ボロ屋で見つけた両親の愛
義行と能里は、よく喧嘩していた。
大概の原因は、義行の帰宅時間が連絡も入れずに遅いこと・約束を守らないことなどだったと思う。
今でも鮮明に記憶している場面がある。
私が3〜5歳くらいの頃。
クリスマスの日、家族でお祝いすることを楽しみにしていたが、その日も義行の帰宅時間は遅かった。
私が布団に入ってウトウトしていると、玄関から喧嘩する声が聞こえて来た。
「なっちゃんが楽しみにしていたのに、なんで連絡もよこさないの!?」
「こっちだって付き合いがあるんだ!仕事なんだから仕方ないだろ!」
みたいな言い合いで。
私がそーっと玄関に顔を出したら、それに気づいた義行は、私に手を振った。
鬼の形相から満面の笑顔にコンマ1秒で豹変した場面を、今でもよーく覚えている。「さすが役者」と幼心に思ったような思わなかったような…。
その後夜中の11時くらいに、食べずに取ってあったクリスマスケーキを3人で食べたのだけれど、正月先取りでほっぺをお餅みたいに膨らませていた能里の横で、私は「こんな遅くにケーキを食べている」ということに、少しワクワクしていた。
そんな夫婦の、仲の良かった場面も一つ、覚えている。
朝目を覚ましたら、二人は一つの布団で寄り添って寝ていた。
私に気づくと「おいで」と言って、真ん中に入れてくれた。
肌色のパンとパンの間でぬくぬくのサンドイッチの具になった私は、とても嬉しい気分でほんわりとしていた。例えるとしたら、淡い黄色の卵サンドだったかな。
器用でマメだった義行が、恋人時代に能里に送った、メルヘンな手作り本を見つけたことがあった。
めくってみたら義行と能里に羽が生え、蝶々になって飛んでいる写真のコラージュが。
恋をしたよっちゃんの、頭の中お花畑状態。
生まれて初めて出会ったコラージュ作品だ。大変感動し、何度開いて見たことか。
あとは小ぶりだけどちょっと立派な額に入った油絵。
額の中で裸一貫の能里は、体育座り。
「寒いわよ〜早く描き終わらせなさいよ〜〜」と恨みがましい青白い顔が、こちらを見ていた。
背景は青・紺色系で殴り塗り。
恋の情熱よ、これ以上燃え盛るな!俺よ、水をかぶるんだ!(画家よっちゃんの声)
最近になって「あの青い裸の絵、どこやったの?」と能里に聞いたら「捨てたわよ。だって暗いんだもん、あの絵」と、笑って言い放った。
もしあの絵が、毛布を掛けててよくって、背景がピンクや赤だったら捨てなかったかい?能里さんよ。
あのコラージュ絵本に対しても割とクールな反応だったし、義行の愛情表現は能里のハートには不適合だったのか。
私だったらめっちゃ嬉しくて、棺桶まで持って行く。
どんなに破茶滅茶で矛盾だらけな男でも、私はそれに愛を見出して、泣いたり笑ったりするだろうなぁ。
でもその『クールさ』が、死ぬまで離婚という形は取らず、付かず離れずで二人がやって行けたポイントなのかもなぁとも思う。
夫婦の形はそれぞれよ。
理想は「いつでもいつまでも仲良く」だけれども…
と、既婚者となった私も色んな想いを痛感する日々である。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?