めまして。こんばんは」
「いつも貴史がお世話になっているそうで」
「いえいえ…こちらが迷惑をおかけしていなければよいのですが」

さえ子さんは、保険の外交員の仕事をされているそうだ。
なかなか仕事はお忙しいとの事だが、時間がある時は「大さき」に来て、実兄の作る料理を食べて帰るのだという。もっとも、さえ子さんの場合は、やはりアルバイトで働いている愛息のタカちゃんの様子が気にかかっているのだろう。

当のタカちゃんは、やはり照れくさいのだろうか。お母さんのさえ子さんも「一人のお客さん」として扱っているようだ。今、タカちゃんはフライヤーの前にいて、何かを揚げようとしていた。オグさんは、すでにビールから日本酒にスイッチしていて、ほろ酔い、といったところか。
タカちゃんが何かの料理を盛り付け、大将がチェックすると、大将自ら、3つの小鉢をさえ子さん、オグさん、そして僕に差し出した。
「これはね、サービスね。枝豆豆富の揚出し。これね、イチから貴史が作ったの」
滑らかで、枝豆の甘みをたっぷりと含んだ豆富に、からりと揚がった衣。そこに濃いめの露。
これが不味かろう筈がない。
「美味しい」
「旨い」
「まあ、レシピを教えたのは私ですがね。まあ、身内を褒めるのも何なんですが、貴史、飲み込みが早いですよ」
大将がオグさんに向かって言うのを、さえ子さんが、静かに微笑みながら、聞いている。

さえ子さんとタカちゃんは一足先に帰るようだ。
大将がさえ子さんに、これも持っていけ、あれも持っていきなとお土産をたくさん持たせたものだから、さえ子さんもタカちゃんも、両手に結構な大荷物を抱えることになってしまった。
帰り際、タカちゃんが僕たちのところに来て、
「あの、ライブの日時が決まりました。文化祭の2日目、9月14日の午後3時からです。演奏する曲も、決めました。これ、セット・リストと、当日の案内です。あの、よかったら、小倉さん、小野寺さん、権藤さんの3人で、ぜひ見に来てください」
「おお、ありがとう。絶対見に行くよ」
「うん、僕も行くから。ありがとう」
それではお先に失礼しますね、とさえ子さん親子が帰ってから、僕とオグさんでしんみりと飲むことになった。
かなちゃんももう上がるのか、カウンターの一番隅の席で、まかないを食べようとしている。

「そういえば」
僕はちょっと気になっていたことを、オグさんに聞いてみようと思った。
「もし、触れちゃいけないことなら、ごめんなさい。前にオグさんと話した時、オグさんがタカちゃんに『カタキ』をとってくれたら、なんて話をしたことがあったでしょ?あの『カタキ』って、何の事です?」

オグさんは、ああそれなあ、というような顔をして、
「ああ、そうだねえ…カタキって言ったっけ。うんうん」
「まあ、遠い昔の話ではあるんだけど、ね」

そこでオグさんから聞いた話は、僕も日本酒を追加で頼んでしまうくらい、まあまあ重たいというか、切ない話ではあった。
オグさんが高校生になる前から楽器に興味を持ち、ギターを始めたと言う話は以前に聞いた。そして、ギターがなかなか上達しなくて悩んでいたオグさんに、ベースを勧めたのは高校の先輩だったそうだ。オグさんは『コードを押さえる』という呪縛から開放されて、たちまちベース・ギターの虜になった。

「いや、ベースの何が愉しいって、すぐに弾けるようになる曲がたくさんあるって事だね。昔のロックンロールの曲なんかは、ポジション覚えたら弾ける曲が一気に増えるもの。いわゆる『スリーコード』ってやつだね。どんな楽器であれ、入門して、練習の何がつらいかって、曲にならない状態で音を出すような練習をしなきゃいけないからさ。その点、ベースはとりあえず一曲弾けるまでの時間が割合短いってことがね、大きい。もちろん、その後の奥深さ、これはベースに関してはもの凄く深いんだけどね」

ベースを楽しく弾いていたオグさんに、先輩から一緒に文化祭のライブに出ないかと声がかかったのは、まだ初夏の頃だったという。そこから秋に向けて、オグさんは夏休みも外に遊びに行かず、宿題もそこそこにベースの練習ばかりしていたのだそうだ。しかし、二学期が始まり、文化祭まであと僅かとなった頃に、オグさんは先輩に呼ばれて、こう言われたという。
「ごめん、小倉。ベースな、他のヤツにお願いすることになったからさ」

