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過去の1場面物語~小さな夢の生まれる夜空~


これは1場面物語の独白の間。
過去→ある人の独白
未来→ある者の独白

そして今は小さな歩み。



埃っぽい棚にある埃っぽい箱を開けてみた。
そうしたら、中にはそれが入っていた。
私はそれを優しく撫でて埃を払った。
少し冷たくて、とても軽い。

「それなぁに?」

私の後ろにくっついてきた子達に
そう聞かれて皆の目の前でそれを広げた。
サラサラという音と共に柔らかく広がったそれは
ランプの光をうけてキラキラと煌めいた。
銀の糸が縫い込まれている布だった。

「綺麗な生地だね。風呂敷かなぁ?」

私がそう言いながらひらひらと布を動かすと
子供達の顔がパッと明るくなった。
綺麗な布生地に心が踊る気持ちはよくわかる。
何故かと聞かれるとこたえられないけれど。

「すっごくきれい!!」
「わぁ!きれい!」

子供達が手を伸ばすので
小さなその手に布を渡した。
布はあっという間にひらひらと舞う生き物になった。
布を持って走り回る。ランプを持った子も走り回る。
ひらひらとした紺碧の布に光があたりチカチカと輝いている。

私はそれをしばらく眺めていた。
キラキラと輝くのを見ていると
不思議と懐かしい気持ちになった。


「あぁ、夜空に似ているんだ…」

今は見る事の出来ない空が
目の前で踊っている。
私の小さな呟きを聞き逃さなかった子が

「よぞら?」

と聞いてきたので、私は私の知る限りの夜空を説明してやった。
説明をしながら、父親と見に行った流れ星を思い出した。わざわざ山の上まで見に行ったから、街中で眺めるものとは違ってとても美しかった。胸いっぱいに星の煌めきを吸い込んだ。不思議と涙が溢れた。
あの日の夜空を私は今も胸に留めているんだなぁと染み染み思った。
そして、そんな私の説明を楽しそうに聞く子供達にも見せてあげたいと思った。もし、この世界に空があるのなら時間がかかったとしてもこの子達に見せてあげたい。

銀色の星々が宝石の様にキラキラと輝く夜空を。

「いつかいっしょにみたいね」
「ほんもののそらみたいね」
「ここよりも、もーっとひろいの?」
「わくわくしちゃう!」

まるで私の心を見透かした様に子供達が次々と口にする。私はそれに笑顔で応える。

それから、暫くの間ひらひらと舞う小さな夜空が夢を溢して煌めいていた。



空はいつまでもあるわけじゃないのよ。

たとえ銀色の時代が過ぎ去って、人が色々なことを忘れても、その時を生きる命達が、美しいものに心震わせていられますように。

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