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『平家物語』扇の的04(古典ノベライズ後編)

(昨日 ↓ から続き)

 今度は遠く船の上、お辞儀をしていた太い男は、顔を上げると自身の黒スーツの懐から白のスマートフォンを手に取った。
 一方砂浜の宗隆(むねたか)は下向きの拳銃をひそと握ったまま、さきほどのジュリ扇(せん)のときと同じように自然を全身で感じ始めた。
 自然と一体になる感覚さえあれば、どんなに風が強くたって、当てる自信が彼にはあった。
 ちょうどそのとき、伊勢の電話が鳴った。
 
『終わりや、終わり。見事なもんや。あんさんの部下は、ほんま大したもんやで。こっちはえらい感動しましてん……って、何してはるんです?』

 見れば砂浜の宗隆が、太い男の首のあたりにマズルを向けて、狙いを定め、撃鉄を上げていた。

『なんでやねん。もう扇はあらしまへんで。拳銃は、いらん。こっちに向けたらあきまへんがな』

 などとスマートフォンで伊勢に投げつける彼の言葉が終わるのを待つこともなく、宗隆は引き金を引いた。
 炸裂する音がスマホ越しに届くより速く弾は飛び、引き金を引くのとほとんど同時に太い男の首を撃ち抜いていた。

「んな、アホなぁ……」

 これを最期の言葉にして、黒スーツの太い男は小舟の上から海へと真っ逆さまに落ちていった。
 舟の上の関西の者たちは音もなく唖然とするのみで、た方の砂浜の関東の者たちはまたしても諸手を高くスタンディングオベーションだ。

「やったぜ!」

 と高らかに歓声を上げる者もいた。

「容赦ねぇなぁ!」

 と驚き声を張り上げる者もいた。

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