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アウトサイド ヒーローズ:エピソード9-7
センセイ、ダンジョン、ハック アンド スラッシュ
「『“WATER-POWER form, starting up!”』」
機械音声が“ウォーターパワーフォーム”への変身完了を宣言すると、水の塊の中からメタリックブルーの装甲に身を包んだ雷電が現れた。
怪鳥型オートマトンたちの鳴き声が一層激しさを増す。凧のように宙を舞っていたトンビドレイクたちは一羽、また一羽と羽を畳むと、パワードスーツに向かって走る雷電めがけて、さみだれうって飛び掛かった。
「くそ、容赦ねえなあ! もうちょっとは、生き物っぽい動きしろよ!」
雷電は天井を見上げると、右腕に一体化した丸盾を振りかざした。
「押し通る! オオオ!」
矢のように降り下すトンビドレイクの嘴を、鉤爪を弾き飛ばしながら雷電は走る。地面に落ちた怪鳥はよたつきながら再び空中に舞い上がっていくが、いちいち追撃していられない!
「邪魔だあああ!」
黒い巨人めがけて走る、走る。ヒビが入っていた大型タービンのカウルが崩れ落ちる横を走り抜け、雷電はパワードスーツの前に躍り出た。
トンビドレイク達は巻き添えを避けるように、再び空中に旋回している。逃げ回る魔法少女を追いかけていた巨人が赤い一つ目で乱入者の姿を捉えた時には、雷電は丸盾を巨人に向かってかざしていた。
「“ヴォルテクスストリーム”!」
「『Vortex Stream』」
丸盾の中央から水流が飛び出した。盾が受け止めてきた衝撃をエネルギー源に、渦巻く水塊が矢のように撃ちだされる。
パワードスーツが巨体の割に身軽な動きで直撃をかわすと、水流は巨人の右脛を撃ち抜いた。脚に風穴を開けられたまま、尚も巨体は雷電を打ち倒そうと拳を振り上げる。
「ストライカー雷電!」
「俺は大丈夫だ! いいから、マギセイラーに変身しておくんだ!」
叫ぶマギランタンに冷静に返すと、雷電は走り始めた。勢いこそ失ったものの、盾からはこんこんと水が溢れ出している。
キソ・リバーの豊富な水を限界まで貯えていたのだから、まだ放水は終わらない。床一面を水浸しにした後も水位は上がり続けた。雷電が物陰の間を走りながら逃げ回るうちに、かさを増した水はパワードスーツのひざを、胴体を、ついに頭まで呑み込んでいく。
雷電は背中の水中ジェットを起動し、一層素早く水の中を飛び回る。一方の巨人は緩慢な動きでもがいた後、水底で動かなくなった。
分解されはじめたパワードスーツを見下ろす雷電のそばに、光る球体がふわりと浮かんで寄ってきた。光のベールに包まれた水色の魔法少女……“マギセイラー”のドレスをまとうアマネだった。肩の上に乗ったドットが、小さくバウンドする。
「やったね、レンジ!」
「ああ……だけど、ここからだ」
レンジはスーツの腰からメタリックオレンジの車輪を外すと、右のかかとに取り付けながらマギセイラーに向き直った。
「マギセイラー、頼みがあるんだが」
「えっ、何?」
「俺をのせてくれ」
大真面目な調子のレンジの声に、マギセイラーの目が点になった。
「はあ?」
怪鳥型オートマトンの群は天井付近を旋回し続けていた。彼らに課された指示は、大きく2つ……"鍵"になる金色のディスクを持つ"リーダー"を守ること。そして侵入者を発見次第、攻撃し続けること。
侵入者たちは水中に消えた。しかし異常事態は収束せず、侵入者の排除が完了したとも断定しきれない。オートマトンたちは水面を警戒し続けていた。
