見出し画像

アウトサイド ヒーローズ:特別編11

劇場版ストライカー雷電:インフィニット エナジー ウォー

 鈍い銀色の装甲スーツが駆け、青い電光が弾け飛ぶ。ストライカー雷電は電光をまとった両手の拳を、激しく打ち付けた。

「オオオオオオ!」

「ムウウ……」

 クロームイエローの装甲を纏うアトミック雷電は動じない。両手に構えたトンファーで、打撃の嵐をいなす。拳と双槌がぶつかり合うたび、青と赤の火花が迸った。

「フン!」

 アトミック雷電は大きく腕を薙ぎ払った。距離を取ったストライカー雷電に向けて、双槌に仕込まれた銃の引き金を引くと、赤黒い電光を纏った光弾が放たれる。ストライカー雷電が身をかわすと、光弾は背後の城壁に直撃した。
 古ぼけた壁を覆う苔や、まとわりつくツタが焼け落ちる。赤熱した金属の壁面が、丸く縁どられてむき出しになった。
 アトミック雷電が光弾を放つたび、次々と城壁に円形の文様が刻まれていく。ストライカー雷電は走り回りながら、ひたすら銃撃から逃げ回っていた。

「クソ、とんでもない威力だな!」

「分カッテイルハズダ、すとらいかー雷電。ソノふぉーむノママデハ、私ニハ勝テンゾ」

「それはどうかな!」

 城壁の前を走り回っていた銀色の影は、アトミック雷電の背後に素早く回り込んでいた。

「ナニ? 小癪ナ!」

「オラアッ!」

 アトミック雷電が振り返る。身じろぎをする隙をついて、ストライカー雷電が脚を振り抜いた。膝の裏を蹴り飛ばされて体勢を崩したクロームイエローの雷電は、続けざまに放たれたミドルキックの直撃を受けて倒れ込んだ。
 ストライカー雷電はマウントを取ると、アトミック雷電のヘルメットに向けて拳を振り上げる。

「手加減はできねえぞ、歯ぁ食いしばれええええ!」

 体重を乗せた拳が続けざまに、アトミック雷電のヘルメットに叩きこまれる。一発、二発、三発……!

「オオオオオ! ラアッ! ラアアッ! オラアアアッ!」

 ヘルメットが激しく揺れるが、アトミック雷電は不気味なほど無言だった。
 打撃を受けながら右手を少しずつ動かし、ついにストライカー雷電の足首を掴んだ。

「ムウウ……フン!」

 鈍い銀色の足首をがっちりと掴んだまま、アトミック雷電は起き上がる。そのまま相手の足をひねり上げ、至近距離から銃を突きつけた。
 引き金に指をかける前に、ストライカー雷電は動き出していた。

「“サンダーストライク”!」

「『Thunder Strike』」

 必殺技の音声コマンドを叫ぶと、ベルトの人工音声が応える。ストライカー雷電の全身に走るラインが青白く輝いた。

「オラアアアッ!」

 片足を掴まれたまま、電光が迸るもう一方の脚を振り抜く。アトミック雷電の手を振り払って、ストライカー雷電は後ろに飛びのいた。

「見事ナ判断ダ。性能ノ劣ルすーつデ、ココマデ粘ルトハナ。ダガ……」

 アトミック雷電はゆっくりと立ち上がり、両手の双銃槌を構えた。

「“さんだーすとらいく”ヲ放ツニハ、激シクえねるぎーヲ消費スルハズダ。ソノ勢イガ、何時マデ続クカナ?」

「抜かせ! まだ、ここからだぜ……!」


 柔らかな春の陽射しを浴びながら、兵士たちが遺跡の街を進む。リーダー格の兵士が、ヘルメットに備えられたインカムに向けて呼びかけた。

「応援部隊、間もなく現場に到着する! 状況はどうなっている? ……応答しろ!」

 数拍置いた後、ザリザリと音を立てて通話回線が開いた。

「『早く来てくれ! クソ、俺たちじゃ抑えきれん……いや、ダメだ、来るな!』」

 数区画先で鈍く重い音が響き、砂埃があがる。建物が崩れ落ちたような、大きな衝撃だった。

「はあ? 何を言って」

「『奴は、本部まで根こそぎにする気だ! 逃げてくれ、早く!』」

 増援部隊のリーダーを遮って、通話相手の兵士が叫ぶ。おびえた声色には既に、戦意の欠片も残っていないようだった。リーダーが檄を飛ばした。

「何を言っている! 敵は女一人なんだろう? 何故、警備班総出で抑え込めないんだ!」

「『あれはタダモンじゃない! そうだ、魔女……!』」

 行く手の街角から、ピンク色の閃光が走る。イヤホンから聞こえていた兵士の声は、ノイズと共にかき消えた。リーダーは必死に、インカムに呼びかける。

「おい! おい! ……何が起きてるんだ!」

「先行します!」

「無茶はするなよ!」

 同行していた兵士の一人が走り出すと、数人が銃を構えて後に続いた。
 現地部隊が消息を絶ったと思われる区画に足を踏み入れようとした時、建物の陰から放たれたピンク色の光の帯が、兵士たちに突き刺さった。

