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連載小説 魂の織りなす旅路#18/老人⑵

光たちからのメッセージ小説。魂とは?時間とは?自分とは?人生におけるタイミングや波、脳と魂の差異。月曜日と金曜日に更新。

【老人⑵】

「君の言うとおりだったね。耀(ひかり)は女の子だ。」

 そう呟くと、父親は空中ブランコを見上げ、娘に手を振った。娘は嬉しそうに手を振り返す。明るく素直ないい子に育っている。
 妻はいつも、大きくなったお腹を愛おしそうにさすりながら、この子は特別なのと言っていた。父親は、自分の子どもが特別なのは当然だろうと思いつつ、妻がそう口にするたび妻のお腹をさすり、この子は特別だよと頷いた。
 妻は、自分の命の儚さをよく知っていた。父親は出産すると言い張る妻に強く反対したが、妻は頑なに譲らなかった。

 「この子は私の大切な子。あなたの大切な耀。」

 空中ブランコを降りた娘が、父親のもとに駆け寄ってくる。

 「ねぇ、もう一度乗ってもいい?」

 娘は父親にぎゅっと抱きつき、せがんでくる。

 「今日は耀の誕生日だよ。何度でも、乗りたいだけ乗るといい。」

 とたんに娘は目を輝かせ、歓声をあげた。人目も憚らず、父親の頬にキスをする。父親が行っておいでと促すと、嬉しそうに体を弾ませ、スキップしながら乗り場へと向かっていった。

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