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グリフ神話


これは七田苗子の仮想神話物語である。


古代文明をさらに遡っていった時代…そこには神々が住んでいた。
無という世界に天地創造の神アトムが現れ 天空の神シューと湿気の女神テフヌトを産み そこから天空と地が出来上がっていった。様々な神が世界そのものを支え、時には戯れ、時には争いながら 生み出しそして破壊を繰り返していた、そんな時代。

黄金にきらめく宮殿にオシリスという神が住んでいた。
オシリスは冥界神として 日ごろから宮殿と冥界を行き来し、死者の裁判を行っていた死門に立つ最高神である。

伝説によると、神々の時代…死者を祭る時には必ず黄金のものを持たせるという決まりがあった。というのも、死者が死門をくぐりオシリスの裁判を受ける際に 必ずオシリスへの捧げものとして黄金を差し出さねば、決して復活を許されることはないとされていたからである。
これが伝説なのか否かは定かではないが、オシリスの宮殿は現に黄金でできており、噂によると宮殿の奥に秘密の扉が設けられ、そこには死者からの貢ぎ物である黄金に輝く財宝が眠っているという。

そんな噂をいち早くかぎつけたのは、山奥に住む盗賊神ガラゴエルである。
黒い翼を持ち、どんなに固い鉄の塊をも砕くとされる大きな黒い嘴を月明かりに照らし 暗闇を彷徨う暗黒の神。ガラゴエル一族は 夜な夜な集まっては次の満月にオシリス宮殿への襲撃を計画した。

ガラゴエルの闇の計画を耳にしたオシリスは、すぐに世界一勇敢な者を探し出すようにと自分の子供達である神々を世界の四方へと行かせた。
そして痺れを切らすオシリスの前に一人の青年が差し出された。

青年の名は グリフ。

オシリスの子供たちによると、グリフは勇敢で宝石よりも固い心を有し、その上本物を見極める能力があるらしい。

オシリスはグリフに二つの黄金の杯を見せた。どちらが純度の高い金でできているのかと聞くと、グリフは見事に当てて見せた。
それを見てオシリスはグリフをある場所へと案内する。

地下へと続く黄金の階段をどこまでも降りてゆくと、自らの3倍はあるであろう高さの扉が姿を現した。扉の前を狼の頭を持つ守護神メトナが大きな鎌を持ち上げて立っている。
オシリスはここでもグリフに問いかけた。この扉を開けてみろと。
勇敢で人並み以上の力を持つグリフは メトナの振り下ろした鎌にも動じずに その重い扉を体全体で押し開けた。

それを見たオシリスは 一言「其方に重要な任務を命ず」と言い放ち、グリフに手をかざした。

気づくとグリフは鷲の力強い翼に 固く鋭利な嘴、獅子の強靭な足に なんでも切り裂く爪を持つ姿に変わっていた。この姿になったグリフが 今に伝わる「グリフォン」であるとされている。

扉の向こうを覗くと、伝説通り山積みになっていたのは黄金の財宝たち。
「ここには我が宝が眠っている。この宝をいつ時も命に代えて守るが良い」

輝く財宝一つ一つを手に取り歩くグリフ。どれもこれもが本物の金であった。呆気にとられるグリフの前に 黄金の山間から一人の少女が現れた。
「我が娘 マアトだ」とはいえ、グリフはそんな神の名を一度たりとも耳にしたことがなかった。それもそのはず、マアトはオシリスの他の子供達のように神の名を名づけてもらってはいない。神となるのに必要な力を何も持っていないらしく「何の力もない出来損ないの娘」として この宮殿に息をひそめて住んでいるらしい。マアトの存在も出生も 世には一切出されてはいなかった。

それからグリフはオシリスの宮殿に眠る財宝の守り主として オシリスに仕えた。オシリスはグリフが財宝を守っているという安心感から冥界への滞在がどんどん長くなっていった。そんな中、グリフはマアトの事を良く知る機会を持つことになる。
オシリスの不在中、グリフはマアトをその背に乗せ 宮殿の外の様子を空から眺めさせたり、宮殿の庭に咲く花の中でマアトの優しい歌声を聞いた。神の力がないとされるマアトだったが、心優しく 誰にでも公平に幸せを分け与える少女であった。踏みつぶされた花を見れば そっと手に取り元気を与え、空高く飛び回り栄光を手にした兄弟の神々たちに祝福を贈る。
オシリスの不在中であっても、夜になると黄金の冷たい階段を深い地下へと降りていき宝の眠るその部屋で 目を閉じて朝を待つマアトであった。


満月の夜…いつもと変わらぬ夜の様に思えた暗闇の中に きらりと光るものが宮殿の外をちらつき始める。盗賊神ガラゴエル一族だ。音もたてずに闇を切る黒い翼は 異様なまでに活気に満ち 重くのしかかる湿った空気を地面へと叩きつけていた。
静まり返った夜の宮殿を包囲し、満月が雲の切れ間から顔を出したと同時に、一族が一斉に宮殿へと襲撃を仕掛けた。

