サクラの少年
小学校高学年、新学期、木造校舎、
最上階の古いけれど新しく一年過ごす教室。
クラス替えはなく、とりあえず出席番号順に座り、慣れない机や椅子の高さに馴染めずにいると、ホームルームで一人、満面の笑みを浮かべた女性教師が両手を広げてこう言った。
「みんな、後ろを見てごらん、お山の桜が一望できるだろう。うちのクラスが独り占めだよ」
女子児童は感嘆の声を漏らし、男子児童はへえと味気ない反応を見せた。
花より団子どころか、花より遊びの男子であった。
我がクラスは校舎の端で壁二面に窓があり、見晴らしは他の組の連中に羨ましがられた。
遠くに見えるお山の桜は、正直ああ桜が咲いているなという程度の眺望で、何より校庭にも桜があるので、その当時はさほど有難みを感じなかった。
とは言え、休み時間にお山の桜の話で花を咲かせる女子たちに釣られて、チラチラとその景色を気にしたりはした。
そんな中、手すりに頬杖ついてお山の桜をじっくり見つめる男子がいた。
「桜ってそんなにいい?」と尋ねると
「でも、綺麗でしょ」と答えた。
「別に」と、そっぽを向かれると思っていたので意外だった。
当時は変な奴だなって感じていたが、
今思えば、自分らしさを曲げないカッコよさがあった。
どうぞよろしくお願いします。