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ミュージカル「MOULIN ROUGE!」再演 日本版クリスチャン像とムーラン愛を語ってみる

バタバタしていて、遅れましたが、先日ミュージカル「ムーラン・ルージュ!」日本再演初日を観劇してきました。
個人的には今回で記念すべき10回目の観劇となりました。(しかも同じ作品での観劇回数の記録を更新)

観劇後の興奮にのせて、ムーランへの愛と改めて観劇した上での日本版クリスチャン像について書いてみようかなと思います。
(観劇翌日の興奮の波の中で書いたものと、1週間経ってから冷静に書いているものとごちゃ混ぜなので読みにくいかもしれません。)

初日の様子

初日ですから会場はファン揃いのすごい熱気。
グッズ列はもちろん長蛇だったし、ドレスコードかなってくらい皆さん赤い。

開幕したら、みなさんプロの観客で「本当にここは日本?」と言いたくなるような盛り上がりの歓声に完璧な手拍子。これぞ劇場の一体感。

そして繰り広げられる大好きな「ムーラン・ルージュ!」の世界。もう好きっていう感情だけでオープニング泣いてましたね。笑
いやー、楽しかったなぁ、、、。

簡単な感想

今回の再演では、とにかく演技力に重きを置かれた感じ。
主にプリンシパルの演技がより繊細に物語を紡いでいる感じでしたが、パフォーマンスや歌唱は少しシンプルに感じました。(音響が全体的に弱かったのもあります。)

個人的にはもっと弾ける爆発がほしかったけど、少し足りなかったかな。むしろ初日ということもあって、観客の方が爆発してて、その勢いにキャストがのっているんだろうなって感じでした。

ただ初日の感想なので、公演を重ねていくうちに色々ブラッシュアップされていきそうなので、ご参考まで。

ジュークボックスミュージカル「MOULIN ROUGE!」の強み

数多あるミュージカル作品の中でムーランの何が好きか?

楽曲はジュークボックスでオリジナルではないし、お話も椿姫。
もっと豪華絢爛な衣装や照明は他のミュージカルでもある。

だけどこの作品が大好きなのは、観客全体で共鳴して感じる一体感と没入感がずば抜けているからだと思います。
それがジュークボックスミュージカルの良さなわけでマンマミーアも近い理由で好きです。

さらにムーランは出てくる感情がマンマミーアより単純明快だから引き込まれやすいし、簡単に共感して世界観に没入できるし、(音楽が好きであれば)世界的な名曲をこれでもかとぶっ込んだことで国境や人種の壁を超えて、世界規模で共感して楽しめる作品であること。

これはさすがアメリカのブロードウェイのクリエイターのなせる技だなと。
演劇性の観点から見たら決して評価は高くないけど、そんなことは別にいい。
みんなで楽しければいいじゃないか!っていういい意味で適当な感じが日常の中の贅沢、エンタメとしてニューヨークに根付いているブロードウェイの個性が滲み出ている作品だと思います。


また日本公演では、ただの「アメリカのミュージカル」で公演するんじゃなくて。様々な著名人による翻訳だったりで作品への窓口を大きく広げて、ミュージカル好き関係なく誰もが楽しめるお祭りのような作品として浸透し、日本流に進化したんだなって印象。
個人的にもミュージカルが特別好きではない友達を誘ってもみんな楽しんでくれるし、同じ作品を共有できる輪が広がるのが本当に嬉しい。

今回感じた井上芳雄クリスチャンの凄さ

前回の初演ではキャラクターのイメージから甲斐クリスチャンを多めに観劇していたのですが、昨日の井上クリスチャンを見て、多くの気づきとミュージカル俳優の井上芳雄の凄さを改めて感じたのでここに残しておこうと思います。

その辺の大学生の戯言なので、苦手な方はサラッと流してください。

初演の時は想像していたクリスチャン像より精神的に大人すぎる井上芳雄さんが若々しく見せようとしている感じがして、ちょっと違和感を感じていました。
その違和感からあくまで想像ですが、純粋に単純に盲目に恋に溺れているというよりは恋愛経験の無さから余裕がなくて妄想を拗らせたストーカーの殺人犯みたいな感じに捉えてしまい(実際、自殺未遂と脅迫はしてるけどね)どうしても受け付けられないものがありました。

でも今回の再演で自分の持っているクリスチャン像を頭から抜いて、井上芳雄さんの日本版クリスチャンという視点で見てみると、作品の3時間という時間の中でふらっと観に来た人が理解しやすいミュージカルという文化がまだまだ根付いていない日本での理想のクリスチャン像だなと感じました。

Chandelierで酒に溺れ、酩酊し、サティーンからNOを突きつけられたことで恋心が嫉妬と怒りに移り変わるっていう流れが実に丁寧で繊細に表現されているからクリスチャンの心の動きがしっかりと伝わってきたり、最後のサティーンとの別れでも彼女が目的(彼の音楽を世界に届けること)のために命をかけて、クリスチャンにNOを告げていたこと、病があったことを瞬時に理解し、自分の勘違いと行動を強く後悔する姿が物語の終焉として美しくて綺麗。
その日その時に初めてミュージカルを観るという人でも、特にあの怒涛の展開のムーランルージュについて行くことができる丁寧なクリスチャンだなと感じました。

アーロン・トヴェイトとユアン・マクレガーとクリスチャン比較

そもそもクリスチャンはムーラン・ルージュの世界に観客と一緒に吸い込まれる、いわば観客の代表みたいなキャラクターです。
そして、映画版のユアン・マクレガーとBWオリジナルのアーロン・トヴェイトはまるで彼らに合わせたかのようなキャラクター設定と変更が行われているところから見ると、土地柄や文化によって大きく変化して見えるキャラクターなのかなと思います。
さらに日本版ではBWの設定のままながらも日本化された井上芳雄のクリスチャン像、アーロン・トヴェイトを踏襲しながらもオリジナリティを出す甲斐翔真のクリスチャン像、それぞれの個性があります。

例えば、映画版のユアン・マクレガーのクリスチャンはイギリスの貴族出身で、敷かれたレールへの反発で芸術に逃げ込み、芸術の花開くパリに逃げた青年。
彼は作家とはいえ、椿姫をベースにした実にありきたりなこの物語をドヤ顔で披露するあたりが井の中の蛙だし、怪しい世界や倒錯した芸術の巣窟に憧れが現実社会を知らない温室育ちらしいキャラクターです。
映画版ではこの彼のキャラクターと日陰の花として運命を受け入れているサティーンという真逆な二人の物語がより多くの人に響き、大ヒットにつながったのだと思います。

そして、BWオリジナル版のアーロン・トヴェイトのクリスチャンはアメリカの田舎町から芸術家たちの楽園に自分も芸術家の一人として、飛び込むガッツのある青年。
彼の出身地オハイオ州のライマは大ヒットドラマ「glee」の舞台ですが、(多分カバーソングパフォーマンスで話題を集めたgleeへのリスペクトの上での設定だと予想)実際は人口四万人も満たない小さな街で右も左も分からないパリで芸術の夢を掴むというキャラクター像は実にアメリカ的。ブロードウェイ的。
そして、Al Hirschfeld劇場にいる観客の多くは自分の出身地からパリのムーランルージュに入店する感覚をクリスチャンとともに追体験するわけです。

個人的には「ミュージカル」という世界に一緒に入店するのが井上芳雄クリスチャン、完成された「Moulin Rouge! The Musical」の完成された世界に導いてくれるのが甲斐翔真クリスチャンなのかなと思います。




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