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感情は呪いを溶かす魔法

あなたは辛い気持ちや、悲しい気持ち、怒りの感情を忘れられるとしたら、忘れたい?


私が「仕事、どうしよ…」と一人で静かに涙を溢していた冬辺りに
苦し紛れに観たアイルランドのアニメ映画の話をしたい。

以下ネタバレもあり。感覚で書いていくのでうまい説明はない。



―それは大切な心の物語。
―ちいさな兄妹の物語。


サムネイルとSONGoftheSEA(ソングオブザシー海のうた)というタイトルだけで観ることを決めた。
あの時に観てよかった。

*内容をザッと話すと**
母親がシルキーという妖精で、その母親から生まれた妹もシルキーだった。
しかし、その妹の誕生と引き換えに母親を海に奪われた父親と兄と祖母は心を閉していた。
妹に辛く当たる兄。踏ん切りのつかない父。そして認めない祖母。


妹が6つの誕生日の日に、彼女は見つけたコートを着て海に潜る。そして、アザラシになり海を泳ぐ。シルキーはアザラシの姿をした妖精だった。
しかし父はそれを良しとしなかったし、何より祖母は許さなかった。
父はシルキーの大切なコートを海に捨てた。祖母は兄妹を海から遠く離れた自宅に無理やり連れ帰った。 

街はハロウィン。
兄は大好きな飼い犬を置いてきたこと、妹のせいでつれて来られたことに腹を立て、自力でコッソリ帰ることにするのだった。
妹はそんな兄についていく。

道中、シルキーを待ち望んでいる妖精達が出てくる。彼らの仲間は長い事フクロウの魔女の呪いで石にされていた。
シルキーの歌はその呪いを解くから、シルキーの気配を感じておお喜び。

しかし、気がつく。コートがないことに。シルキーはコートを羽織らないと歌えないのだ。

兄と妹はコートのある我が家を目指す。****


小さな兄妹の冒険ものがたり。

ここからは私の考察(というか感覚)

魔女は感情が嫌い。悲しみに暮れる自分の息子である巨人も岩にかえてしまった。 
でも、それは悲しむ息子を見たくないから。
彼女の魔法は、感情を瓶に閉じ込めて、閉じ込めた相手を石に変えるもの。

その魔女の容姿ときたら、兄妹の祖母にそっくり。
「言うことを聞きなさい」「これはあなたのためなのよ」と叱りつける。
危険なことからとことん遠ざけようとする。
美しくない事は一つも許せない。そんな心の持ち主だ。
彼女はとても臆病。

そう、大人ってとても臆病。
魔女は大人なのだ。
良くも悪くも。

涙を流したり、大きな声で笑ったり、時には恐ろしいくらい怒ったり。
それはまるで恥ずかしい事や、いけない事のように蓋をする。
自分の心を石にして、まるでその感情がなかったかのように振る舞う。
それでもたまに思い出したようにくる感情の波。そのたびに蓋をしてしまい込む。
傷つかないこと、傷つけないことに囚われて結果、相手を窮屈にしていく。

石になると動けない。
心は原動力だから。
妖精達はそれでもお喋りをする。
魔女の家に妹を助けにいった兄に「がんばれ」「気をつけろ」「魔女の言葉に耳をかすな」と囁く。

きっと、妖精達の中には辛い気持ちに一瞬負けたものも居たのだろう。
しかし、本来縛られるものでない彼らは、シルキーの歌を待っていた。
心の開放をまっていた。
自分の中の感情の全てと交わる日を待っていた。

兄は魔女に「かわいそうに」と言われて、瓶に感情をとられそうになる。しかし、思いとどまる。彼は人間だけれど、母からもらった歌もあるし、なにより根は素直で優しいいいこなのだ。妹への意地悪もきちんとあやまった。心があるから、優しいだけでいられないけど、心があるから謝って仲直りもできるんだと思う。