「結局な、先輩は他の学校に通ってた同級生で、ベースの上手いヤツを自分のバンドに入れることに成功したんだよな。夏休みの間にさ。本当に上手いかどうかは知らないよ。悔しくてライブ、見に行かなかったしね。それにさ」

文化祭のライブに出ることが決まった後、オグさんは、仲の良かったクラスの女の子と通じて、当時好きだった女の子を誘って、一緒にライブを見に来て欲しい、とお願いしていたのだそうだ。しかしライブに出られないことになってしまった。「ごめん、ライブ出られなくなった」と告げるオグさんに、その仲の良かった女の子から「え、何で?」って聞かれることが、とにかく辛かったのだそうだ。

「当たり前だよ。『バンド、クビになっちゃった』なんて事、言えないものな」

結局、オグさんの文化祭のライブに出て演奏したい、好きだった女の子に格好良いところをみせたいという思いも、もちろんその子との恋愛も、成就することはなかった。

「それでもね、ベースを辞める気にはならなかったな。自分でも不思議なんだけどね。やっぱりそれだけの魅力が、ベースって楽器にはあるんだよ」

それからもオグさんは、ベースを続けて、今日に至る。もちろん、それまでの間にライブも経験してきたし、いくつかの恋愛も叶えてきた。それでも、

「バンドに入るとか、自分でバンド作るという事は、あまりしたくなかった。バンドというものはね、どうあれ真面目に、本気でやろうとすると、どうしても誰かを切ったり、自分が切られたりすることになる。でも、やっぱり嫌だからね。そういうのは。甘い、という人もいるだろうけど、僕らはアマチュアだからね。趣味でやっていることで、辛い思いをするというのは、やはりどこか間違っている」
それが、オグさんの持論なのである。

「だからさ、タカちゃんには、似たような苦労みたいなものをね、させたくなかったんだよね。どんなライブであれ、いつでもそこに出られる権利なんてお店で売ってるわけじゃない。そこに出るチャンスが転がっているなら、拾うべきなんだよ」

オグさんは、噛みしめるように日本酒を飲み下すと、

「男の子はいつまでたっても男の子。Boys will be boysって言うくらいでね。男の子は、いつだって、いくつになったって、どこか「在原業平」なんだよ。心余って言葉足らずって言うか…いや、言葉というより「力足らず」っていうべきかな。「力」というものは、いずれ齢を重ねていけば、社会経験とか自分の努力によって、ある程度はつけることができるかもしれない。だけど、その「余った心」というやつはね、いつか、然るべき時に成仏させてやらないといけないような気がする。そうしておかないと、後々、いろいろおかしなことになるような気がするんだよね」

「長話をしちまったな…大将、お会計」
オグさんは、タカちゃんが手渡したセット・リストをしばらく眺めてから、
「手堅い曲でまとめてきたな。良い趣味してるよ。タカちゃんにとっては3曲めが山場、と言うか見せ場だな」
「ふうん、そうなんですね」
正直タイトルだけ見て、僕が知っている曲はなかった。そもそも、「フュージョン」というジャンルをちゃんと聴いたことがない。そうだ、明日の帰りでも、CDをレンタルしてみて、どんな曲か聞いてみよう。
僕は「わかるためには予習、できるためには復習だ」という、高校時代の数学の先生が言っていた言葉を、ぼんやりと思い出していた。

5

9月14日、日曜日。
すっきりと晴れた東京。
僕たち、つまり僕とオグさん、ゴンちゃん、それにタカちゃんのお母さんのさえ子さんと、いつもの駅で待ち合わせて、タカちゃんの通う高校に向かった。高校は、途中一回の乗り換えを挟んで、電車に揺られて約30分、そして高校の最寄り駅から商店街を抜け、たっぷり15分ほど歩いた住宅街の中にあった。

「高校に行くって事自体がさ、もう何十年振りだよって話だよな」
オグさんは、ぽつりと僕に行った。
「オグさん、高校卒業してから自分の母校に行ったこと、あります?」
「浪人中に体育祭は見に行ったかなあ…その後はさ、俺、関西の大学に行ったからね」
「僕も似たようなもんです。用がなければ、母校でも行くことってないですよね」
僕は高校を卒業して、大学生になってから、友達と一度文化祭を覗いたことがある。その時は、高校を卒業してまだ数年というのに、高校に通っていた頃がひどく遠い昔のように思えたものだった。蘇る思い出の中には、思い出したいものと思い出したくないものがある。それが高校という「場」に戻ることで、否応なく同時に蘇ってしまうことに、何かとても疲れたような記憶がある。

