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『平家物語』扇の的03(古典ノベライズ前編)

(過去掲載分 ↓ からの続き)

 丸刈りの宗隆(むねたか)青年は、沖で女が持っている赤い派手な扇に向けて、拳銃をぶっ放した。
 マズルの遥か遠い先では、伯父貴の愛人を人質にとった関西の者たちが小舟に分乗しているのだった。
 宗隆青年は小柄だったけれども、12、3歳のころから殴り合いなどケンカは強く、肝は太い。
 辺りに銃声が響き渡ったころにはもう、弾丸は、遠く小舟の上で女が振り乱す真っ赤なジュリ扇(せん)の手元ギリギリをスパリと撃ち抜いていた。

「な、なんやてぇ!」

 沖の小舟の上で。
 さきほど先輩の伊勢に電話をかけた西の太い任侠は、腰も抜かさんばかりに驚いた。
 まさか本当に撃つとは。
 しかも、臆さず当ててきた。
 どしんと肚の据わった、そのうえ拳銃の腕がものすごいのがいたもんだ。
 どうやら東の連中の中にも、肝の据わったのがいるようである。
 彼は自身の上層部から「関東の連中がどんなものか確かめてこい」と言われていたのだった。
 最初は正直、バカにしていたけれども、それは早計だったのかもしれぬ。
 まだ耳に残る銃声の余韻を感じながら、太い男はそのように自身の思い違いを認識していた。

(明日へ続く)

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