そして、妹の吹く笛の音で壊れる瓶の中身がすべてもどった魔女はとても優しい顔で泣いていた。
大切な心は何時も重くて、でも大切だ。

心の戻った魔女はふたりに風の犬を貸してくれる。それは自分の息子である巨人の連れていた犬たち。
 
シルキーはコートを着て歌わないと弱ってしまう。今にも息絶えそうな妹を連れて兄は戻る。
父はまだ心を閉していて、荒れた海に船を出して医者に向かうという。大人って頑なだよね。特に深い悲しみを持つ人は臆病だ。そして、それを想う人も釣られて臆病になる。

兄はコートが海に捨てられたと知り勇気を持ってとびこむ。それは彼が冒険を通して手に入れた優しさ。困難に立ち向かう優しさ。
それは尊いもの。

その行動は父親の心を奮い立たせる。
子供の力ってすごい。真っ直ぐな力ってすごい。
純白のシルキーのコートを着てアザラシになった妹と、陸に上がる。
そして母親に教わった歌を歌い聞かせて、歌わせる。

それは妖精達の歌。

すると妹から光があふれ、それはキラキラと妖精達を溶かしていく。優しい歌が、忘れていた心を、閉じていた心を解放する。

妖精達は自身も光って、光の国に帰っていく。
それは夜明け。新しい始まり。

そして、妹を迎えに母親がやってくる。
しかし、兄も父も連れて行かないで欲しいと頼む。
妹もここに残ると言う。
それを聞いた母は涙しながらも妹を人間にして、家族それぞれに言葉を残し光の国に戻っていく。
愛を灯した別れは、寂しいけれどそれだけではない。


とても懐かしい。
不思議と懐かしい。

この映画を見ていると
心が穏やかになっていく。

自然のそこかしこに妖精達はいるのだ。
風に、花に、道路の中央の植木に、地下に、そして広い広い海に。
それらがこぼす光の言葉を私はきっと知っている。


心があるということは、時に苦しく、逃げ出したいもの。
それでも心があるから、愛がある。
相手を優しく包み込む光がある。 

それは受け止めること、受け入れること、浄化すること。

人間が忘れがちなこと。
感じるものを感じるままに。
例えそれが大人でも。
どんな立場の人でも。

私は一人きりとはいえ割と素直に涙を流す方なのかもしれない。
泣きながら怒ったり、ご飯を食べながら大つぶの涙がながれるのをそのままにしたり。

きっと、みたら精神不安定だと心配する人は多い。でも、大丈夫。

沢山素直に泣いて、泣きつかれた頃には、不思議と心は軽くなっている。
変に抑えたり、自分を騙したり、隠したりしないで感情と踊るのも時には必要。

お空の天気と一緒。
穏やかな灰色の空もいいし、カンカン照りの太陽もいいし、土砂降りの雨もいいし、風がビュービューふいたっていい。
雨は永遠じゃない。晴れも永遠じゃない。
移りゆくもの。

修復できないものもあるのかもしれない。
失うものもあるのかもしれない。
傷つく誰かや自分がいるのかもしれない。

それでも
きっと全部で命だから。
私は私の感情を抱きしめる。
時に一緒に命の船から落ちそうになりながら、それでも感じ取れる自分の心を愛している。

私はそんな事をソングオブザシーを観て想ったのだった。

おすすめする。
長くない。
まるで絵本のような絵も綺麗で可愛い。

森も海も。
どんなことも。 
心から生まれる景色が重なるから
それは特別な色になる。

あなたの、辛い気持ちも、悲しい気持ちも、怒りに満ちた感情も、そっとそっと、私は大切にできる人になりたい。どんな感情も、それはあなたの命だから。原動力だから。

そして、大切にしてほしいとそう想う。
ただそう想う。

サポート設定出来てるのかしら?出来ていたとして、サポートしてもらえたら、明日も生きていけると思います。その明日に何かをつくりたいなぁ。