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ラーゲリより愛を込めて

瀬々敬久監督作品 二宮和也主演のラーゲリより愛を込めて、を見てきた。

本編予告↓

ロシア兵に捕えられた日本兵の捕虜がシベリアのラーゲリ(ラーゲリはロシア語で収容所という意味)に収監され、強制労働を強いられる。
みんなが絶望し、ただひたすらに言われるがまま作業する中、1人だけ希望を捨てない一等兵、山本幡男がこの物語の主人公だ。

山本は、ロシア文学が好きで、アメリカの曲を口ずさむどこか変わった人物だった。
どんな時も笑顔で仲間を励まし、倒れたもののそばに駆け寄る。
何か思うところがあれば、皆が恐怖の対象にしているロシア兵にも、屈せずに自分の意見をはっきり言える、まさに希望の人だった。

そんな希望の人が、ラーゲリの中でどのように過ごし、戦争で人間の心を捨てざるを得なかった仲間たちの心を、どうやって取り戻していったのかを、今作は余すところなく描いている。

いつもの如く上映時間ギリギリに映画館に着いたので、ポップコーンもコーラも持たずにシアター7へと向かった。

以下感想(ネタバレあり)


絶望の始まり

この映画見た時、私はメガネもコンタクトもしてなくて、ぼやっとした状態でみたけど、目の前で描かれている戦争の悲惨さ、抑留された日本兵の絶望を、嫌でもはっきり突きつけられていた。

まず最初から不穏すぎる。
幸せそうな結婚式のシーンから、急に戦闘機のが飛んでる映像へ。
ここであまりの恐怖に泣きそうになった。
そして次のシーンで、案の定空襲。
もう阿鼻叫喚の嵐。
そんな中、懸命に家族と逃げ出そうとする二宮和也さん演じる山本幡男は、転んだ長男を助けたかわりに、今度は自分が降ってきた石(石というか岩)にあたって動けなくなってしまった。
あともう少しだったのに。
絶体絶命。
だけどそこで、家族を笑顔で見送って「日本で落ち合おう」っていえる山本、漢すぎる。

そして満州に残ってた日本兵はロシア兵に捕えられ、ラーゲリ(収容所)へ。
ラーゲリ内での生活、まあ悲惨。
悲惨も悲惨。
心身ともにダメージがすごい極寒の寒さ。
あのナポレオンが敗れたほどの冬将軍を前に、いつ終わるかわからない肉体労働。
それで、ご飯は朝のパン1枚とちょびっとのスープだけ。
いや、無理無理。
生きてけない。
そんな絶望と疲弊でいっぱいの毎日の中で山本は言う。

ダモイ(帰国)の時は必ず来ますよ。
「ラーゲリより愛を込めて」劇中より引用 

山本の笑顔とこの言葉が、抑留された日本兵たちの希望でもあり、心の支えだった。

後半からくるさらなる絶望感


さて、ようやく帰国が決定するも、いやいやこんな序盤で帰ったら物語終わってしまうやん。って思ってしまった自分が憎い。
その通り、後半の方がえぐかった。

帰国のために乗っていた列車が途中で止まり、名前を呼ばれた日本兵はシベリアの土地に残留しなければいけなくなった。
その中には、山本はもちろん、桐谷健太さん演じる相沢軍曹や、松坂桃李さん演じる松田一等兵の名前もあった。

なぜこの人たちは、帰国できなかったのか?
それは、スパイ容疑がかけられていたから。
ここで残った日本兵には強制労働の刑が言い渡され、別の収容所に連れて行かれる。
そこで、私の大好きな俳優の1人、ヤスケンこと安田顕さんが山本の元上司、原として登場する。
ボロボロの状態で。
メイクなはずなのに、演技のはずなのに、そのボロボロで、心身共に疲れ果ててる痛々しい姿が、もう胸を締め付ける。
おまけに、山本を売ったのは俺だって。
その事実を打ち明けられたとき、流石に絶望していた山本の表情には目も当てられなかった。
1人また1人と仲間が倒れていくのも、見向きもせずただ歩いていく山本の姿には涙を禁じ得なかった。

絶望の中での唯一の癒し

こんな絶望が続く映画の中で、ケンティーの存在が癒しだった。
ケンティーこと中島健人さん(SexyZone)は新谷という青年を演じていた。
新谷はしんちゃんと呼ばれていて、しんちゃんは、足が悪く、そのため日本兵ですらない。
漁をしてたら、勝手に連れてこられ、強制労働をしているという、劇中きっての不遇な青年。
でもそんなこと気にも留めず、お腹が空いた子犬に、自分のパンを分け与え、常に笑顔で、明るくて、声が大きいしんちゃん。
字の読み書きも出来ないから、山本に教わるしんちゃん可愛すぎだし、健気すぎる。
私がこの映画を見る上で、1番好きなキャラクターだったし、大きな心の支えだった。

山本がラーゲリ内に与えた影響と皆の変化

さて、そんなラーゲリでも娯楽ができた。
それは野球だった。
“甲子園“という言葉がここで出てきた時、
「あ、この時から甲子園ってあったんだ」と漠然と思った。
でも考えてみればそうだ。
甲子園はもう100回を当に越してる。
戦争が終わったのは1945年だから、甲子園は戦前からあったってことだ。
いくら戦争で何もかもが失われ、奪われていっても、スポーツの精神と楽しさは、いつの時代も紡がれる。
そして、この野球で原の心が戻った。
今まで、生きる屍のようにただ息をしてただけの原が、ロシア兵に屈することなく娯楽の許可を求めたと知った時、人としての心を取り戻せて良かったと、また泣けた。

