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歴史小説「Two of Us」第2章 J-5

~細川忠興父子とガラシャ珠子夫人の生涯~
第2章  明智玉のお輿入れ~本能寺の変
 

J-5

 首飾りのように、武家の嫁入りに欠かせない印籠筒が、あなた珠子が頭を深く下げた瞬間に、座敷の畳に届くほどぶら下がった。

 この両端を括り付けた白無垢と同じ生地の筒は、中身は通常、持病薬や御守り、親元から伝授の折り紙、本人なりの嫁入りの戒めみたいなMEMO、などが入っている。竹筒の両端を縛りテグス太縄あみで首から下げている。
 いずれは、この印籠筒がキリシタンのロザリオに取って替わるのだが。


琵琶湖畔に浮かぶ、坂本城本丸天守閣と櫓。
現在は跡地に公園が在るのみ。


 あなた珠子が顔を上げると、並んだ3名とも笑顔の余裕が見られた。
 何度もあっては嬉しくもないが、初婚でまだティーンエイジの珠子には、緊張感で固まっていた動作が、彼ら3名の笑顔によって、ほぐれて行くのが自身でも感じられた。

 清原イト(後のマリア)小笠原少斎だけ、明智方と向かい合うように正面上座の右側へ脇席に着いた。
 広間の真ん中に座したままの松井康之は、さらに奥へとすり膝で進み、珠子の前2尺2寸まで近づく。

「珠子様。何もかもが名代で申し訳ござりませぬ。
お顔を拝借致すは後々として、本日は御輿櫓を3台ご用意致しております。真ん中の1台は珠子様。前と後ろのお方は、いかがなさいますか❔」

 あなた珠子はチラッと脇座の左馬之助を伺った。
「お好きにお選びくださいませ。わたくし共でも構いませぬが、お輿入れの櫓は女人のみと決まってございます。この左馬之助は養子の身ゆえ、珠子様がお選びください」
 あなた珠子は大きく頷き、正面を向き直って応える。
「かしこまりました。
 それでは、前方を行く御輿は、清原のイト様でお願い致します」

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