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ファン様は神様です

私は行列に並ぶのが大嫌いだ。
どんなに美味しいと評判の店でも、行列に並ぶのなら食べなくて良いし、どんなに欲しい物があっても、行列に並ぶくらいなら諦める。その私が、1時間も行列に並んだ。

四歳の娘は今、あるアイドルグループにハマっている。そのグループが、とあるショッピングモールに来るというのだ。

アンパンマンミュージアムで初めてアンパンマンを見た時も、ディズニーランドで初めてミニーちゃんを見た時も、あんなに嬉しそうに喜んでいた娘。ずっとTVで見てきたアイドルを生で見られたら、どれほど喜ぶだろう。娘にこのアイデアを提案すると、溢れそうな笑顔で二つ返事をした。

待ちに待った当日。朝早起きすると、まさかの雨が降っていた。
親子三人は、横殴りの雨で、もはや意味のなくなった傘を差し、時折吹く突風に悲鳴を上げながら、電車とバスを乗り継ぎ二時間近くかけて目的地に到着した。

「なんじゃこりゃあ〜っ!」
広場へ着いた私は、松田優作ばりに声を上げてしまった。 10時のオープンに合わせて到着したのに、長蛇の列ができているではないか。

あぁ。せっかく前方でステージを見せてやりたかったのに、これでは豆粒ほどしか見えない。
そう思った皆々様。これで落胆するのはまだ早いのでございます。

実は今回、最後尾に並んでも前で見られるチャンスがある。ナント!子連れなら抽選で優先エリアに座らせてもらえるのだ〜!ヒャッホゥ!何と素晴らしきシステムよ。早速、その抽選とやらをさせて頂こうではないか。

「抽選券、抽選券、、、。」
どこにも見当たらない。

え!何ですと?抽選券をもらえるのは、2750円を払ってCD&DVDを買った人だけですか?
なんとまぁ!
では聞くが、長蛇の列に耐えて並んでCD&DVDを買ったは良いが、抽選に外れたら全ての苦労が水の泡ではないか。

いえいえご安心ください。
CD &DVDをご購入頂いた方は、もれなく『ハイタッチ』券がついてくるのです。そう。2750円払えば、絶対にハイタッチができるのです。

イヤイヤ、ちょっと待っておくんなはれ。
ハグならまだしも、ハイタッチですか?
ハイタッチなんて一瞬じゃないですか。
こんなもん、誰がやりたいと思うか?

「やりた〜い!」

体をくねらせて喜ぶ娘。

・・・仕方がない。並ぼうじゃないか。
ハイタッチ券と抽選券をもらうために、覚悟を決めて列の最後尾へと並んだ。

「ひゃーっ!」
容赦なく吹きつける雨風に、あちこちで悲鳴があがる。5分ほど並んだだけで、体の芯から冷えてきた。

「せりちゃん、お父さんと一緒に中で遊んでて。お母さんが並んでもらってきてあげるからね。」

母は強しだ。自分のためになら絶対に並ばない行列でも、娘の笑顔のためなら並べるのだ。

行列は、永遠に辿り着けないかと思うほどゆっくり前に進んだ。脚は棒のようになり、体の芯から冷えてくる。雨風のお陰でダウンジャケットもすっかり濡れてしまった。それでも誰一人、列から出ない。ファンとは何とありがたいものか。

極寒地獄の行列に一時間ほど並び、ようやく私の順番が来た!まずはCD &DVDの注文書に記入だ。住所を書く手が、寒さで震える。受け取りは店頭受け取りか配送の選択だったが、再び二時間もかけて来るのはゴメンだ。配送に印を打つと、なんと送料が900円もするではないか。

えぇ〜っ!!!
こんな薄くて軽い荷物が、900円っすか?

仕方がない。イヤなら店頭に来るしかないのだ。私は2750円と900円を足して3650円を支払い、代わりにハイタッチが券をもらった。

さあ!これで抽選券ももらえるぞ!
係に案内され、抽選券を手渡される。
「抽選の当落は、どうすればわかるのですか?」
「もう、そちらに書いてあります。」

目線を下にやると、『ハズレ』の文字が飛び込んできた。

おおお、、、。
一時間も並んで、秒殺されるとは。。。

しかしハイタッチ券は獲得したし、何より歌のステージを見せてやれる!毎日テレビを見て、一緒に踊って歌った曲だ。この日のために覚えた曲だってある!

10時から並び、ハイタッチが券をゲットしたのが11時過ぎ。そして本番のステージは14時からだ。
それまでの間、お昼ごはんを食べたりショッピングをして、いよいよ14時。ワクワクする娘を連れて広場へ向かうと、既に大勢の人が押しかけていた。
我々は、抽選に漏れたから仕方がない。諦めて後方に並んだその時、

「今日のステージは、悪天候のためトークショーとなります!歌は歌いませんので、ご了承ください!」

えぇ〜っ!?そんなぁ。。。
この日のために、歌も踊りもマスターしたのに?

結局、ここまでの思いをしてやってきたものの、豆粒ほどの女の子たちが不慣れなトークでグダグダになっているステージを見ただけだった。最後のハイタッチも、20分ほど並んで1秒で終わった。

しかし、こんな風に思うのは、私自身が彼女らのファンでないからだ。娘は、豆粒ほどのグダグダトークショーだろうが、一秒で終わるハイタッチだろうが、ニコニコ嬉しそうにし、「楽しかったー!」と喜んでいた。

ファンとは、なんてありがたいのだろう。
思い起こせば、私がピアノライブをやった時も、ファンの方はこうして足を運んでくださっていたのだ。早くから並び、グッズを購入し、ライブを盛り上げてくださる。
頭ではわかっているつもりだったが、体験してみると、その何倍も凄いことだと思った。

ファンあってこその芸能人。
ファンの皆様あぁ!
いつもいつも、本当にありがとうございますーっ!!!


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