水中から白い水柱があがり、怪鳥たちは一斉に笛のような声をあげる。激しく波打つ水面が白く光ると、メタリックオレンジの装甲をまとった人物が迫り上がるように現れた。
「『"Wind Power Form, starting up!"』」
電子音声がフォームチェンジの完了を高らかに叫ぶ。"ウインドパワーフォーム"に変身した雷電は、足場にしていたマギセイラーの光球を、勢いよく蹴って跳びあがった。
「よい、しょおおおおおお!」
強化された脚力で、ひと息に天井近くまで浮き上がる。オートマトンたちが反応するよりも早く、雷電は一羽の背に飛び乗った。
「ウラア!」
貫手で機体の中央を打ち抜く。機能停止したオートマトンが墜落する前に蹴り落とし、踏み台代わりに次の機体へ。雷電は次々とトンビドレイク・オートマトンを落としながら、部屋の中心部に浮かぶ"リーダー"目指して宙を駆けた。
「オオ、ラアッ!」
リーダー機体めがけて大きく跳んだ時、数羽のドローンが重なりあって行く手を阻む。大きな翼が作り出した壁めがけて、空中の雷電は踵を振り上げた。
「“トルネイドエッジ”!」
「『Tornado Edge』」
必殺技の発動コマンドを叫ぶとともに踵を振り下ろす。電子音声が応えると、足先から空気の刃が放たれた。まっすぐ飛んだ刃は数体分の翼を切り裂くと、リーダー機体の胴を真っ二つに叩き斬った。頭部のディスク諸共に残骸が落ちていく。周囲を舞っていた無傷の機体も機能を停止して、次々に水面に落ち始めた。
「やったぜ!」
水上で待ち構えていたマギセイラーがディスクを回収したことを確認すると、雷電は満足そうに一人ごちながら水中に落下した。
「ここ! この扉の向こうだよ!」
先導していたドットが振り返り、大きな扉の前でぴょんと跳ねた。扉の中央に貼り付けられた"中央管理棟"という文字が、照明灯の薄い光に浮かび上がっている。
「ようやくゴールかぁ……」
扉と向かい合って、マギランタンがため息をつく。
「何だか散々な目に遭ったなぁ。オートマトンに追いかけ回されて、ずぶ濡れになって。熱風で溶かされそうになって……」
ドットがマギランタンの視線に合わせて、大きく跳ねた。
「まだわからないんだよマギランタン、ここが"当たりとは限らないんだから!」
「いや、丸いの、ここがきっとゴールだ」
鈍い銀色の初期形態、"バッテリーフォーム"に戻った雷電は、メタリックレッドのナックルを右手に握って言った。
「お前が言った通りだろう。"何か"あるところ以外には"何も"ないんだ、きっと。鍵を捜させて、壁や落とし穴で道を誘導してきたんだ。今回の"仕掛け人"……多分、先代のタチバナさんは、この先にいるはずだ」
「それは……状況証拠的に、可能性が高い、けど……雷電、"イグニッショングローブ"なんか出して、何をするつもりなの?」
「もちろん、俺も確証があるわけじゃないんだけどな」
ドットに答えながら、雷電は左手をドアノブにかけた。
「これが"仕掛け人"の筋書き通りなら、ゴール前にもうひとヤマ、仕掛けがあるだろうと思ってな……行くぞ!」
扉を開け放ち、雷電とマギランタンは中に飛び込んだ。
"中央管理棟"の第一区間は、がらんとした大部屋になっていた。周囲には重厚な隔壁が下されている。
部屋の中央で稼働し続ける観葉植物型の空気清浄オートマトンを、寒々とした照明灯が照らしている。向かい側の壁には、"中央司令室"と書かれた扉がつけられていた。
「ここは、プラントの色々なブロックにつながる連絡通路のゴールになってるんだよ」
ドットが跳ねながら、ぐるりと部屋の周囲を見回した。
「今はどの通路にも、隔壁が下りてるみたいだけど」
雷電とマギランタンは警戒しながら、部屋の中央に足を踏み入れる。
