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【ショートショート】 モノクロ
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あの窓から見える出来かけの高速道路の工事が始まったのは、2年前くらいからだろうか。
あれが少しずつ左右から真ん中に向かって伸び、ついにつながって一本の道路になった時、自分は生涯で最も好きだった人をようやく手放そうとした。
彼女
彼女は不思議な人だ。
たった一人で自分にとっての母、姉、妹、友達、恋人…全てのようである。
たまたま出掛けたりしても、示し合わせたかのようなタイミングで出会うことだってしょっちゅうだ。
そしてどんな話しをしても、最後には二人で笑っていられる。
自分は生涯、彼女と一緒に居るものだと思っていた。
長く一緒に居たいから、タバコだってこっそりやめたくらいだ。
だから、彼女にはできる限り心を尽くした。
何があっても彼女の味方でいたし、彼女の話しはいつだって肯定した。
離れられるのが嫌で、自分なしでは少し不便だと思われようと、なにかと世話を焼いた。それだって、負担に思われないように”そのくらいなんでもない!”って素振りを見せて。
そうしているうちに、彼女に振り向いて貰えたような気がしたし、彼女も自分と同じ気持ちであると思い込んだ。
それが、無意識のうちに自分に都合よくかけたフィルターであると気付いたのはつい最近のことだった。
5年もそんなフィルター越しに彼女を見ていたと知ったときは、もう乾いた笑いしか出てこなかった。
ピアス
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彼女の、あのビーズの付いたピアスを見ると少し胸がチクっとする。
あれを見るたびに思い出してしまうのだ。
彼女が電車の車窓から見える”あの雑貨屋さんに行ってみたい”と言った時、自分は”行こう!”と言いながら別の大きな雑貨屋に連れて行った。
どう考えたって、あそこの方がもっと品揃えが豊富だし色々見つかるはずだ。物を見るのに効率的で良いことばかりじゃないか!
当然、彼女も喜ぶと思った。
その場で嫌な顔はされなかったものの、彼女が行きたい場所ではなかったという根本的な間違いに気付いたのは一週間後だった。
見覚えのないピアスをしている彼女にそのことを聞くと、”実はあの雑貨屋に一人で行った”と。
あえて自分に言わないで彼女が一人で行ったことがちょっと寂しかったけど、口には出さなかった。
ただそんな感じの、一見他愛もないことの積み重ねが別れの伏線だったと、今なら理解できる。
爆発
ある日の突発的な言い合いが、彼女との別れになってしまった。
いや、今思えば”突然”だったのは自分だけだ。
過去の関係のない話しをいちいち持ち出して自分を批判する彼女に、とうとう怒ってしまった。
いい加減やめてほしいし、人と付き合う上である程度のことは受け流さないとやっていけないもののはずなのに。
土下座でもしたらいいわけ?
だけど自分が思うより、ずっと深く彼女は傷ついていた。
自分が世話を焼いた代償を彼女の譲れない領域まで求め、彼女が応じないと応じるまであれこれ言い続けたことがあるのは、紛れもない事実だ。
それだって、本当にしょうもないその時の自分が作り出した何ら意味のない法則で、そんなの彼女が守ろうが無視しようが大した問題ではないことなのに…そんなことも見えなかった。
それでもどうしても、自分の中で何を犠牲にしても遵守されるべく、他人にも遵守させるべきしょうもない『法則』が突然頭の中に出現して自分を支配する。
彼女に重大な損害を負わせてまで満したかったのは、単なる法則の遵守という自分の欲求のみだった。
彼女が渋々応じたのは、あまりにあれこれ言われるのが苦痛だったからに過ぎない。
既に耳にタコができるほど聞いたことを言われ続けるか、折れて損害を被るか。
そんな不快な二択をせまる奴が、勝手に生涯一緒に居ようとするなんて、そりゃ地獄だわな…
あとで言われた。
”従うまで石を投げつけられているみたいな苦痛だった”と。
”わかった!あなたの思うようにすればいいんでしょ”と投げやりに彼女が言ったときの自分の満足した表情を見て、”二度と会わない”と思われていたことも、そのとき聞いて初めて知った。
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その後、何度避けられても色々な理由をつけ、なんとか彼女に会う機会をつくり嫌がることは絶対しないと宣言しながら、どうにか彼女の傍をキープした。
それでも、自分は彼女の嫌がることを全くしないわけではなかった。
外を歩くとき、普通に歩きたい彼女と腕を組んで欲しい自分。
知り合いの前でくっつきたくない彼女の気持ちをずっと無視し続けた。
いつか彼女も慣れてくれるものだとばかり思っていた。
度々、過去の自分の過ちを彼女が口にした理由はそれだった。
”今もあなたは、私に嫌なことを強要している”と。
今度は自分で今後会うか会わないか決めるように言われたのは、彼女から自分を切ると、また色々な理由を付けて会おうとする自分を警戒したのだろう。
そして、今回ばかりはメールの一通でも送信したら自分の全てをブロックされるだろう。
自分と彼女の付き合いは、時限爆弾のように彼女の爆発を待っている間だけのものだった。きっと、爆発した後の自分や自分との思い出なんて彼女の目にはモノクロにしか見えないだろう。
だってほとんどの人のものの見方なんて、もの凄い嫌な奴のことなんかは全否定で、モノクロの中に一部カラーの部分があるなんて器用なことはないんでしょ。
そう、モノクロはモノクロ。
カラーはカラー、それだけ。
そして、モノクロからカラーに復活なんてことはほぼない。
謝りさえすればカラーに復活なんてこともないはずなのに、それさえ自分は強要しかけた。
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そんなモノクロの俺なんかに俺自身ですら、もう用はない。
"なにくっついてんだよ!つか、くっついてんじゃねーよ…"
目についたあの高速道路に、異様にムカつきながら久しぶりにタバコに火を付けた。
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