二者択一の模範回答
グリーンチャンネル『M'S TV』の現場に娘を連れて行くことになった。主人が高熱を出したため、保育園のお迎えに行けないからだ。
お気に入りのワンピースを着た娘の手を引き、控え室に入る。
「今日は、よろしくお願いします!」
と照れながらも皆さんにご挨拶し、お絵描きをしながら矢部みほちゃんが来るのを待っていた。
毎週木曜日に放送の『M'S TV』は、せりも一緒にオンエアを見る。今までテレビの中でしか見られなかったみほちゃんに、今日は初めて会えるのだ!
みほちゃんのために、お花を買った。
花が大好きな娘は、みほちゃんをイメージしながら自分で選んだ。
「おはようございまーす」
ついに、みほちゃんが来た!
せりは嬉しさと恥ずかしさで、体をクネらせながら私の後ろに隠れた。
モジモジしながら、みほちゃんに花束と似顔絵を渡す。
みほちゃんは、どちらも喜んでくれた。
そして、みほちゃんと2ショット写真を撮ってもらい、
みほちゃんに手を繋いでもらってスタジオへ向かい、
収録後にはみほちゃんにお小遣いまでもらい、
帰る時にはみほちゃんのことが、もっともっと大好きになっていた。
帰り道、私は娘に尋ねた。
「みほちゃんに会えて良かったね、実物は、可愛かった?」
「可愛かったー!」
「良かったねぇ。みほちゃん、大好き?」
「だいすきーっ!」
娘は大喜びで、家に買った。
そんな話を京都の実家に帰った時、家族に話した。するとおばあちゃんが聞いた。
「せりちゃん良かったねぇ。みほちゃん、可愛かった?」
「うん。可愛かったーっ!」
ニコニコ答える娘。
「そうかぁ。じゃあ、みほちゃんとママ、どっちが可愛い?」
おばあちゃん、イジワルな質問である。
娘は考えた。
こんな時、何と答えたら良いのか?
三歳児の頭の中で、色々な回答が頭を駆け巡った。
「みほちゃんは可愛くて、ママは綺麗なの!」
おお〜っ!!!
まさかの答えに、大人たちは大笑いした。
三歳児ながら、なんと素晴らしい返答か。
誰も傷つけず、二者択一の答えを出したのだ。
「どっちがタイプ?」
仕事の飲み会で、男性からよく聞かれる質問だ。これは『六車に選ばれたい』ということではない。単純に『どちらが勝つか』という男どうしの勝負をしているだけなのだ。
この時、一番盛り下げる答えは、
「どちらか選べない。」
である。両方を立たせるつもりで答えても、勝ち負けを決めたい男性に『引き分け』は無いからだ。
従って、その場を和ませようと
「どっちもイヤやわ!選べへん!」
などと笑わせようと思っても、誰も笑わない。両方を落としてみたとて、結局のところ『引き分け』は受け入れられない。
かと言って正直に
「鈴木さんの方。」
と選んだとしよう。
これも、アウトだ。
なぜなら選ばれなかった方は、『自分は負けた』ということになり、その後明らかに不機嫌になるからである。
私はこれまで、この手の質問にはウンザリしながらも、必ずどちらかを選んできた。その結果、必ず片方が不機嫌になっていた。
しかし、三歳の娘は違った。
ちゃんと二者択一の答えを出しながら、両方を立たせたのだ。恐るべし三歳児。
これからは娘の処世術を見習おうと思った、45歳の母であった。
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