ただ、この映画はホッとしたままでは許してはくれない。
やっと日本への交流が認められた時、皆んなそれぞれ大切な人に手紙を書いていた。
そしてその返事は、誰もが喜べる内容ではなかった。
相沢軍曹は、身重の妻がお腹の子ごと空襲で亡くなったと知らせを受け、松田は大切な母親が亡くなったことを知らされていた。
自分が生きていても、それぞれ大切な人が亡くなっては意味がないと、自暴自棄になる。
それを必死に止め「それでも生きろ」という山本。
山本はいつだって希望を持ち続けるようみんなを鼓舞した。
ただ、そんなみんなの希望でいた山本の具合が悪くなりだす。
いやなんでよ、神様。
ちゃんと仕事してよ。
帰らせてあげてよ。
そんな私の思い虚しく、どんどん弱っていく山本。
明らかに衰弱し続ける山本だが、ラーゲリの軍医は“中耳炎“と診断したままで、ろくな治療をしない。
そんな山本を大きな病院で診てもらおうと、みんなが自分の命と引き換えに、作業をストライキをして山本を助けようとする。
オーマイダーリンの合唱をみんなが始めた時、
私も心の中で祈り歌った。
みんなの思いが勝利を勝ち取り、大きな病院で診てもらった結果、咽頭癌。
なんでだよ。
酷すぎるよ、神様。
なんでよりによって山本なのよ。
いや、誰の命も尊いけどさ。
でも、そう思ってしまうよ。
ここで掠れた声のまま、絶叫するニノはもう山本幡男その人だった。
山本は、原に言われ家族への遺書を書いた。
その遺書を書き終わり、そして間も無くして山本は死んだ。
山本の死後、特に山本と深い絆で結ばれていた、原、松田、しんちゃん、相沢はその4枚遺書を、家族に届けようとみんなそれぞれ一枚ずつ隠し持っていた。
でも、それも見つかり没収されてしまう。
そしてそのまま、4人は日本に帰国した。

記憶は誰も奪うことはできない

ある日、山本の家族の前に原が現れた。
山本の遺書を暗唱して、その内容を記した手紙を届けにくる。

「記憶は誰も奪うことはできない」
「ラーゲリより愛を込めて」劇中より引用


どれだけロシア兵に酷いことをされて強奪されても、自分の記憶や、大切な思い出は決して奪われない。
これは劇中、山本がしんちゃんに話していた言葉で、劇中で私が1番好きな台詞だ。

4人がそれぞれ、必死に遺書の内容を記憶し、きっちり家族に伝えるに来る。
原は、家族全体に。
松田は、母親に。
しんちゃんは、子供たちに。
相沢は、妻に向けて。
なんだよ。
皆んないい人じゃないか。
優しいじゃないか。
やっぱり戦争は人の心を壊すのだ。
良くない、絶対良くない。
しんちゃんが、「私の字、読めますか?」と言った時、最初は読み書きも出来なかったしんちゃんが、こうして人の思いを託され、ちゃんと形にすることが出来るようになったことに、成長を感じ、人はどんな境遇や環境でも、諦めなければ必ず成長出来ると、自分の人生に勇気をもらえた気がした。
しんちゃん、君も立派な希望だ。

誰が悪いのか?

劇中でのロシア側の日本兵への人への扱いとは思えない酷い扱いには正直腹も立ったし、同じ人間なのにどうして?と悲しくもなった。
でも、日本兵も捕虜を殺してる。
だからこんなことされていいって訳では決してないけれど、どの国も酷いことをしてる。
戦争はどの国が良くて、どの国が悪いってのはなくて、戦争になればみんな悪で、皆んな被害者だ。
相沢がクズ軍曹になったのも、一度は山本を庇った松田一等兵が、蛆虫部屋に行ってから闇堕ちしたのもしょうがない。
戦争がそうさせたんだ。
むしろ、そんな過酷な環境と精神状態で、いつも明るく希望を持つ方が難しいわけで、そう考えるとこの相沢も松田もある意味人間らしいキャラクターであったとも言えるのではないだろうか?

守るべき存在と帰りたい故郷

映画が終わってボロ泣きし、余韻に浸ってる中、ここで少し考えてみる。
“もし私があのラーゲリにいたらどうだろ?“
多分、すぐ脱走して殺される。
殺してくれた方がマシだとさえ思うだろう。
だってあそこは地獄以外の何物でもないのだから。
と、序盤では思っていた。
でも映画を見終わって、少し変わった。
家族がいるのにそれでいいのか?
愛する人にもう一度会いたくないのか?
私の存在を希望と思ってくれてる人が、いるのではないか?
愛する妻(私の場合は旦那さんになるけど)や血を分けた子供はいないけど、私だって大切な家族がいる。
家族がきっと生きて帰ってくると信じてくれているのに、私だけさっさと死んでもいいのか?
それは、あまりにも勝手すぎる気がする。
そう思い直し、もう少し頑張って生きてみようと映画を見終わった頃には考えが変わっていた。

最後に

この映画はものすごくよかった。
でも、映画だから良かった。
現実に起こったら最悪だ。
最悪どころの話じゃない、災厄だ。

私たちは忘れてはいけない。
戦争が悪だということを。

今日本で戦争はないし、戦争に駆り出されることはないけど、世界のどこかでは戦争が起こってる。
きっと国のトップにとっては、たかが1人2人の兵士なんだろう。
でも、その兵士にも命があって家族がいてわ守るべき希望がある。
そんな全てを簡単に打ち壊す戦争なんて、やっぱりない方がいい。

原作↓


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