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【積読書感想文】すべてがFになる

(ルール)
①情報を得る手段は、表紙(表裏)、帯だけ。※既に持っている知識がある場合は先に晒しておくこと。
②作品の品位を貶めるような感想は書かないこと。
③いずれ絶対に読むこと。

上記のルールを遵守し、読書感想文を書いていく。

(概要)
本作「すべてがFになる」は、森博嗣さんが書いたミステリ小説である。
デビュー作にして、第1回メフィスト賞の受賞作でもある本作は、アニメ化ドラマ化もされているらしい。(どちらも私は見たことない)
※以上はすべて、帯からの情報である。
タイトルは何度も聞いたことがあり、最高峰の理系ミステリとの呼び声も高い。(推測)

(積読理由)
その評判に惹かれて購入したはいいが、未だに挑戦できていない小説のひとつだ。
是非ともいずれ読んでみたい作品であるが、その賢そうな雰囲気と文庫本の分厚さが、底抜けのアホである私を拒絶する。
読んだはいいが、話が理解できず、ただ己の頭の悪さだけを自覚させられるのが怖いのだ。

(能書き)
だから、私は読む前に感想を書くことにした。
読まなければ、理解できないことについて考える必要はない。
自身の理解の及ぶ範囲でしか、想像の翼は広がらないからだ。

作者様が渾身の力を込めて書いたであろう力作を読まずに、感想をでっち上げるなんて冒涜的な所業であることは承知している。
3桁近い積読書物に埋もれて寝ている私が、それでも読書体験をするには、この方法しかない。
では、失礼します。

(情報整理)


まずは表表紙から得られた情報を箇条書きにしていく。

①タイトルが「すべてがFになる」であること。
②英語の副題が「THE PERFECT INSIDER」であること。
③作者が森博嗣さんであること。

シンプルだが、どれも重要な情報だ。
タイトルに副題がある。
それも、直訳ではない。
一見、繋がりのなさそうなタイトルだが、そこに強い意味の繋がりがあるとしたら、そこからは物語の本質的な形を推測できるのではないだろうか。
この点については後々、じっくり考察を進めることにする。
英語のセンター模試において、50/200という驚愕のスコアを叩き出し、同級生、両親、担任の先生の失笑を買ったこの私の、イングリッシュ・パワーが炸裂すること、間違いなしだろう。



次に裏表紙から得られた情報。
こちらはかなり強い情報だ。
特にあらすじがあるのがデカい。
得られた情報は以下の通り。

④舞台が孤島のハイテク研究所であること。
⑤登場人物3名の氏名や概要。
⑥被害者の発見時の状態。
⑦密室殺人であること。

舞台、登場人物の紹介、作品の特徴までたった8文に凝縮した見事な紹介文だ。
おかげでかなり情報が増えた。
⑥⑦は内容の推測に。
⑤は読書感想文の要素に使えそうだ。

次は帯だが、

⑧「孤島での殺人。すべてはここから始まった。伝説的デビュー作にして第1回メフィスト賞受賞作。ミステリィの歴史を変えた記念碑的作品。」というコピーが書かれていること。
⑨シリーズ作品であること。
⑩ミステリのことをミステリィと書いていること。

などが読み取れる。
コピーに関しては、「孤島の殺人。すべてはここから始まった」という文が気になるが、シリーズの始まりを指しているのか、本の内容を指しているのかで、かなり意味合いが違ってくる。
ここではあえて決めつけず、考察を進めた後、適合するほうを選べばいいだろう。
⑩はコピーライターの宗派しか読み取れない。
本書のコピーは「ミステリィ」としているが、私は「ミステリ」派閥である。
「ミステリー」派閥の人も「ミステリ〜」派閥もいるので、なかなか表記が統一しづらいところであるが、この記事も表記は「ミステリ」として書いていきたい。
仮に「ミステリ〜」と表記してあったならば、コピーを書いた人の出身が沖縄であることが分かるのだが、そうではないので、情報の読み取りが難しい。

(得られた情報のまとめ)
①タイトルが「すべてがFになる」であること。
②英語の副題が「THE PERFECT INSIDER」であること。
③作者が森博嗣さんであること。
④舞台が孤島のハイテク研究所であること。
⑤登場人物3名の氏名や概要。
⑥被害者の発見時の状態。
⑦密室殺人であること。
⑧「孤島での殺人。すべてはここから始まった。伝説的デビュー作にして第1回メフィスト賞受賞作。ミステリィの歴史を変えた記念碑的作品。」というコピーが書かれていること。
⑨シリーズ作品であること。
⑩ミステリのことをミステリィと書いていること。