タカちゃんのバンドのライブは、午後3時からである。僕たちは小一時間、教室でさまざまに展示されている部活動の作品やら、模擬店なんかを眺めてから、ライブ会場の体育館に向かった。

「何か俺まで緊張してきましたよ」
ゴンちゃんはジャケットを脱ぎながら、少し笑って、言った。
「大丈夫だよ、タカちゃんなら、やれるさ」
オグさんが、ちょっと乾いた声で、言った。
さえ子さんは、何も言わずに、微笑んでいる。
夏日になろうかという気温の中、少しだけ秋の走りを感じさせる涼風が吹いて、校庭に植えられている木々がざわざわと鳴った。
タカちゃんの檜舞台まで、後少し。僕はペットボトルの水を一口、飲んだ。

暗幕がひかれて、中がすっかり暗くなっている体育館に僕らは足を踏み入れた。
学校の体育館の、独特の匂い。
それは、汗の匂い、マットの匂い、暗幕の匂い、黴の匂い。誰もが嗅いだことのある匂い。匂いは記憶と密接に結びついているというけれど、確かにそうなのかもしれない。肉体的には僕は30代だけれど、あの頃の自分に戻ったような、そんな気がしていた。自意識過剰で、いつも微熱を出していたようなあの頃。楽しかったけど、いつもどこかで斜に構えていたような気がする。焦燥感。いつも眠くて、でもやりたいことは一杯あって。でも全てをやれる力は備わってない。子供でも、大人でもない頃。あの頃って、結局何だったんだろう。

いろいろな思いや記憶が綯い交ぜになって、僕が自分の世界に入りかけていると、突然ステージが明るくなった。そうだ、始まる。

ステージには、タカちゃんのバンドのメンバーが位置に付きはじめていた。

キーボードの男の子が、ゆったりとした音色でイントロを弾き始め、やがて、ドラムがカウントを取り始め、スネアドラムを叩く。

始まった。
1曲目は「OMENS OF LOVE」。ギターとベースががっちりと手を組んでリズムを刻む中で、フロントマンを務める、端正な顔立ちのサックス君が、EWIというウインド・シンセサイザーで伸びやかにメロディを奏で始めた。
ゴンちゃんが僕の耳元で、
「あの子、やるねえ。上手い」
と言った。確かに、僕が聴いた本物の演奏に比べて「如何にも高校生が吹いている」という拙さを、ほとんど感じなかった。タカちゃんが感じていたプレッシャーのようなものが、何となく今解ったような気がした。
曲の中盤で、ギター・ソロに入った。ギターの子は緊張しているのか、少しだけ音が飛んだのだけれど、サックス君のEWIが途中で上手に絡み、ギターの子の窮地を救ったようだ。演奏は大きな破綻もなく、曲の終盤、EWIの音程のオクターブが上がって、高らかに伸びてから、無事に「着地」した。

歓声が上がる。
タカちゃんは、半分緊張、半分無事に1曲目を弾ききった自信とが混じり合ったような表情で、ステージから手を振った。僕は、確かにタカちゃんと目が合ったような気がした。

2曲目の「宝島」は、吹奏楽用のアレンジがなされて、高校の吹奏楽部ではよく演奏される曲だという事は僕も誰かから話を聞いたことがある。さすがにサックス君はやりなれた曲なのか、余裕綽々といったプレイなのだが、タカちゃんはミディアム・テンポながらも出す音数が多いせいか、ずっと自分のベースのネックを見ながらの慎重なプレイだ。頑張れ、タカちゃん。だんだんと、僕は手のひらが発汗していくのを感じていた。
オグさんは、ステージ全体を眺めるような目線で、演奏を見守っている。ただ、右足は演奏に合わせてリズムを刻んていた。
ステージ下手側にいる、ショートカットが似合う女の子が、キラキラとしたエレピの音でソロを取り、再びEWIに主旋律を託す。南の、常夏の島をイメージさせるようなメロディ。僕は、高校生だったあの夏の、あの日の空の高さを思い出していた。

