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パートを辞めた

数日前
私は夫が運転する車の
助手席にぼ~っと座っていた。

「車の中にいて。」
と言い残し
私の勤める職場に
入っていく夫の背中を
ふわふわとした意識の中で
眺めていた。

私はいわゆる
即日退社をした。

即日といっても
1年半ほど続けていたので
有給が発生していたため
それを消化しての退社となった。

私が選んだ仕事は
宿泊施設の浴場清掃だった。

12コ仕切りのある男性用大浴場
9コ仕切りのある女性用大浴場
それぞれの脱衣所

フロント横のランドリーや
男性女性用のトイレや
4ヵ所の喫煙所など

それらを5時間半ほどで
清掃していくのだ。

以前別の場所で
客室清掃をやっていた時は
シフトがバラバラで
日によって部屋数が変わったり
清掃に入れる部屋数を
増やしていかなければならないなど
苦手な事ばかりだったけれど

もくもくと一人で清掃する
その充実感を知って
範囲やノルマが増えない清掃なら
続けられるかもしれない
と思って応募した仕事だった。


車の免許はないから
自転車でいけるところ。

そう考え
自宅から4キロほど離れた職場まで
日差しが強ければ
つばの広い帽子をかぶり
雨が降っていれば
レインウェアに身を包み通っていた。

客室清掃の方々の中
ひとりだけ大浴場の担当だったので
なぜかいつも楽をしていると
思われていたようで
それがとても辛かった。

なぜなら
大浴場の清掃というのは
高い温度や湿度との闘いだから

下手にペースを上げれば
続ける事はできないので
スピードが命の客室清掃の方から見れば
のんびりやっているように
見えたのかもしれないけれど。

どんな仕事にも
フロントさんやドライバーさん
客室清掃もレストランも
社員さんや支配人にも
それぞれに大変な部分と
楽な部分があり
それは個人の向き不向きの
感じ方それぞれで
一長一短がある。

つい自分のやっていることが
誰でもできると思いがちで
忙しいと隣の芝生が
青く見えるものだから
人が楽そうに
見えてしまうことがあっても
仕方がないと言えば
仕方がないのだけれど。

きっと私は
頑張っていることを
認めてもらいたかったのだろう。


大浴場での清掃作業の
寒暖差で受けたダメージは
私の自律神経を確実に
壊していった。

休日に起き上がれなくなったり
夜も眠れなくなってきても

それでも
他にパートが見つからないし
体はしんどくても
一人でもくもくと
作業できることが
とてもありがたかったので
必死で続けていた。

もう辞めたいのだと
自覚しているのにも関わらず
だましだましやっていこうと
そう思っていた。

そんな矢先
夫と話をしていて
涙が止まらなくなり
子供のように
わんわん泣いてしまった。

「一緒に行ってやるから
職場にいこう。」
と夫に言われ
そのまま車に乗り込み
助手席で待っている間に
夫は退職の意を
伝えてきてくれた。

そして私は
あの職場へ
もう行くことはない。


これまで職場を転々と
してきたけれど
自分以外の誰かに
退職の意を伝えてもらうことなど
今まで一度もなかったし
想定外の出来事で
2、3日ぼ~っとしていた。

情けなく申し訳なく思いながらも
内心ホッとしている自分がいた。

これで良かったんだ。
そう思うことにして
先のことばかり考えていては
不安になるだけだから
まずしばらくは
自分の心と体の回復に集中して
日々を過ごしていこうと思う。

温かいご支援ありがとうございます。