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映画「前科者」

映画館を出ても涙が止まらなかった。

余韻が消えないそんな映画を久しぶりに観たなぁと思う。

「前科者」



阿川佳代(有村架純)は保護観察中の元受刑者の更生を助ける国家公務員「保護司」の仕事をしている。そんな佳代と保護観察中の元受刑者たちとの交流を描く本作。心に何かを隠しながら犯罪に手を染めてしまう者、そして保護司の佳代自身の抱えているもの。そんな様々なものが混ざり合いながらドラマを織りなす。


服役から戻ってきた元受刑者に「まずは、おかえりなさいと言ってあげたいんです。」という佳代。
訪ねてきた元受刑者に、手作りの牛丼を食べさせ、銭湯の入浴券を渡すのが彼女のルーティーンである。
保護観察中に次々と問題を起こす元受刑者たちだが、佳代は自分の人生に支障をきたすほどに懸命に向き合う。
刑務所に収容されるほどの罪を過去に起こした彼らに、なぜそれほどまでに寄り添うのか。

「その人に寄り添う人がいれば、犯罪は起こらなかったかもしれない」

佳代のこの一言に尽きると思った。

法を犯してしまうその時、人は孤独であることがほとんどだと思う。
グループ犯罪にしても、その個々は個人で孤独な問題を抱えている。
問題があったとしても、その人に寄り添う人がいれば、一緒に考えてくれる人がいたら。一人じゃないと思えたら。

私は、先日何もかも憂鬱になるようなことがあった。
その時、本当に親身になって全力で私を励ましてくれた友人がいた。
辛くてしんどくて仕方がなかったのに、同時に底知れない幸せを感じた。
思いつめていた気持ちがとても楽になった。

でも、もし私が一人だったら。
思いつめたまま、考えが変わることなく最悪な選択をした可能性だってゼロではなかったと思う。

私が一つ一つの困難を乗り越えて来れているのは、私の周りにいる寄り添ってくれる人たちのお陰だということを、元受刑者たちに懸命に寄り添う佳代から改めて実感した。

そして、元受刑者の人々を佳代越しに見ていると、一人一人が素敵な人間であることを感じる。

最初の対象者でありその後友人になっていくみどりもそうだが「行動力があり、実は人助けが得意でとても優しい」などその人としての魅力を強く感じるようになる。

法に触れた過去を持っていても、素直に友達になりたいと思えるのだ。

ただし、それを引き出すのは佳代であり、佳代の「寄り添い」なのだ。

うまく伝えられないのだが「罪」はその人の「人間性」にのしかかるものでなく、「元受刑者だから」と評価されるものではないことを強く実感した。

「罪を憎んで人を憎まず」

そんな誰かの言葉が頭に過ぎる。

辛く悲しい人も沢山出てきて、胸が苦しい場面も多いのだが、その実感が救済に感じて、鑑賞後はとても温かい気持ちになる。


そして私は何より、役者さんに泣かされた。

今回、佳代は殺人罪で服役していた工藤誠(森田剛)の担当をすることとなるのだが、誠は、

「お腹がいっぱい」

そんなささいなことを、年下の女性である佳代にも言えないほど大人しい。言えないのは佳代を傷つけない為なのだが、その当たり前のような優しさをちゃんと持っている。
簡単に人を傷つけるような人間にはとても思えない、真面目で大人しい人物である。

私は今回、キャストを有村架純さん以外把握せずに映画に足を運んだ。
そして、映画鑑賞中ずっと誠が森田剛さんであることに気がつかなかった。

「この顔、見たことあるけど誰だっけ、、。」

そんなことを思いながらも、誠が誰であるかはどうでもよいほど没頭してエンドクレジットを迎えた。

そして、エンドクレジットで森田剛さんの名前を見て、私は泣いた。

映画を観てこんな泣き方をしたのは初めてなのだが、こんなに素晴らしい俳優さんがいたことに感動してしまったのだ。

それほどまでに、森田剛さんの演技はすごかった。

心の動きが溢れ出ているようで、ギリギリ掴めない。
伝わる演技ではなく、届く演技。

少しずつ誠の人柄が私の心に届いて、ラストシーン。

誠のついに溢れ出る感情が一気に伝わってきて、自然と涙が溢れる。
勝手に感情が揺さぶられる。


そして、さらに主演の有村架純さん、磯村勇斗さんと演技派俳優さんたちが名を連ねる。キャスト全員が本当に演技がうまくて圧倒される。

心に刺さったナイフが、大きな傷、小さな傷、たくんさんのものが透けて見え、伝わってくるので私自身も胸がぎゅっとなるばかり。

特に有村架純さんと磯村勇斗さんは、感情をどっと出すようなシーンは多くはない。
静かなシーンで、ままならない感情の表現がとても上手く、私の心が勝手に感じ取るようだった。


こんな映画を久しぶりに見て、まだ2月だが今年の一番になるような気がしている。



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