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きさらぎ駅編~駆込ミ乗車ーカケコミジョウシャー~

―――陽太がきさらぎ駅行きの電車で目を覚ましたと同刻。


不知火家の二階にある陽太の部屋で暇を持て余していたサタンは退屈そうに本に目を通していた。すると一階からドタバタと慌ただしい音を立て、誰かが上ってくる。その音が途絶えたと同時にバンッ!と勢いよくドアが開かれる音がし、陽太の叔母で、現在は継母の不知火ほのかが慌てて部屋へと入ってくる。


「サタンちゃん!!陽ちゃんから連絡がないの!!」


目に涙を浮かべ、サタンにそう告げると彼は面倒くさそうに一瞥しながら返事をする。


『はぁ?ウサギから連絡がねぇだと?ホノカ、アイツもオス(男)だぞ?過保護にするな。』


サタンがそう告げるも、ほのかは部屋にある壁掛け時計を指さしなおも言葉を続ける。


「見て!?今もう夜の10時なのよ!?学校を出てバイトをしていたとしても、陽ちゃんが連絡一つしないなんておかしいの!!スマホにも連絡を入れてくれないなんて初めてで……!!」

『…………。』


(確かにウサギはビビりだからこそ、報連相はきっちりしてやがる。そいつがこんな時間になってまでホノカたち両親を心配させるとは考えにくい……)


彼女の主張に耳を傾けたサタンはこれまで陽太と一緒に生活をしてきた中で見た彼の性格や行動パターンなどを思い出し、確かに彼は連絡なしに何処かへ行くような真似をしない。そう考えていると窓からノックする音が聞こえてきた。


窓の方へと目をやれば、そこには色欲のつみねこ、アスモデウスが立っていた。彼もまた何か鬼気迫るような険しい表情を浮かべていた。サタンは窓を開け、アスモデウスを部屋へと招き入れる。



『アスモデウス?何の用だ。』

『サタン、仔ウサギくん(陽太)は!?』

『はぁ…?どいつもこいつも……』


そんなに陽太に何の用だ?と言葉を続けようとした彼だったが、その言葉よりももっと気になるものを感じ取った。彼の髭が空気中に漂う“魔力”を検知したのだ。それも……


『!?何だこのドス黒い魔力は……!?』


先ほどまで何も感じなかったのに、今ではドス黒く肌をピリピリと刺激する、毒のような魔力が一気に纏わりついてくる。アスモデウスも焦った表情を浮かべ、彼に返答した。


『アタシもさっきこの魔力に気付いたのよ!それに……前に予言した結果の“太陽”のカードが仔ウサギ君を示していたのよ!』

『……』


サタンはちらりとほのかに視線を向け、アスモデウスに向かって指示を出す。


『オイ、アスモデウス。テメェはホノカを連れてタカユキの店へ連れていけ。他の連中も全員集合させろ。』


タカユキとは、暴食の大罪、ベルゼブブの契約者である黒田隆雪という男性であり高級ファミリーレストランのオーナーをしている人間である。彼の店に他のつみねこたちも集合させるよう伝えた。


『良いけど……時間はなさそうよ。』


そう言い、アスモデウスは自身の予言に使用した特別なタロットカードを出した。基本的には人間の占い師が扱うタロットカードと変わりはないのだが、彼のタロットカードは魔力で現在窮地に陥っている対象者や対象物の状態を確認することが出来る。アスモデウスの魔力によって陽太を指示している太陽のカードが日食を起こし始めていた。


『見て、アタシのタロットの太陽が日食を起こし始めている。仔ウサギ君の精神が不安定になっている証拠だわ……このままじゃあの子の精神が持たないわ。』

「えっ!?陽ちゃんが!?」


アスモデウスの言葉を聞いたほのかは更に顔を青白くさせて唇を震わせている。サタンは舌打ちをしながらアスモデウスに予言の続きを尋ねた。


『ちっ……アスモデウス、他の予言は?何が出たんだ?』

『他に出たのは月と悪魔の正位置カード……“不安”と“誘惑”よ。』


タロットカード占いはカードを開いたときに上向きか下向きかで占い結果が大きく変わってくる。例えば、太陽のカードの意味は上向きである正位置でカードが出た場合、“天真爛漫、無邪気、喜び、栄光、成功”といった意味合いになるが下向きである逆位置でカードが出た場合、同じ太陽のカードであったとしても“不調、落胆、失墜、悪化”などと言った意味合いへと変化する。