「この部屋には、何もなさそう……?」
「奥に行くしかない、か……うおっ!」
背後で重いものが落ちる音がして、3人……2人と1機は振り返った。重厚な隔壁が下ろされ、先ほど通り抜けてきたばかりの扉を覆い隠したのだった。
「うっそお!」
「やられたな……まあ、想像はついてたけど」
「それじゃあ、やっぱり、あの奥の部屋に入るしかないみたいね」
マギランタンが“中央管制室”の扉に向かって歩きだすと、ドットは慌てて追いかける。
「待ってマギランタン、何があるかわからないから、気を付けて!」
二人の背中を見ていた雷電は、艶やかな光沢をまとった糸が上から垂れているのに気づいた。
「何だ? 雨漏り……じゃないな」
水滴のようなそれは、強い粘度のために球をつくりながらゆっくりと落ちてくる。糸をたどった先の天井には半透明の塊がぶら下がり、粘液の糸を辿ってゆっくりと落ち始めているのだった。
「アマネ、上だ!」
「えっ?」
マギランタンとドットが見上げた時には、粘液をまとった塊は天井を離れて落下を始めていた。
糸をひいた粘液の先、球になった水滴が床に落ちた途端にうっすらと白い煙があがるのを見て、雷電は走り出す。
「重装変身!」
レバーを引き上げ、叩きつけるように再び引き下げて叫ぶと、ベルトが電子音声で応えた。
「『OK! Generate-Gear, setting up!』」
フラメンコ・ギターの音色が響くと、雷電の装甲を赤い炎が包んだ。
「ウオオオオ!」
火の玉となった雷電が、叫びながら駆ける。天井から落ちる粘液が炎に触れると、焼け焦げたにおいを放ちながら、瞬く間に蒸発した。
「『Equipment! “FIRE-POWER form”, starting up!』」
「ウラア!」
電子音声が変身完了を告げると、炎の中の中からメタリックレッドの拳が突き出した。
半透明の塊は身をよじるようにして雷電の拳をかわすと、部屋の中央に着地する。球体だったものはぐねぐねとうごめき、触手を伸ばしながら、甲冑をまとったヒト型に変態していった。
「こいつ……!」
「ああ、“ミミック”の女王……」
解析を済ませたドットが、大きく飛び跳ねる。
「いや、そっくりに作られたオートマトンだよ、これ!」
雷電と魔法少女がミミック・クイーン型ドローンに向かい合った時、天井のハッチが開いた。室内のそこかしこに、金属塊が降り注ぐ。鈍い音を立てて床に落ちた黒い塊は自ら組みあがり、ヒト型となって次々と立ち上がった。
「戦闘用オートマトンまで!」
マギランタンの声に、オートマトンのセンサーライトがオレンジ色に怪しく点滅する。オートマトンの群れは重い体を引きずるような、歪な動きで一斉に笑い始めた。
「ヒヒ! いヒヒヒ!」
「女! ミュータんトの、おんナあああ!」
雷電は舌打ちをして、周囲を取り囲むオートマトンを睨みつけた。
「こいつら……“ヨシオカ”かよ、畜生! 何でここにいるんだ……?」
「落ち着いて、雷電!」
ドットが大きく跳び上がって、雷電の肩に飛び乗った。
「“ヨシオカ”の思考パターンデータは、カガミハラで保管されてるよ。こいつらはただ、“ヨシオカ”の動きをそれっぽく再現しただけだ!」
ミミック型オートマトンが指揮をとるように右手をかざすと、黒いオートマトンたちは雷電と魔法少女に向き直り、一斉に身構えた。
「“先代”ってヒトは、どれだけ性格が悪いんだっての! ……いくぞ、マギランタン!」
叫びながら雷電が走り出すと、メタリックレッドの装甲から炎雷が迸った。
(続)
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