僕たちが日陰者であるときのほうが、国民や日本は幸せなのだ

サブタイトル : 平和な日常は当たり前ではない

 その日、私は4歳の息子の陸(りく)と休日を過ごしていた。 パパは息子との別れを惜しみながらグチグチと休日出勤して行った所だ。

 さて、ちょっと小説の続きを書こうかな。 息子はお絵描きがしたいというので絵具セットを準備してあげた。 しばらくの間は熱中してくれるだろう。

 ⁉ 地震だ! 茨城に住んでいる私は3.11を思い出す。
 幸い私の住んでいる地域は家が潰れるほどの被害はなかったが、3.11後にメディアなどの情報から地震津波対策は嫌でも覚えた。

「ママ! じしん!」

 りくが私のパソコンデスクの下に逃げてきて、縮こまりながら頭を手で押さえている。

「ちゃんと机の下に逃げてきてえらいね」

「ようちえんのせんせいがおしえてくれた!」

「そっか、このあいだ避難訓練あったもんね。 ……長いね、ちょっと窓を開けて来る、大丈夫だからここにいてね」

 うちはマンションの1階だからこれならすぐに逃げられる。 窓枠が歪んでから窓を開けようとしても開かない事を3.11で学んだ。
 窓を開け、りくの所へ戻る。 縦揺れじゃないから大丈夫かな……でもまだ揺れている。
 念のため玄関にある防災リュックと靴を取ってきた。 いつもこまめにガスの元栓は閉めてるし給湯器の電源も切ってる。 後はこのまま地震が収まるのを待つだけで済めばいいけど……。

「ママ~」

「大丈夫、収まって来たよ」

 お風呂に水を溜めようかと考え出したところで地震は収まった。
 なんだか頭がふらふらするけどこれは余震なのか地震酔いなのかわからない。 とりあえず窓を開けたまま様子を見よう。

「あーたのしかった! じしんなんてへっちゃらだもんね!」

 ッオイ! さっきまでめっちゃママ~! って言ってたよね⁉ これだから男子は……。

 3.11を知らない息子は地震の怖さをわかってないな、ちょっとおどかしてみるか。

「りく、さっきのは怪獣の足音かもよ? 今は休憩してるだけかも!」

「えっ⁉」

 息子の反応が楽しい。 ちょっとイジワルしてしまうのは愛情表現だ、うん。

「ママ、かいじゅうがきたらどうしよう! せんせいにおしえてもらってない!」

 フッ……「シン・ゴ〇ラ」や「天空〇蜂」を10回以上見た私には愚問だな! ……子供相手ならね。

「そこで日本のヒーロー、自衛隊の出番だよ! そうだねー、まず海から来た場合は海上自衛隊と航空自衛隊が狙撃するね! おっきな船や飛行機からビームが出ると思えばいいよ」

「ビーム! カッケェ!」

「それでも上陸……つまり茨城に来ちゃったら……」

「えっ! ビームじゃたおせないの⁉」

「どれくらい強いかわからないからね。 でも大丈夫、日本の最後の砦、陸上自衛隊がいるよ!」

「りくじょーじえーたい」

「その名の通り、地上で戦うんだよ。 りくも戦車のおもちゃ持ってるでしょ? ああいうので」

「もってくる!」

 いや、持ってこんでいい! あああ! おもちゃ箱をひっくり返すな!

「もってきた! これでやっつけるぞ!」

 ……うん、頑張ってその戦車からビ-ムが出るように練習したらいいよ。 ママが美少女戦士になれなかった夢をぜひ引き継いでほしい。

「そうだね、簡単に言うとそれで終わりだね。 陸上自衛隊は一番人数が多いから、全国から集まってきてきっと怪獣を倒してくれるよ」

「すげー! にほんにもヒーローがいるんだ!」

「日本って概念は知ってるんだね……」

 多分りくは日本にアニメのようなヒーローがいないのはわかってるけど、アニメのヒーローが実在しないことまでは気付いていないんだろう。 4歳って夢があっていいな。

「じえーたいのこきゅう! いちのかた! スペシャルウルトラうんこちんちんビーム! ギャハハハハ!」

 はいはい強いね。 私なら本気で覚醒してザ・ワ〇ルドを使って逃げるレベルの技だ。

「でもさーりく、怪獣を倒した後はどうなるか知ってる?」

「だい4ぶ! かん! バーーーン!」

 息子の完璧なポージングにへなへなと力が抜けた……。 厳しい練習の末にようやく身に着けた仗助のJ〇J〇立ちを息子に披露したのが間違いだった……。 そして第4部完ってことは怪獣4回来てるよ! DI〇様クラスの怪獣かよやめて!

「そうじゃなくて……怪獣に町がメチャメチャにされたら直さなきゃいけないでしょ? がれきの下敷きになって怪我をしてる人もいるかもしれない。 あとはお水やガスや電気も止まるよ?」

「えっ? おみずとまるの?」

 4歳児にとってインフラが整備されているのは当たり前すぎて、どこから水が来ているのか知らないんだな。 蛇口をひねれば水が出る。 そんな魔法のようなシステムがどうやって整備されているか知らなくても無理はない。

「そうだよ。 おうちまでお水を運んできてくれる管があるんだけど、それに穴が開いちゃったらお水がそこで漏れてお家まで届かないよね?」

「そうなんだ! なおさなきゃ!」

「うん、そうだね。 でも直るまでの間、お水が無かったら困るよね? そこで自衛隊さんが補給、つまり持って来てくれるよ」

「よかったー!」

「でもみんなの分が無いかもしれないからママはこのリュックにお水を入れてあるんだよ」

「うむ。 ぬかりないな」

 りくが腕を組んで上から目線でうなずいた。 その元ネタはどこ⁉ ってまぁいいや。

「あとは自衛隊さんががれきをどかして、下敷きなってる人を助けるよ」

「さすがじえーたい! おれたちにできないことをへーぜんとやってのけるっ! そこにシビれる! あこがれるぅ!」

 ……ママとパパがJ〇J〇オタでごめんね。 そのままスタンド使いに育ってね。

「まぁそんな感じで、自衛隊は日本を守るだけじゃなくて町の復旧も手伝ってくれるんだよ。 あとは警察とか消防とかもだね。 みんな命をかけてお仕事するって誓ってるんだよ、すごいよね」

「おれこのまえ、パパのオナラがせかいいちくさいっていのちかけた! パパ、はるくんのパパにまけないよね⁉」

「そんなことに命かけないでよ……。 りく、どうせなら自衛隊になって命かけるのはどう?」

「ヒーローになれるならいいよ!」

「おっ! じゃあ日本の未来はよろしくね! でも自衛隊が活躍しないで済む方が日本は平和なんだよ。 もしかしたら一生訓練だけで、ヒーローとして活躍する機会は無いかもしれない、その覚悟はある?」

 4歳児には理解できないかもな……。

「しゅぎょうならまかせろ! てきがきたらにほんといっしょにママをまもってあげる!」

「……りく……」

 息子の思わぬ言葉に視界がぼやける。

 大人になったらママ以外の女は泣かせるなよ!


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