予期せぬ夜の訪問者に神々も慌てふためく中、グリフは次々と その深く弧を描いた爪で、そして鉄岩をも砕く嘴で ガラゴエルらを投げ飛ばしていった。が、その耳に聞き覚えのある声が助けを呼ぶのが聞こえ、周りのガラゴエルたちを仕留めもせず ただ突き飛ばし 地下への階段を転がるように降りて行った。扉の前には 無残にも引き裂かれたメトナの姿。

「我が宝を命に代えてでも守れ」そう命ぜられていたグリフ。オシリスの宝を守らねば!!グリフはその勇敢さをもって 微かに開く扉を一気に押し開けた。


翌朝、知らせを受けて大慌てで冥界から駆け付けたのはオシリスだ。
子供達の安否より先に、真っ先に地下の階段へと向かっていく。グリフがいるから安心だと心に言い聞かせて帰宅したオシリスだったが メトナの無残な姿を目の当たりにし、オシリスの不安は膨らんだ。

開かれた扉の向こうに一歩足を踏み入れると、オシリスの顔から一気に血の気が引いていった…ひとつ残らず財宝がなくなっている。ひとつ残らずだ。
何処までも続く部屋の片隅に、ボロボロになったグリフが丸く蹲っている。
その姿を見た瞬間、オシリスの周りに炎が舞った。
稲妻が落ちるような速度でグリフのもとに行くオシリス。
目の前に立ち登る炎に グリフが力なさげに顔をあげる。

「オシリス様…お宝はしかとお守りいたしました」

そう呟くと、グリフは傷ついた両羽根をそっと広げた。

そこにはカタカタと小さく震えるマアトの姿があった…


「愚か者め!!!」

財宝を全て奪われ 守ったものが 役立たずのマアトだったなどオシリスの怒りは大地を揺るがした。
オシリスは ボロボロになったグリフの首元を掴み 地面に叩きつけると、それでも怒りは収まることはなく、グリフをその手で真っ二つに引き裂いて殺してしまった。

オシリスは泣き崩れるマアトを背に、生き残った子供達を引き連れ盗賊神ガラゴエルの住む山奥へと飛び立っていった。


マアトは無残な姿になったグリフをそっと抱き、グリフの大好きだった歌を歌い始めた。その歌声は天に響き 母である湿気の女神テフヌトの心を揺らがせ テフヌトはマアトの涙を雨に代え大地に舞い降らした。
マアトの心の痛みが二つの光となって胸から姿を現すと、マアトは引きちぎられたグリフの二つの身体にそっとそれを埋め込んだ。

するとグリフの上半身は大きな鳥となり、下半身は黄金の鬣を揺らす獅子と化した。

マアトはこの大きな鳥をヌト(天空の神)と名付け、黄金の鬣を持つ獅子をゲブ(大地の神)と名付けた。

これが今に伝わる 鷲とライオンの姿であると言われている。


その後、ガラゴエルの山奥へと怒りの塊となって飛んだオシリスは その狂気の隙間を狙われガラゴエル一族に命をとられてしまう。神々の住む世界には戻れない冥界の王として 地下深くで今も炎を燃やし続けている。

黄金でできた城をと 再び宮殿へ舞い戻ってきたガラゴエル。
神の力に目覚めたマアトは、ガラゴエルの姿を見た途端に
「ガラゴエル一族よ!私の涙に一生溺れ続けるが良い!!」と言い放ち、ガラゴエルを石に代え 宮殿の屋根の上にそれぞれ座らせた。
これが屋根の上に雨樋として座るガーゴイルの発祥だという言い伝えがあるそうだ。マアトがグリフを愛おしみ日々流す涙を 母テフヌトが雨として天から流すたびにガラゴエルは天涙に溺れる宿命を負わされた。



今は宮殿がどこにあるのか…神々がどこに住むのかは伝説のそのまた伝説となっているが、

天空を舞う鷲の先に 黄金の鬣を持ったライオンがいる場所で そっと耳を澄ますと、真理と正義、、、そして生命復活の女神 マアトの歌声が聞こえてくるという。


本物を見極める事が出来たグリフ。彼が命を引き換えに守り通したオシリスの「宝」は 今もなお この世界のどこかで私たちを見守っている…その優しい歌声と共に…。

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ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーおわり。

こちらの橘さんの企画に参加させていただきます:)
沢山の素敵な方々が次々と素敵な作品を出す中、私もやりたい!!と連鎖球菌咽頭炎でティッシュを片時も離せないまま 作らせていただきました:)
少し頭がぼーっとする中で書いたので、あまり良いものではないかもしれませんが、ここまで読んでくださってどうも有難うございました:)

橘さん、素敵な企画をどうも有難うございます。
そしてこの作品の事をご自身の作品をもって私に教えてくださったノート友達の方々。。。本当にどうもありがとうございます:)

この神話はエジプト神話の神々をちょっといじって 私のなりの神話を作らせていただいたものです。本当のマアトはオシリスの娘ではなく太陽神ラーの分身。グリフォン(グリフィン)の守る宝をいつも盗みに来ていたのはアリマスポイ人という一つ目の部族。でも、ガーゴイルがどうして雨樋として使われているのかを書いてみたく…入れちゃいました。ふふふ。

宝を守るグリフォン…一番大切な「宝」を見極め、そして守り通したそんな姿を橘さんの素敵な絵に乗せたくて書かせていただきました:)

ありがとうございました。

七田 苗子








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