(感想文を書くための情報考察)
読書感想文を書くため重要なことは、読書をすることだ。
この記事では、読書を省いて感想文を書くため、最低限の情報を推測する必要がある。
では、考察を進めていく。

まずはタイトルの意味について、
シンプルながら、奥が深そうなタイトルだ。
日本語タイトルは、「すべてがFになる」。
ここで重要になるのが、この「F」はいったい何者なのか、である。
これさえ解ければ正直なところ、タイトルに潜む意味合いの衝撃だけをひたすら伝える感想文が書けてしまう。
ではこの「F」について、考察を進めていく。

<「F」が英単語の頭文字であるとの推測>
Fから始まる英単語は沢山ある。
Fish、Fox、Foundation、Final、Flash、Flow、Free、Fall、Freeze、Fork……
だが、タイトルのFに代入すると、意味が通じるものは少ない。
A「すべてがFinalになる」
B「すべてがFreeになる」
C「すべてがFinal Flashになる」
どうにか意味をつけられそうなものはこれぐらいだ。

Aから想像できるのは、すべてがFinal、すなわち死体になる、というエンドだ。
アガサ・クリスティさんの「そして誰もいなくなった」に代表される全滅エンドは、ミステリにおいては、それほど珍しいわけでもない。
ただ、ひとつ難点は、⑨に書いたとおり、この作品がシリーズものであるという点だ。
全員が死んだら、話を続けることができない。
よってこの案はボツだ。

Bから想像できるのは、すべてがFree、すなわち自由な状態になる、というエンドだ。
イデア論の提唱で高名な哲学者、プラトンは「肉体は魂の牢獄である」という言葉を残している。
他にも自由の捉え方は、数多くあるだろうが、他の哲学者の言葉をろくに知らない私には、この論しか拠る辺がない。
この言葉を見た私の勝手な推測によると、魂が牢獄から解放されて自由になる時は、死の瞬間。
図らずもAと同じ物語になってしまった。
じゃあこの案はボツだ。

Cから想像できるのは、セルの右肩を消し飛ばすベジータの姿だ。
ベジータからはM、生え際、女性用下着を愛する男、などと連想が続くが、どれもミステリとの関連性が薄いように思える。
あの生え際はたしかに謎だが、解き明かしたところで得られるものはなさそうだ。
よってこれもボツ。

<「F」が大文字であることに、意味を持たせた推測>
アルファベットの1文字が、英語の頭文字ではなく、記号としての意味を持つとしたらどうだろう。
例えばF(x)のF。
とある入力xに対して、一つの出力の法則を示したf(x)。
このf(x)を積分したものは、慣例的にF(x)と示していた気がする。
これもよく考えたらfunctionの頭文字がもとだろうけど。
表面積から体積を求める計算があったりするのだろうか。
④で書いたハイテク研究所の舞台には合致している気がするが、ちょっと無理やりすぎるか。
ボツ。

関数で思い出した。
Excelのif関数においては、条件に適合した場合T、しない場合Fの値を返す。
よく考えたら、これもFalseの頭文字だな。
このFがタイトルのFだとしたらどうだろう。
N大教授の犀川創平が考えうるケースをすべて場合分けして潰していく。
もし、こうだったら?もし、こうだったら?
そのifに対して、値が返る。
全部違う、と。
答えたのはもちろん犯人。
まんまとおびき寄せられた犀川は犯人の待つ部屋で、殺される。
とめどなく流れる自分の血液をみながら犀川は思う。
私が間違っていたのか……と。


シリーズものって言ってんだろ。
どうして犀川すぐ死んでしまうん。
犀川が死んだ時点でボツなんだって。

思いついたんだけど、さっきの英単語の頭文字説に戻ってすべてがFalseになる、ならどうだろう。
「すべてが嘘になる」ならば、かなり物語の要素が強くなる。
要は後半にどんでん返しがあればよい。
主人公はとんでもない思い違いをしていた。
味方だと思っていた西之園萌絵が、全ての手引きをしていたのだ。
西之園は献身的に捜査を手助けし、聞き込みをし、僕に情報を伝えてくれていた。
もし、西之園が犯人であるならば、と犀川は思う。
西之園のあのセリフ、あの行動の「すべてが嘘になる」。
「いまさら気づいたんですかぁ?」
薄暗い地下室に西之園の声が響く。
聞き覚えのある声だけど、その話し方は彼女と同一人物とは思えない。
「犀川教授が悪いんですよ。私を裏切って、あんな女と結婚なんてしようとするから」
ザリザリと床に鉄の擦れる音がする。
犀川は動けない。
「そのまま気づかずにいてくれれば、こんなことしなくてすんだのに。貴方を殺したくはなかったんだけど」
犀川は動けない。
「信じてくれて、ゴメンなさい」
首がゴトンと床に落ちる。

