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過去に書いた1場面物語 

フカフカとしたシート。
ゴトゴトと揺れる足元。

流れてゆく景色には誰もおらず
窓に反射した自分だけが映る。

名前も知らない花達で埋め尽くされた風景に
少しだけ、ほんの少しだけ笑みが溢れる。

昼間の太陽とは違う、凍るような満月の光が
花畑を青白く照らしている。

熱くも寒くもない車内に一人きり。
外の匂いも感じない。
外はきっと花の香りに包まれている。
そして思っているより寒いはずだ。

『この夜が終わらないといいのに』

そっと一人で呟いた言葉は、本心だけれど
太陽が昇る予感がするから言える事だと
何処かで知っている。
その予感が『当たり前の決まり事』だと思っているから、口に出して言えるのだと知っている。

トンネルへ入る。ライトがつく。ゴトゴトという音に支配され、仕方なくユラユラ揺れる。
僅かな光が照らす煉瓦を、誰が作ったのか知らない事をなんだか申し訳なく思う。

全ては何処かに繋がっていて、
最後はみんな同じ宇宙の欠片のはずなのに。
目に見えないものは中々どうして追えなくて、すぐに迷子になってしまう。

トンネルを抜けて見えたのは、海。
月の光をキラキラさせて、還っておいでと呼んでいるみたい。

まだ、帰らないよ。

今度は言葉にしないまま、そっと窓を開ける。
ゴトゴトという音が一層大きく響く。
その音に混じって波の音が微かに聴こえる。
思ったよりも冷たい風に、潮の香りが混じっている。

窓を閉めシートに座り直す。
フカフカとしたシートが優しく迎え入れてくれたので、ホッと息を吐いてもたれかかる。

  
どうやら、もうじき夜明けみたいだ。


それは、当たり前の決まり事だけれど 
きっと今からやってくる夜明けは特別だ。

だって、そういう予感がするんだから。

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眠れない夜に

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