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こんな胸の常夜燈も

PEOPLE 1 "常夜燈"を最近よく聴いている。
曲を流しているし、流していないときも頭で鳴っている。口ずさんでいる。

アニメーションで女の子が踊るMVも
バックで小気味良く鳴るリズミカルな伴奏も
語尾を伸ばして歌う声も
影のある歌詞も
すべてがしっくりくる。

冒頭の歌詞は

天国に学校はあるかしら

PEOPLE 1 "常夜燈"

なんだけど、「天国に過去はあるかしら」だと勘違いしていた。
なんか詩的な始まり方だなと思っていたのだが、
この歌は学校から逃れたい人のための歌なのだ。
そのことに気づくと、新しい視界が開けた。
この歌の主体は天国に移住したいと思っているのだけれど、
そこにも学校があるとしたら、ちょっと嫌だなと思っている。

ふらつく足で見つけたのは 古い映画の悲しい結末

PEOPLE 1 "常夜燈"

ここも漠然としていて良い。
勝手に自分の思い出が重なるから。
学校終わりの暇な時間に、ヌーヴェル・ヴァーグの映画を観たことがある。
「大人は判ってくれない」とか、「勝手にしやがれ」とか。
テレビのロードショーとジブリが映画のすべてだった自分に、
新しい映画への扉が開いた。
「ニュー・シネマ・パラダイス」でぼろぼろ泣いた。
「俺たちに明日はない」の結末は衝撃だった。

皆は君の
君は神様のせいにする
その神様の歌声は 今じゃよくあるコンビニの放送

PEOPLE 1 "常夜燈"

失敗すると「あー、〇〇するから」とか、
「だからお前は」なんて言われる。
苦手、できない、うまくいかない、しんどい、そんな感情が渦巻く。
こんな自分になったのは、自分以外の何かのせいなんじゃないかと思う。
足が遅いのも、計算が苦手なのも、人とうまく話せないのも
本当は自分だけのせいじゃ、ないんじゃないか。
努力だけでは解決できないスタート地点の差、
才能の違いみたいなものを感じない日はない。

話は少し変わってしまうけど、
自分の中で「神様の歌声」で「コンビニ」と言えばさ、忌野清志郎なわけですよ。
日本のキング・オブ・ロックであり、セブンイレブンのCMソング。
「デイ・ドリーム・ビリーバーそんで彼女はクイーン」のあの曲。

自分を育ててくれた母親との生活。
目覚ましが鳴って、起きて、「いってきます」って家を出るとか、
「早く風呂に入れ」って言われてケンカしたりとか、
日が暮れて家に帰ってきたら晩ごはんがあって、
当たり前と言えば当たり前なんだけど、
そこから離れたときに、それが遠い思い出になった時に、当時の日常は夢のような日々だったんだと気づく。
「ずっと夢をみて安心してた」というフレーズの温かさに、逆に胸がしめつけられる。

この世界には 未来がキラキラと みえる人もいるというの

PEOPLE 1 "常夜燈"

常夜燈ではサビでこのフレーズが繰り返される。
「天国に過去はあるかしら」と自分が聞き間違えていたのは、
この未来と呼応していたからかもしれない。
「未来がキラキラと見える人もいる」ということに驚いているのだ。
すこし皮肉な感じすらある。
自分には未来は不安や憂鬱の方が大きいというのに、という含みもある。
「輝く未来」とか「無限の可能性」とか、よく聞くフレーズだけど、
不景気で世界情勢も不安定な現代では、
今も未来もそんなに明るくないんじゃないの?っていう。

全ての歌詞を拾いあげていくつもりはないんだけど、
とても気になるところがあって、
文学的な要素も背景に感じるこの二つの部分。

そんな些細な妄想で 胸の爆弾は軽くなるの
先延ばしの朝を迎えて

PEOPLE 1 "常夜燈"

「妄想」と「胸の爆弾」というフレーズから連想したのは、梶井基次郎『檸檬』だった。「えたいの知れない不吉な塊が私の心を始終圧おさえつけていた。」で始まり、本屋である「丸善の棚へ黄金色に輝く恐ろしい爆弾」(=檸檬)を仕掛けて去っていく話だ。不吉な塊≒憂鬱を晴らすため、檸檬を爆弾だと妄想する感じが、この歌詞に重なる気がする。
(ちなみに青空文庫でいつでも読める。)


臆病な自尊心に 匿われて目覚めたのは あの頃の僕らだ

PEOPLE 1 "常夜燈"

「臆病な自尊心」と言えば中島敦『山月記』。
詩人になる夢がうまくいかず虎になってしまう男の話。
「臆病な自尊心」は、「プライドが高いゆえに、失敗することや傷つくことを恐れる」といったニュアンスの言葉だと思う。
思春期の頃の「学校嫌だなぁ」と思っている気持ちとシンクロする感じ。
(こちらも青空文庫でいつでも読める。便利な時代だ。)

『檸檬』も『山月記』も教科書に出てくる教材だったはずで。
どちらもこの曲の影のある歌詞に響きあう作品だと思う。

最後に3つのサビの部分の歌詞。

この世界には 未来がキラキラと みえる人もいるというの
それならば 食えぬものなど置いていかなくちゃ
例えばこんな胸の常夜燈も

この世界では 人をだましたり モノを盗んではいけないというの
それならば 欲しいものなど君にあげるよ
例えばこんな胸の常夜燈も

臆病な自尊心に 匿われて目覚めたのは あの頃の僕らだ
いつか大人になるのならば 欲しいものなど君にあげるよ
例えばこんな胸の常夜燈も

PEOPLE 1 "常夜燈"

常夜燈が結局何なのか。
「食えぬものなど置いていかなくちゃ」
「欲しいものなど君にあげるよ」
って言ってるけど、はっきりはわからない。

自分が胸の奥に、ぐっと握りしめて持っているもの。
失敗を恐れる気持ち?
大切な人がくれたやさしさ?
未来へのわずかな希望?
この曲を聴いた人が、胸に抱えているものこそが常夜燈なのだろう。
そういう聴く人の想像に委ねられた広がりが、
またこの曲の良さを増している気がする。


てなわけで
あかるいようで暗い夜。
今日も常夜燈をつけて眠ります。
おやすみなさい。

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