『THE PERFECT INSIDER』


……何回言えば分かるのだろう。
これはシリーズものだから、犀川が死ぬことはないのだと。
ついでに西之園が犯人になることもない。
帯に、犀川創平と西之園の師弟コンビと書いてある。
しかも、ウエディングドレスを着た被害者が、犀川の婚約者であるならば、帯にそのことを書くだろう。
偶然訪れた島で、そんなことをする意味もわからないし、色々めちゃくちゃ。
ボツです。頭を冷やしてきてください。

<「F」は何かの物体であり、比喩的な表現であるという推測>
何かの物体を「F」と呼称している、というのはどうだろう。
例えば鍵。
ソラのキーブレードみたいな、いわゆる鍵って先っぽが「F」っぽい。
情報⑦を再度確認してみれば、この事件が密室殺人であることが分かる。
とすれば鍵は親和性の高いアイテムといってよい。
最初に連想できるのは、マスターキーだが、それならば「すべてのFになる」が、正しいタイトルであるように見える。
とすれば逆。
その部屋のドアの鍵だけ、この研究所にあるすべての鍵で開くことができるのだと。
それを知っていたのは、少女時代からこの研究所に閉じ込められていた犯人、真賀田だけ。
鍵がどれでも良いのなら、完璧だった彼女のアリバイは崩れる。
その時間、守衛室に研究室の鍵があっても、彼女は被害者を殺害できるのだから。
22時から、24時まで研究室の近くの休憩室でで、仲の良い教授と酒を酌み交わしていた犀川が物音に気づかなかったのも当然だ。
「あの時君はずっと研究室の中にいたんだ」
犀川の白い指先が真賀田を指す。
「完璧だと思ったのに、どうして、どうして」
泣き崩れる真賀田を犀川は黙って見つめていた。
研究室にはいつまでも、醜い嗚咽が響いていた。


うーーーん。
これで行こう!

動機とか色んな箇所がふわふわしている気もするが、情報が少なすぎるから仕方がない。
もっと本編でキャラの掘り下げがあって、そこに由来する動機かもしれないし。
それでは、ふわふわ推測が終わったので、早速読書感想文を書いていこう。


(読書感想文)
「すべてがFになる」を読んで
フグ田ナマガツオ

本書を読み終えた時、私の胸には色々な感情が渦巻いていた。
まず、驚かされたのはこれほどまでの緻密な設定を練り上げる作者の構成力である。
この物語は、島へ来た犀川と西之園が天才工学博士真賀田四季を訪れるところから始まる。
島から出ることのできない彼女にとっては、研究だけが全てである。
彼女の作るシステムはどれも常人には思いつかないようなアイデアに溢れている。
誰もが憧れる頭脳を持つ彼女であるが、犀川は彼女の様子に違和感を覚える。
この時点で、ひとつの小さい謎が私たちに生まれるのだ。
「なぜ犀川は彼女の様子に違和感を感じたのだろう」
私たちの頭に生じた疑問を解消することはなく物語は進んでいく。
ここで、色々なキャラクターの視点を描写し、それぞれの夜を描く。
そのひとつに真賀田四季の視点があり、彼女が部屋にいる様子を描いている。
加えて、研究室を出歩く犀川の姿を見ているところを。
たまたま犀川が歌っている鼻歌を知っている状況をここで作る。
朝は悲鳴で目が覚めた。
ここで状況は一変し、猟奇的な殺人に研究所は騒然となる。
真賀田の唯一の親友がウェディングドレスを着て、死んでいるのが発見されるのだ。
その後、その時間は鍵が守衛室にあったこと。
犀川が外を歩いていたこと、などの情報が全員に共有される。
ここで、真賀田の視点を見ている我々は、自動的に真賀田を犯人から外す。
真賀田には、犯行は不可能だ、と誰もが思う。
これこそが作者の最大のミスリードであり、本書のタイトルにもあたるしかけだったのだ。
クライマックスでトリックが暴かれ、すべてがひっくり返る。
あまりにその様子が鮮やかで、私はほとんど口を開けながら、夢中でページをめくっていた。
読み終えて、本を閉じると、ため息が漏れた。
自分の呼吸の音が聞こえたのは久々だった。
自分の意識を完璧に最後までコントロールされていたことに、いまさら気づく。
本書は森博嗣さんが用意したアトラクションである。
ただ読み進めているだけなのに、感情を揺さぶられ、意識を操られ、いつの間にか没頭させられてしまっていた。
是非次もこの人が書いた作品に騙されたい。

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