女王陛下に敬礼!(映画『実写版 アラジン』を観て)

※アニメ版との差異をネタバレしています
※吹き替え版で鑑賞しています&メモ取っていないので台詞は正確ではありません

 最近、仕事が立て込んでいてぐったりしていたので、現実逃避がしたくて、半休取って観てきました。
 ディズニーアニメの実写映画化は『美女と野獣』の例を思えばクオリティには十分期待できるし、アニメの方で大筋は知ってるから厳密にストーリー追わなくても楽しめるし、逃避には最適!ということで。
 アニメ版のアラジン声優は、今はもう再起用はありえなくなっちゃった羽賀研二だったなあ、当時は顔といいキャラクターといいぴったりだったよなあ……とかいう豆知識を思い出しつつ、劇場へ。

 で、観てきた感想ですが。
 ディズニーはもう本格的に、ポリティカル・コレクトネスを重視して作品を出していくことに決めたんでしょうね。
 むしろ、ここ最近、過去の自社作品を次々実写化しているのは、当時は見逃されていたポリコレ的NGポイントを現代の感覚に沿ってアップデートして、未来を生きる子どもたちに、これからの時代の思想を提示するためだったりして。

 ジャスミンが王にならんとしていた。
 王子と結婚しろ、そして国を存続させろと言われるジャスミンは「私は王になるために勉強してきたわ」。しかし法律で、王様には男しかなれないという。「外国から来た王子が、国民のことをどれだけ考えてくれるでしょう」。
 ジャスミン姫、王族に生まれた者として、ゆくゆくは国を背負って立つべきであるとして、為政者の責任感を持って育ってきたのね……!

 というか、アラジンは「ジャスミン姫の恋人」にはいいかもしれないけど一国の王様やらせるにはちょっと不安な人材だよね。押しが弱くて優柔不断。いいやつだけど政治ができるかっていうとさあ。そしてアニメ版のジャスミン姫は当時の作品らしく「可愛くてちょっとおてんばなお姫様」の域を出ていなかったので、あの分だとあの国は次代で衰退しただろうな……。
 その点、実写版は安心です。王としての誇りと責任感を持って民を愛し国を治める女王ジャスミン、彼女にそっと寄り添い彼女を癒す夫アラジン(とお猿のアブーと魔法のじゅうたん)。忠誠心篤い近衛兵ハキーム、信頼するお付きの侍女ダリアと、その夫であり良き参謀のジーニー(いつか戻ってくると勝手に決めた)。王国の末永い繁栄をここに讃える!

 先日の改元あたりでTwitterで話題になっていた「女性天皇・女系天皇」まわりの話を思い出しました。『サザエさん』を題材にして「女系天皇を認めると、今上天皇・波平の後の継承順位第一位なのは長子のサザエ(男系の女性天皇)、その後の第一位であるタラオ(女系の男性天皇)が継ぐと王朝が磯野王朝からフグ田王朝に変わる=皇統が断絶する」っていうの。
 これ納得いかなかったんですよね。「サザエが結婚する際に苗字をフグ田に変えることを前提にしているのはなぜだ」と思って。マスオさんが磯野マスオになれば、タラちゃんは磯野タラオ、磯野王朝は存続するじゃん、と。

 物語の中で触れられた国のルールが二つありました。一つは法律「姫は王子としか結婚できない」、もう一つは千年続くしきたりとして「王様になれるのは男だけ」。そしてラスト間際、三つ目の願いについてジーニーからアラジンに「姫と結婚するために本物の王子にしようか? それとも姫の結婚相手を王子に限定する法律をなくそうか?」と持ちかけます。
 そして、三つ目の願いはどちらの用途でも使われず、現王の判断によってジャスミン姫は次の国王として指名され、現王の「王は法律を変えられる」という言葉の後に二人のキスシーンとなり、華々しく結婚式が執り行われます。つまり、古い慣習は父王、古い法律は新女王の判断で変わったわけです。そこに魔法は介在しなかった。

 他に、アニメ版からの大きな変更点としては、ジーニーの願いが「自由になりたい」から「人間になりたい」に変わってたところですね。これは侍女ダリアとくっつけるため&語り手役やらせるためにそうしたのかな。魔人の力を捨ててまでなりたいほど人間っていいものかあ?と思ってしまいましたが(笑)、「強大な力よりも愛の方が大事」という志向をゆるやかに表現しているのかしら(もしくは「約束通り解放してあげた方が、恩義ある友達として無制限に助けてもらえるのでは」とか考える私のような人間の目論見を打ち砕くためなのか)。

 本作も『アナと雪の女王』もですが、プリンスチャーミング不在、かつ不要なお姫様の物語が次々と生まれていますね。気の合うプリンスがいればいてもいいだろうけど、プリンスがいなくても幸せになれるし、プリンスがいたとしても、お姫様はお妃様にならなくてもいい、女王様にもなれるというメッセージ。

 自分の足で立ち、自分の足で歩く、女王陛下に敬礼!

※2019/6/14 金曜ロードショーにてアニメ版を観ながら追記↓
・アラジンの顔、アニメ版と実写版、わりと似てる。
・「姫と結婚できるのは王子だけ」のルールはアニメ版にもありましたね。でも「王様になれるのは男だけ」は登場しなかった。ジャスミンが王になろうと思ってなかったから不要なのよね。アニメ版だと「ダメ王子じゃなくて素敵な王子様」となら結婚する気ありそうだし。
・魔法のじゅうたんの可愛さはアニメでも実写でも共通。しかしアニメ版アラジンはじゅうたんを野生動物みたいに扱ってるな(笑)。
・ああ、やっぱり、ジャスミンの夫を「未来の国王」って言ってますね。まあ王子と思ってるからってのはあるんですが、ジャスミンが即位する目はまったくない。
・作画の力もあって、ジャファーはアニメの方が悪者に見える。実写は、アラジンとタイプは違えどかっこよかったからな(むしろ好みとしてはジャファーの方が……)。
・ラスト、ジャファーの入ったランプを遠くに弾き飛ばしてしまいますが、普通にランプの魔人として願いを叶えさせるのに活用しちゃえばよかったのにね。屈辱ー!

※2019/6/23追記↓
 偶然かもしれないけど、アラジンとジャスミン姫の身長差が少ないのも、関係性を表すのに適切だなあと思った。今調べたら、アラジン役のメナ・マスードは173cm、ジャスミン役のナオミ・スコットは167cm。ローヒールでも履けばなくなっちゃう身長差だよね。ラストの結婚式シーンで並んだ二人が、お互いを見つめたときに視線の高さがほぼ変わらないのがしっくり来た。

※2019/6/23 再鑑賞したので追記&記憶違い部分をちょっと補足。

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