そして、今回月と悪魔のカードが正位置に出たためそれぞれのカードの持つ“不安”と“誘惑”が予言として出たようだった。


『……ホノカ、ウサギは今まで一番後悔したことは何だ?それが奴を探す手掛かりになるかもしれん。』


腕を組んだまま、彼の体に纏わりついてくるドス黒い魔力に不快感を示しながら彼女に尋ねる。彼女は突然のことに少し戸惑いつつも、陽太の部屋のタンスの上に飾られてあった写真立てを手に取りながら何かを思い出すように呟いた。


「陽ちゃんの一番の後悔はやっぱり……陽助ちゃん……よね、きっと……あれは陽ちゃんのせいじゃないのに……私たち夫婦は……本当の両親じゃないのよ……陽ちゃんは私の兄さんの息子だったの。陽ちゃんの本当の家族は強盗殺人犯に殺されて……犯行を誤魔化すために陽ちゃんの家に火を放った。二階で眠っていた陽助ちゃんに気付かずに……サマーキャンプから帰ってきたら、家が燃えていて……中から陽助ちゃんが陽ちゃんに何度も何度も助けを求める声が聞こえていたらしいわ……」


ほのかから語られる陽太の過去は悍ましいものであった。彼女は大粒の涙を流しながらサタンの質問に対して答えていくが、言葉を続けるのも大変辛そうにして言葉を選んでいく。


「陽ちゃんは……助けを求める陽助ちゃんをただ見ていることしかできなかったの……あの事件で両親と弟を失った陽ちゃんは心に深い傷を負ってしまったのよ……」


そう彼女が語り終わると口元を手のひらで覆いこれ以上は続けられない、と言わんばかりに咽び泣き始めた。彼女の語った事を自身の中で咀嚼しながらサタンは陽太の居る場所を考えた。


(なるほど……時々俺の炎を見てウサギがビビっていたのはそう言う事か……手がかりがあれば後は奴の居そうな場所は割り出せるな……)


そう心の中で思った後彼は右手を挙げ、炎の魔法を使った。


―魔炎一角獣!!


彼の右手から現れた炎は次第に一角獣の姿へと形を変える。一角獣の角の部分に炎が集まり角が空間を貫くと、不思議なことに空間そのものに穴を空けた。


「こっ、これは何!!?サタンちゃん!?」

『魔空間へのゲートだ。俺は此処からウサギを探してくる。』


彼はそう言いほのかが止めるのも聞かず、魔空間のゲートを潜っていった……


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


にいちゃん、いたい、くるしい、あつい、たすけて、なんでたすけてくれないの、こわい、あつい、しにたくない……


「あ……ごめん……ごめん……許して……陽助……」


呪詛に近い弟の言葉に、僕は頭を抱えてその場に崩れ落ちる。何度許しを乞うても弟は許してくれることはなく何度も僕に向かって怒りの言葉をぶつけてくる。


もう、やめて……僕を、殺して……!そう思った瞬間だった。


『目ェ覚ませこの軟弱ウサギがあぁあぁあっ!!』

「へぶっ!!?」


ビリビリと地を震わせるほどの怒りの籠った叫び声と僕の左頬にめり込む衝撃。その衝撃によって僕の体が2・3メートルほど飛ばされた。


「いった!!…………へ?あ…さ、サタン……!?」


僕を正気に戻してくれたのは耳の先端には真っ赤な炎を灯している、黒くて少し癖のある毛並みと金色に輝くドラゴンのような両翼、ドラゴンに酷似した緋色の鱗を持つ尻尾に、炎のように赤く染まった鋭い瞳を持った猫のような不思議な生き物……憤怒の大悪魔、つみねこのサタンだった。

































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