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嘘つきアーニャの真っ赤な真実(読書感想文)

 弟に勧められて読んだ本。作者もタイトルも初めて見るし、そもそもチェコにもソビエトにも興味を感じたことがないのに、なぜ...と思ったが読み進めていく間に理由がわかった気がした。

 これはエッセイ風物語なのか物語風エッセイなのか。はっきりと登場人物にマリと出てくるし、作者の経歴と重なるのでエッセイなのだろうが。フィクションかと思わせられる程、静かな衝撃が幾度となく押し寄せる。

 小学校中学年から中学2年までの間を過ごしたプラハのソビエト学校での話、そしてそれから30年後の話。激動の時代を生きる子どもたち、そして社会が子どもたちの考え方や生き方に根を下ろす実態。時々楽しい海外生活のエッセイかと思うくらい軽快でワクワクする描写もありながら、不意に出てくる社会情勢。あまりにもリアルで、心が揺さぶられた。

 そして教育に携わる者として心に残ったのは、ソビエト学校から日本に転校してきた著者(マリ)が衝撃を受けた部分、日本人の子どもたちが教師や友人をデブとかハゲとか出っ歯とか...「人間としての本質とは無関係な、当人の意志ではどうにもならない容貌上の特徴をあげつらって呼んでいることだった(本文抜粋)」ということ、そしてその本人もそれを許容しているのが日常の風景となっていること。
 私も子どもだけでなく大人のそういった言動にしばしば心を傷めているので、自戒も込めてこれは許されるべきではなく、怒っていいことなんだと改めて思った。人としての尊厳は子どもも大人も守られるべき。ずっと中にいるとわからなくなってしまうことの一つだ。

 そのエピソードに留まらず、生き方、在り方を考えさせられる本。そして歴史を改めてもっと知りたいと思う内容だった。あまりにも知らないことが多過ぎる。
 今世界各国で起きている紛争や戦争は様々な歴史の延長線上にあるということを想った。
 
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<心に残った言葉>

●「たしかに、社会の変動に自分の運命が翻弄されるなんてことは無かたっ。それを幸せと呼ぶなら、幸せは、私の様な物事を深く考えない、他人に対する想像力の乏しい人間を作りやすいのかもね。」

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