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【INUI教授プロジェクト】③      第一章Introduction『文秋』


●被験者【文秋】の概要●


【文秋】~ Introduction


僕のプロジェクト参加理由は他でもない植物学の為だった。
今まで僕が培ってきた物を活かしながら、更に広げられる絶好の機会だと。
このプロジェクトの話を聞き、探りを入れるために夏樹を誘って建設の手伝いをした時に、この手つかずの自然環境を目の当たりにして参加しようと心を決めた。
どうせ夏樹に引っ張りこまれたんだろうと両親は溜息をつきながら参加用紙をビリビリに破いていたが、本人の希望さえあればいいという事で、ある日家を出たまま僕は消息を絶った事になっているはずだ。

常に頭からNoと言われ続け、僕は親が仕向ける方向に反抗することなく黙って進んできた。
手広く成功をおさめた企業家の御曹司…バイオリンを習いたくてもピアノを、恐怖でしかなかったプールに突き落とされて毎週水泳のレッスンをし、ゲームセンターに集まるクラスメートの横を通り過ぎて塾へと向かう。。。
唯一僕の思い通りになったのが大学の専攻だった。父の親友である人は有名な生物学博士で、「植物学を学んで植物園にでも務めるつもりか!」と激怒した父に対し、植物学からの将来の選択肢を並べて父を納得させてくれたのだった。
とはいえ、実家に帰省すると必ず「一銭にもならない無駄な勉強に多額の学費を払わせている」と吐き捨てるように言われ続けていた。
それでも僕はそんな父に認めてもらいたいとどこかで願っていたんだと思う。僕の中でいつか父を超える程のお金を手に入れて、父にあっと言わせるのだという思いが燻り続けていた。

夏樹と出会ったのは大学に入学してからの事。誰とも隔たり無く付き合う彼を見ていると何故かホッとした。僕とは正反対のはずなのに、何故か馬が合った理由は今でも闇の中だ。
小春さんはこのプロジェクトで初めて出会った人だったが、今まで父の存在を知り近寄って来た女性達や、キャンパス内でお洒落をして男に媚びを売る生徒達とは全く違うタイプだった。その凛とした彼女の在り方に、僕も小春さんみたいになれたら…父に真正面からぶつかって行ける自分になれたのだろうかと、少しばかり憧れに似た気持ちを抱いた

僕らが参加してから半年たつと、冬音ちゃんが仲間入りしてきた。
媚びては…いないのだけれど…魔性性を持った人だ…と言った方がいいのかもしれない。いや、こんな僕からしても可愛いと思う。
変ないい方かも知れないけれど、形の違う小春さん?
芯はグラつくことのなさそうなくらい図太くて、まあるいイメージなのだけれど、強い人だという印象があった。僕の目はいつも「父とやり合ったら」という指標で位置づけられる…だからこそ冬音ちゃんが小春さんと
”同じ”とされた。
小春さんは強そうで案外繊細な所があるが、ここぞという場面で踏ん張れる強さを持っている人。
冬音ちゃんは、弱そうだけれど笑顔でとぼけているのか分からない程に、断固として譲らない強さを持っている人だ。
とまぁ、僕はそう思っている。
ただ…何処かで小春さんのそれとは違う大きな何かが冬音ちゃんにある様な気がしてならなかった。小春さんは感情がすぐに顔に出る人だ。けれど冬音ちゃんは全く持って掴めない…重要な問いかけにも笑うだけで、すぐに”あっ!”っと思い立ったかのように小人を追いかけて行く。。。本当に小人が見えているのか、はぐらかされているのか…。
とにかく、役割分担も何もあったもんじゃない。
小春さんは冬音ちゃんが苦手なのか、自分で話しかけない様に僕に言づけを頼んでいた。でも、冬音ちゃんは全く持って仕事も何もしてくれなく、板挟みの僕が苦笑いで冬音ちゃんの仕事を渋々やっていた感じだった。
が、夏樹は違ったようだった。冬音ちゃんと共にする時間がますます増え、何故か小春さんと僕に対する目つきが鋭くなっていった。冬音ちゃんの仕事をなにも言わずに笑顔で片付けて、僕が冬音ちゃんの愚痴をこぼそうもんなら、僕を「心のちっちぇー奴」呼ばわりする。
小春さんもこのギクシャクした関係にむしゃくしゃしているのか、顔にも出るし、なんだか刺々しくて…。
僕の癒しは唯一外壁を飛び越えてきた野良猫たちだけだった様な気がする。




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