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ここが高いよハリウッド。映画撮影にかかる膨大な費用の内訳とは…〜辛酸なめ子の「LAエンタメ修行 伝聞録」

このところお忙しそうなMutsumiさん。11月に来日された時にお話を伺いました。LAではマーケティングの仕事に加えて長編を作るための試作品、パイロット版を制作中だそうです。一人の少年にひそむ、天使の部分と悪魔の部分の葛藤がテーマの作品だそうで楽しみです。オーディションには全米から美少年が集まったのではないかと妄想。しかしプロデューサーのMutsumiさんはCOOLな表情で報告していて、そんな浮ついた念は皆無のようです。

「オーディションでは、ダンスと演技をしてもらいました。音楽を聴きながらついつい体が動いて自分の感情を表現するというシーンと、何かかから逃げて隠れる演技をしてもらいました。そして選ばれたのが金髪と黒髪の少年二人で、それぞれ明るいキャラとダークサイドを表します。演技だけ見たらもっとうまい人がいたんですけど、この二人を同じ人という設定にしたらおもしろいかなって。15歳と20歳です」

iPhoneの画面で写真を見せていただいたら、二人ともキャラが違っていてルックスも素敵な感じで楽しみです。オーディションは一定のレベル以上の人が入れる俳優の組合に加入している人が参加したそうで、100人以上の応募があったとか。

「ティーンエイジャーの男の子の役、と書いているのになぜか50代女性から応募があったりして笑いましたね」彼女には演じきれる自信があったのか、それとも前回の話題に出た、アメリカ人の書類を最後まで読まない癖が招いた勘違いだったのか……。とにかくチャンスがあれば何でもつかもうとするハリウッドの人々のアグレッシブさを感じさせるエピソードです。とりあえず、結果的に才能やポテンシャルのある青年が見つかったようでよかったです。

出演料は俳優ユニオンのルールで決められているそうですが、ユニオンに入ってない新人や、ユニオンに低予算映画の申請書類を出すと規定外の出演料を設定できるそうで、予算的にもそんなにかからなさそうですが、アメリカで映画を制作する時は、出演料以外の諸経費が膨大にかかってきてしまうとのこと。

ロサンゼルスでの撮影で絶対削れないコストとは...。

「今、ロケ場所を探しているところですが、こっちはロケ場所の使用料がすごいんです。フィルムコミッションという公共団体があって、そこがロケ場所の管理をしていて手数料を取るわけです」

日本では警察署まに道路使用許可申請を出しておけばお金はほとんどかからなさそうですが、利権社会のアメリカでは事情が違うようで……。

「建物や公園で一日撮影するとしたら5000ドル以上もかかる場合も。人件費が高いですね。当日、フィルムコミッションの職員が現場に立ち合うので一人1日1000ドル近く払って雇わないといけなかったり。延長料金もものすごい高いです」

1000ドルってかなりぼっています。むしろ映画を制作するよりも、その団体の職員になった方が安定した高収入を得られる……なんて夢のない考えがよぎってしまいました。

「あと、映画でおもちゃの拳銃を使うと、現場でロサンゼルス警察を雇わないいけません。映画撮影では保険に入らないとならないのですが、その保険代も高いですね。そんなことをやってるとどんどん予算が膨らんで....」

だから時々、アメリカが舞台の映画なのに東欧だったりカナダで撮影していたりするんですね。ちなみにだまって撮影してバレたら大変なことになるのでしょうか。

「そういう人いるかもしれないですけど、何かあったときに訴えられたりリスクが多すぎるんです」

LAでロケした「ラ・ラ・ランド」とか、車道を封鎖したり莫大なロケ費用がかかっていそうですが大ヒットしてよかったです。大金を投じた緊張感が監督の志気を高めていたのでしょう。いっぽう、ギリギリ予算を抑えることに成功した作品も……。

「全編iPhoneで撮影したことでも話題になった『タンジェリン』はLAが舞台ですが、予算は全部で約1万(約100万円)ドルという超低予算。友だちの助けを借りたり、人の家で撮影していますが、100万円というのはどうしても削れなかったのがロケ場所代だそうです」

日本の土地関係の利権を持っている人が、ロケ場所代を取るという発想に目覚めないことを祈ります……。アメリカでも、フィルムコミッションに登録していない家の中はロケ場所代は取られないそうで、Mutsumiさんは個人の家やAirbnbで良い場所を探しているとのこと。そして映画の制作費を抑えるためには、これまで培った人脈も生きてくるようです。

予算を押さえる必殺技がある!?

「アメリカでキャリアを積んで、「ラ・ラ・ランド」のチームともつながっている韓国人の映画編集の女性がいるんですけど、その人が今回の作品をすごく応援してくれているんです。いかにお金かけずやるか、編集スタジオとの交渉の方法も教えてくれました。クレジットで、スタジオの名前を『プロデューサー』として出すことでスタジオ代をタダにしてくださいって言うこともできるみたいです。あとは熱意と将来の成功を約束してとにかく口説いて巻き込むことですね。今回は制作で日米両方のチームがいますがその点は同じです」

燦然と輝く『プロデューサー』の称号は、映画業界の人たちにとってかなり魅力的で手に入れたいもののようです。いくらでも増やしていいのなら100人くらいプロデューサーを入れれば予算的にかなり助かりそうです。ロケ地の管理組合の人もプロデューサーとして加えたりして……。そこまでは無理かもしれませんが、こんな錬金術の裏技があったとは初耳でした。

「アメリカではプロデューサーの肩書きはとても重要なんです。低予算映画でギャラが少ない場合、有名な俳優や女優がプロデューサーとして名前が入っていることがあります。それはそのあと有利になっていくから。作品に関わった弁護士や会計士がプロデューサーになることもあります。映画が大当たりしたらお金が入ってくるので、おいしいという部分もありますね」

ギャンブル的な要素もありつつ、自分の名誉や社会的の地位を上げる、という利点があるようです。ハリウッドではレオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピット、アンジェリーナ・ジョリー、マット・デイモン、ドリュー・バリモアほか、名だたる役者がプロデューサーの肩書きを持っています。富が富を生んでどんどん膨らんでいくというループに入っていそうな方々です。

初期投資は膨大でも、一度成功者になったら無限にお金が入ってきそうなハリウッドの映画業界。とはいえお金のことばかり考えていたらクリエイティビティが失われてしまいそうで、Mutsumiさんの手がける新作のように、常に頭の中に天使と悪魔が存在しているのが映画業界人なのかもしれません。

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