2曲演奏を終えて、タカちゃんがMCを始める。短く挨拶をして、メンバー紹介をした。すでに、タカちゃんは汗びっしょりである。
そしていよいよ3曲目。オグさんがあの夜、「ここが山場」と言った「It’s Magic」。 ここで今日のステージでのタカちゃんの見せ場、ベースソロがある。
僕はちょっとだけ、オグさんの方を見た。オグさんは、何か祈るような表情で、目を瞑っている。

バスドラムが、鼓動のようにリズムを刻み始める。
ギターが、硬質な音でバッキングを始める。

その時、オグさんが、叫んだ。

「行け―、貴史!フルテンだ!」

タカちゃんの右手が、スペクターの弦を、強烈に叩き始める。親指と人差し指が、激しく律動している。ベースのボリュームが、さっきの曲より大きくなり、刺激的な音になった。
フロントマンのサックス君が、鈍く光るアルト・サックスで、色気を含んだ音色でメロディーを紡ぎ始めた。AメロからBメロ、そしてサビ。気づけば、オグさんやゴンちゃんと話している間に、僕は音楽に関する言葉をたくさん覚えたような気がする。

一回目のサビが終わり、シンセサイザーの合いの手が一瞬挟まる。
スポットライトが、タカちゃんに当たる。
スラップ・ベースのソロが始まる。
オグさんが右手を強く握っている。
タカちゃんの右足は、エフェクターのフット・スイッチを確かに踏み込んだ。

ギラリ、とした音だった。
どすの効いた低音、少し歪ませた高音。
タカちゃんの左手が、ネックの上を滑っていく。
左手の人差し指と小指が、連れ添うように、ダンスを踊っているかのように、滑る。
右手の親指と人差し指が、弦を、激しく叩き、はじく。
わずか10数秒の、ソロ。
17歳の、普通の、心優しい青年が、今「ベースの花」を咲かせようとしている。

ソロの終盤、駆け上がるフレーズで、わずかにタカちゃんの指が縺れる。
あと少し。
最後のプルの音が、ぴしりと決まった。
「よしっ」ゴンちゃんが、思わず声を上げた。
タカちゃんの後ろにいる、キーボードの女の子が、ベースソロを引き取って、にこりと笑顔を浮かべてソロを奏で始める。艷やかでたくましい音が体育館を包みこむ。再びサックスが前面に出て、メロディを伸びやかに歌い上げ、演奏が終わった。

ありがとー!
拍手と歓声の中、タカちゃんがマイクを通さず、地声で叫んだ。
「貴史、かっこいいぞ!」
オグさんが、声を上げた。少し涙声になってるように、僕には感じた。

カウベルが鳴り出し、今日の「一応の」最後の曲である「朝焼け」が始まる。シャキシャキとしたギターの音、二人のキーボードがブラスの音で、そのギターをふわりと包み込む。タカちゃんのベースはロングトーンで、地面を固めている。ほのぼのと朝陽が上がってくるような、壮大なイントロが、体育館を満たしていた。
リードギターが、曲をぐいぐいと引っ張っていく。ギターの彼にしてみれば、この曲が一番の見せ場だろう。サックスは、この曲の原曲には無いパートなのだが、サックス君は、キーボードのパートに上手く乗りながら、リードギターに花を添えている。
サビに入って、タカちゃんのベースは再びスラップになった。あとはこの曲を、弾き切るだけ―もうすっかり余裕を見せているタカちゃんの口角が上がっている。曲の終盤、2つのキーボードの音が複雑に絡み合って、クライマックスを迎える。ギター、キーボード、ベース、サックス。違う道のりを辿ってきた各パートが、最後に揃って曲の主題となっているリフを奏で、ぴたりと止まる。
余韻。
拍手。
歓声。

気づけば、体育館の前の方の、椅子席で観ていた人たちも皆、立ち上がっている。
バンドのメンバーはステージの中央に集まり、手をつなぐと、つないだ手を高く上げ、深々をお辞儀をしてから、また高々と手を上げた。

やがて、「アンコール」の声が上がり出す。鳴り止まない拍手の中、またメンバーは楽器のところに戻ると、手早くチューニングをして、演奏に備える。
アンコール曲は、「モーニング・フライト」。MALTAという世界的なサックス・プレイヤーのこの曲だけは、収録されているCDが店頭で見つからず、レンタルができなかったのだ。
最後にタカちゃんが選んだ曲は、どんな曲だろう。