「何っ……!」

 リーダー格の兵士の目の前で、光を浴びた兵士たちがその場に崩れ落ちていく。

「負傷者を回収しろ! 警戒は怠るなよ、向こうのブロックに、何か……」

「みいつけたぁ……!」

 指示を飛ばすリーダーの頭上から、楽しそうな声が降ってきた。建物の上に立つ人物が、アスファルトに影を落とす。

「上だ、撃て!」

 生き残った兵士たちが一斉に銃を構えた。
 廃墟の屋根には、ひらひらのドレスと三角帽子を纏った娘の姿があった。ひときわ目を引く金色と銀色のオッド・アイが爛々と輝き、警戒体勢をとる兵士たちを見下ろしている。

「何だ、女の子……?」

「油断するな、通話記録にあった通りだ! あれが敵だ、撃て!」

 リーダーの指示を聞いて、小銃から弾丸の嵐が吹き荒れる。ピンク色の魔法少女はドレスを翻し、弾幕の中に突っ込んだ。

「何だと……!」

 恐るべき速度で、魔法少女が駆ける。ドレスの周囲に展開されたナノマシン装甲によって、わずかに掠めた弾丸が空中で溶け消えた。
 少女の姿をしたおそろしいものは手にしていた杖を正眼に構え、兵士の一人に飛び掛かった。ピンク色の光の粒子が杖の先から尾を引いて、振りかぶった軌道を描く。

「ひっ……!」

「やあああっ!」

 胴打ち、一閃。

「ぐっ……!」

 打ちぬかれた兵士は悶絶し、崩れ落ちるように倒れ込んだ。周囲の兵士たちが、一瞬固まりつく。
 魔法少女は血しぶきを振り落とすように杖を振り抜いた。燃えるように輝く金銀妖瞳に射抜かれて、残った兵士たちは息をのんだ。

「安心なさい、不殺傷設定よ」

「撃て! 撃て!」

 リーダーの叱責に兵士たちが体勢を立て直す。しかし、少女の攻勢は尚早く、そして鋭かった。
 至近距離からの銃撃をすり抜けながら杖を振るい、兵士たちを次々と打ち倒していく。

「くそっ……!」

 劣勢を悟ったリーダー格の兵士は、生き残っている部下たちとその弾幕を隠れ蓑に逃げ出した。

「本部! 本部、応答せよ! こちら、サッキョー区域に向かった増援部隊! 鎮圧作戦に失敗した! “アレ”はとめられない! 生き残った兵士の保護を……!」

 インカムに叫びながら、リーダーは一目散に走る。
 路地の陰に飛び込もうとした時、後を追う部下たちともども、ピンク色の閃光に包まれた。間に合わなかった……と思う間もなく、兵士たちは意識を失った。

 小さなモーター音があちらこちらから聞こえてくる。目を向けると、靴ほどの大きさの小型オートマトンが崩れた建物に群がっていた。キョート・ルインズが住民によって放棄された後も街を整備し続ける、自動プログラムの端末機だった。
 マギフラワーは倒れた兵士たちを一人ずつアスファルトに並べ、手足を縛り上げてから顔を上げた。耳を澄ませるが、廃墟の街を歩く足音はなかった。オートマトンと自分以外、動くものの気配はない。

「これで終わり、か」

 立ち上がって杖をかざすと、ナノマシン繊維によって構成されていたドレスが光の粒となって消える。新人巡回判事・滝アマネは魔法少女への変身装置“マジカルチャーム”をポケットに仕舞った。

「さて、と」

 もう一度、周囲を見回す。安全を確保した後、倒れているリーダー格の兵士に歩き寄った。頭を無造作に引き上げて、インカム付きのヘッドギアをむしり取る。
 アマネはイヤホン部分を袖でゴシゴシと拭くと、通話回線が開いていることを確認して自らの耳に当てた。

「あー……こちら、ナゴヤ・セントラル保安部所属、滝アマネ巡回判事であります。先ほど、この無線装備を身につけた者たち数名から銃撃を受けたため、これを鎮圧。捜査官殺害未遂の現行犯により、緊急逮捕いたしました。つきましては事情聴取のため、そちらの責任者の方からお話を伺いたいのですが……もしもし?」

 イヤホンからは、砂嵐の音だけが返ってくる。

「オノデラ保安官に手伝ってもらおうかなあ。“ブラフマー”の連中はキョートを通るキャラバン隊を襲ったり、ヤバい物の裏取引にキャラバンを使ってるだろうし。仕方ないけど、時間かかりそう……」

