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所詮、人の感想

 人生にガイドが欲しい。

 きっと多くの人がそう思っていることだろう。
でも実際は自分が生きてみないとわからない。だって、普通の旅と違って人生の旅はその人の性格、環境、出会う人で大きく変わっていくのだから。全く同じ経験をしている人なんて過去にも先にもきっと誰もいない。
自分で紡いでいくしかないから。

 それでも尚、人はガイドを欲しがる。そして今ソーシャルメディアやAIによって、自分の人生を生きながら必要な時に誰かのアドバイスがもらえることが現実になった。
 例えば肩こりがしんどいと思っていたら、肩こりに良い体操が山程紹介してもらえるし、笑いたいと思ったらいろんなお笑い芸人の動画が次々に目の前に現れる。自分が進むべき道へのアドバイスが言葉になって現れてくるし、自分と似た経験をした人の経験談だってすぐに見ることが出来る。

 でもそれってやっぱり誰かの経験で、誰かの人生。自分じゃない。
わかっちゃいるけど、その便利さに埋もれていくとそんな現実から目を背けたくなる。自分じゃない誰かの人生を生きているかの様に錯覚しては、現実に絶望してガックリする。

 ある時、娘と近くにオープンした手作りハンバーガー屋に行くことにした。そこで私はそのハンバーガー屋のクチコミを見てみた。
 日頃「失敗してなんぼですよー」と言っている語学講師の私が、ハンバーガー屋で失敗したくないと思ったのだ。今考えたら矛盾に満ちているけれど、その時そう思ったことは自戒を込めてここに書き残しておこう。

 「あれっ、ここ星3つだよ。しかもクチコミがあまり良くない。出てくるのが遅いとか、ポテトがサクサクじゃないって書いてある。」
いろいろなクチコミを声に出して読み上げる私に娘が言った。
「でもさ。気になってたんなら行ってみようよ。行ってみて良くなかったら『良くなかったな』って思えばいいし、良かったら嬉しいやん」

 そこで自分が「失敗したくない」と思っていたことに気付いた。若い頃自分の直感とわずかな情報だけを頼りに行きたい場所に行った。どうなるかわからないことにいろいろ挑戦してきた。そんな私が、自分が食べたいと思ったハンバーガー一つに「失敗したくない」だなんて。
 ちょっと悲しくなった。

 そしてそのハンバーガー屋に向かった。めちゃくちゃ美味しかった。
想像以上に美味しかったし、店を出る時に私はクチコミに書かれていたことを忘れていた。そこにあったのは、私の感想だけ。

「めっちゃ美味しかったね。また来よう」

 私がもし他の人の感想に従って自分の行き先を変えていたら、この満足感に出会えてなかったのかな。でももしクチコミ通りでよくなかったとしても、娘と笑い飛ばせていた気もする。

 大事なのは、自分がしたいと思ったことをしてみること。そして自分なりの感想を持つこと。人生はその積み重ね。
 自分の人生を自分の足で生きていたい。

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