キーボードの男の子が、ふわりとした、夢を見ているかのような、ストリングスの音でイントロを弾き始める。シンバルが鳴り、雰囲気を高揚させていく。サックス君が、右手を上げて指揮をとり、スネアドラムが4つ、強く叩かれ、アンコール、本当に最後の曲が始まった。
伸び伸びとサックスがメロディを歌い、キーボードはキラキラした音と、包み込むストリングスで世界観を作り、ドラムと、タカちゃんのスラップ・ベースがしっかりとリズムを刻む。
広々とした雲ひとつ無い空を飛んでいるイメージの曲だった。
サックス君の、キーボード君の、キーボードちゃんの、ギター君の足が、リズムに合わせて軽快にステップを踏んでいる。
僕らも、足でリズムを刻んでいた。無意識のうちに。そうか、グルーヴ感ってこういうことなのかもしれない。

サックスがロングトーンを吐き、キラキラと散りばめられたシンセサイザーの音、そしてテンポがスローになり、曲は終わった。
そしてタカちゃんの夏も、僕らの夏も終わったような気がした。

拍手と歓声の中、僕たちは体育館から出た。
さえ子さんは、僕らに丁重にお礼の挨拶をすると、これからタカちゃんの担任の先生と話があるということで、僕らと別れた。

「いやー、凄かったな。最近の高校生バンド、やるなあ」
ゴンちゃんは改めて感心しきりであった。それは僕も思っていた事だった。タカちゃんが学校に通い、夜は大さきでバイトをしながら、よくあそこまで練習したものだと思っていたのだ。そして同時に、ああして自分のやりたいと思ったことを実現できたタカちゃんが、ちょっと羨ましくも思えた。
オグさんは、まだライブの余韻が残っているのか、言葉少なだった。
「タカちゃん、よくやったなあ」
ぽつりと、オグさんは言った。

「…―さん、小倉さーん」

タカちゃんの声がした。
振り返った僕らに、タカちゃんと、小柄な女の子がぱたぱたと駆け寄ってきた。
息を切らせながら、
「今日は皆さん来てくださってありがとうございます。最高のライブになりました…小倉さん、ベース貸してくださって、本当にどうもありがとうございました」
タカちゃんは深々を頭を下げた。一緒に来た女の子も、ぺこりと頭を下げた。
「いいんだよ。いや、良い演奏だったよ。タカちゃん、本当に頑張ったな」
オグさんは、すっと右手を差し出した。タカちゃんは、オグさんとがっちりと握手をした。オグさんはタカちゃんの右手を掴んだまま、左手でタカちゃんの肩をぽんぽんと軽く叩いた。

「あのう、これ」
女の子が、オグさんに紙袋を手渡した。
「うちのクラスで焼いたクレープです。よかったら皆さんで食べてください」
「ああ、そう、どうもありがとう」
ゴンちゃんが、タカちゃんを肘でつつきながら、
「ねえねえ、タカちゃんの彼女さんなの?」
「ええ、まあ」
タカちゃんの顔が赤くなった。
「何だよ、そういうことかい…タカちゃん、やるねえ。彼女さんは、お名前なんて言うの?」
「ゆかり、高野ゆかりです」
「ああ、そうなの。ゆかりちゃん。タカちゃんのこと、くれぐれもよろしく頼むよ。彼はいいヤツだからさ」
「皆さんのことは、貴史くんから聞いてます…いろいろお世話になってるみたいで。これからも貴史くんのこと、よろしくお願いします」
彼女はまた、ぺこりと頭を下げた。

僕らは、二人と別れてから、校門の外に出た。
「良いもんだよな、ああいう礼儀の出来てる若い子は」
オグさんはそう言ってから、
「な、軽く一杯やっていくか」
「いいっすね。明日も休みですしね。デラさんも大丈夫でしょ?」
「大丈夫だよ。オグさん、行きましょう」
「あれ、でも日曜日だから、大さきは休みじゃないですかね。どこかお店探しますか?」
そう言うゴンちゃんに、オグさんは、
「ああ、それなら大丈夫。さっき大将からメールが来て、今日は店、開けてるってさ」