 これも想定の内だ……と思いながらもアマネは「はあ」とため息をついて、南の空を見やった。

「レンジ君、頑張ってね。それと……」

――ドクトルも。

 何が彼を駆り立てているのか、完全に理解できたわけではない。それでも、胸につかえているものが、少しでも楽になりますように……と、アマネは思うのだった。


 二人の雷電は、もつれ合いながら街道を駆けていた。
 ストライカー雷電の打撃をアトミック雷電がはじき返す。アトミック雷電の双銃が光弾を放つと、ストライカー雷電は走り続けながら身をひるがえし、すり抜けるように二本の光線から身をかわした。
 どちらも決定的な攻撃は受けていないが、ストライカー雷電……レンジは、スーツの中で奥歯をかみしめていた。充電したエネルギーが底をついてパワーアシスト・スーツの反応が少しずつ鈍くなり始めていることを、自らの感覚がはっきりと知らせていたのだった。

「くそ、じり貧じゃねえか……!」

「マダ、すーつヲ動カスえねるぎーガ残ッテイルトハナ!」

「うるせえ! こっちは、もう限界だっての!」

 レンジは毒づきながら、再び飛んできた光線をかろうじて避ける。赤黒い電光は立ち枯れになっていた道路沿いの木立に突き刺さると、炎を巻き上げて燃え上がった。
 燃える枯れ木は街道に倒れ込み、共に倒れた枯れ木と共に、アスファルトの上に炎を広げていく。
 ストライカー雷電は再び走り出そうとして、ひざ関節の強ばりを感じてわずかに体を強ばらせた。

「グッ……オラアッ!」

 雷電スーツが、重い。
 アトミック雷電の銃口が向けられていることに気づいていたストライカー雷電は、固まりかけた脚を踏ん張った。大きく飛びのくと、双銃から放たれた光弾が鈍い銀色の装甲を掠め、アスファルトを焼け焦がす。

「ちくしょう!」

「追イカケッコモ、コレデ終ワリダ……!」

 体勢を立て直したストライカー雷電に、アトミック雷電が銃を突きつける。そのまま双銃で相手を狙い撃とうとした時、けたたましいサイレンの音が鳴り響いた。

「『うおおおお! 待たせたな、雷電!』」

 拡声器から放たれた呼び声がストライカー雷電を呼ぶ。街道をふさいでいた炎の壁を突き破って、白いバンが二人の雷電の間に入るように飛び出してきた。

「『お届け物だ、受け取れ!』」

 運転席でハンドルを握りながらメカヘッドが叫ぶ。バンの二列目に当たる窓が開くと、太い剣を持ったアオが顔を出した。

「ストライカー雷電、これを!」

 放り投げられた大剣が、ひび割れたアスファルトに突き刺さる。幅広の大剣、“ソーラーカリバー”の柄には、黒い布がかぶせられていた。

「ホウ……!」

 アトミック雷電が嬉しそうなため息をつく。ストライカー雷電は大剣に駆け寄ると、ソーラーカリバーを抜き取り、黒い布を手に取った。

「これが……!」

 映画のパンフレットで見た通りの、マント型の“ジェネレート・ギア”。ソーラーパワーフォームのエネルギーを受け止め、コントロールするための安全装置、“グランドマントル”。
 アトミック雷電は腕を組むと、楽しそうにうなずいた。

「見事ニ再現シテイルデハナイカ。すとらいかー雷電、重装変身シテミタマエ!」

「言われなくても!」

 ストライカー雷電は応えながら、グランドマントルを左肩に取り付けた。

「後悔すんなよ! ……“重装変身”!」

 変身のための音声コマンドを叫びながら、ベルトに取り付けられたレバーを引き上げて、再び引き下げる。

「『OK! Generate

「『Generate-Gear, setting up!』」

 ベルトの人工音声が二つ、重なり合ってレンジの声に応えた。立体音響によってシンセサイザーの電子的な音楽と、力強いドラムのリズムが流れ出す。
 雷電スーツがまばゆい光に包まれると、装甲がメタリックグリーンに染まる。全身を走るラインはガンメタル色に輝き、左肩のマントルに紋章が浮かび上がった。
 セッションが終わるとともに、ベルトの人工音声が変身完了を宣言する。

「『Equipment! “SOLAR

「『GAIA-POWER form”, starting up!』」

「ククク、ハハハ……!」

 幅広の大剣・“ソーラーカリバー”を構えた雷電を見て、アトミック雷電は声を上げて笑う。

「2ツノぎあヲ使ッタいれぎゅらーナ重装変身ヲ、見事ニ成功サセルトハナ! ソレコソ、すとらいかー雷電……“そる/がいあふぉーむ”!」

「これで満足かよ、ドクトル無玄! それならいい加減、大人しくしてもらうぞ!」

 啖呵を切るソル/ガイアフォームの雷電を見ながら、アトミック雷電はクツクツと笑い、肩を小さく震わせながら双銃槌を構え直した。

「何ヲ言ウ、ココカラガ本番ダトモ! ……サア来イ! ソノすーつノ性能ヲ、私ニ見セテミロ!」

(続)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?