僕たちは、夕暮れが迫る頃に、いつもの駅で降りて、「大さき」に寄った。
日曜日、しかも連休の中日でもあるせいか、客は僕らだけだった。
大将と、かなちゃんが僕らを出迎えてくれた。
その夜、大将はお店を早い時間で看板にして、大将、それにかなちゃんも一緒に、僕たちはしこたまお酒を飲んだ。
愉しい酒席だった。
何かひとつの、大事な出来事が終わって、緊張がほぐれたこともあるかもしれないし、あるいは、お祭りが終わった後の寂しさみたいなものを、お酒で埋めようとしたのかもしれない。
だけど、僕にしても、オグさんにしても、他の皆にしても、今日のお酒が「まっすぐ入っている」ことは確かだった。

お土産でもらったクレープを、皆で食べた。
とても甘酸っぱい味がした。
それはクレープの中に入っていた苺やブルーベリーのせい、だけではないような気がした。

後日談

あの文化祭から季節は巡って、また、また夏を迎えようとしている。

今年の春、タカちゃんは無事に高校を卒業し、予定通り調理の専門学校に通い出した。アルバイトは都心の洋食店で厨房に入っているという。「大さき」へは週に1回くらい顔を見せてくれるのだが、忙しい日々を送っているようだ。
僕は春から担当業務が変わり、仕事の引き継ぎやら何やらで、この時期まで忙しくしていて、「大さき」へは、たまにしか顔を出せなくなっていた。
ゴンちゃんも忙しくしているようだが、相変わらず「大さき」で飲んで、最近はオグさんの行きつけの「雪月花」にも顔を出しているそうだ。オグさんは冬の間に腰を悪くしたという話を聞いたのだけれど、相変わらず元気にしている。ただ、以前より「大さき」に顔を出す機会は減った、という話を大将から聞いた。

そんなある日の、夕方近く。
僕は都心に買い物に出た帰りで、いつもの駅で降りて改札を抜けようとするところで、ばったりオグさんに出会った。
オグさんは、洒落たアロハシャツにストローハットという出で立ちで、サングラスをかけ、背中には見覚えのある「Spector」と書かれたベースのケースを背負っていた。

「よう、デラちゃん」
「あれ、オグさん。今から演奏ですか?」
「ん。昔の連中とまた一緒にやることになってね…今日はライブをね、やるんだ」
へええ、という顔を僕がしている後ろで、女性の声がした。
「ごめんなさい、遅くなって」
Gジャンを羽織り、白のカットソーに白のフレアスカートの女性。それは以前に会った時の、スーツ姿とは全く印象が違う、さえ子さんだった。
さえ子さんがオグさんに微笑みながら近づいてくる。
「じゃあ、行ってくるからさ」
オグさんは少しだけ、照れ笑いを浮かべると、帽子のつばを押さえながら、さえ子さんと改札をくぐっていった。

「文化祭」のステージの幕が、永い時間を経て、再び上がろうとしている。

(了)

キャスト

ベースをやってる居酒屋のバイト君 タカちゃん:池上 貴史 
「大さき」常連 デラさんと呼ばれている僕:小野寺 克典
「大さき」常連 音楽に詳しいゴンちゃん:権藤 雅志

大衆割烹「大さき」大将:大崎 武雄
ちょっと赤面しちゃう「大さき」バイトのかなちゃん:磯谷 香奈
カラオケラウンジ「雪月花」ママ:汐入 菜々子

♪タカちゃんのバンド ”Stand-up Melody”♪
最後にはきちんと仕事を決めるギター君:松本 翔太
鼓動するバスドラのドラム君:富樫 大成
KORG M1で絶妙なストリングスを弾くキーボード君:山名 忍
YAMAHA DX7II-Dで絶妙なソロを弾くキーボードちゃん:八剱 薫
端正な顔立ちの吹奏楽部のアルトサックス&EWI君:栢山 梓

転校していったベース君:渡辺 大志

クレープを焼いてるタカちゃんの彼女:高野 ゆかり
タカちゃんのお母さん(大将の妹):池上 さえ子
「大さき」常連 大いなるアマチュアベーシスト オグさん:小倉 誠

Special Thanks:居酒屋でのカウンタートークを愛する皆さん
Dedicated to:全世界のベーシストの皆さん

挿入曲
「OMENS OF LOVE」(THE SQUARE)
「宝島」(THE SQUARE)
「It’s Magic」 (THE SQUARE)
「朝焼け」(CASIOPEA)
「モーニング・フライト」(MALTA)

エンディングテーマ
「OMENS OF LOVE」(THE SQUARE)

この作品は、フィクションです。

おことわり:
2020/6/6 誤字脱字、表記の揺れの修正と、一部加筆しました。

#キナリ杯 #小説 #ベース


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