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いにしへの短編集10《目覚めよ》

ホモ・サピエンスの歴史は
ホモ・サピエンス自身で
語り継ぐべきもの

私はこの短編集で
ホモ・サピエンスの誕生までを語る

それが
北の民アワの
光となった魂の役目

《目覚めよ》

 大きな括りで人類を眺めたとき、ホモ・サピエンスはその最後尾にいる。この地球には、ホモ・サピエンスが誕生する前から人類が存在していたのだ。
 絶滅したラウケもタウタも人類だった。そして、今なお存続するヨーアも北の民も、ホモ・サピエンスが誕生する前に出現した人類のひとつだ。

 ヨーアの体は常に穏やかで、その内にある魂は体に支配されることがない。

 北の民の魂は、見えない波動を感知できる体と溶け合うことで、常に天と地の波動と共振している。

 南の民は、唯一人類ではない魂を持つ生物だ。その体は物質との繋がりが強く、その内にある彼らの魂は、常に物質の波動と共振している。


***


 それまでポツリポツリと現れては消えていた、魂の起源を同じくする人類が、ある時期から湧き出る泉の如く各地域に現れ始めた。

 それらの新しい人類は、種により頭の大きさや骨の太さ、身長や肌の色、顔の作りが違っては見えたが、それは同じ人類のヨーアや北の民ほどの違いではなかった。
 ヨーアは、耳の形と顔の各部位のバランスが新しい人類とは大きく異なり、身長も極めて低い。北の民は、緑色の肌と細長い形をした大きな頭を持っている。

 新しい人類は、ラウケとタウタのように絶滅していくものもあれば、互いに交わり溶け合っていくものもあった。
 北の民と南の民による共同プロジェクトのメンバーは、彼らの交配を驚きをもって観察した。これらの交わりにより生まれた2つの種の人類が、やがて繁栄を極めることになる。


***


南の民の外見や
体のメカニズムは
人類とは大きく異なる

彼らは空を移動するキローロで
眩い光を地に注ぎ

自らの姿を見せることなく
新しい人類との接触を成功させた


***



 南の民が住む大陸に人類はいない。南の民はこの大陸にのみ住み、他の大陸にはエネルギー拠点を設置しただけだった。そして、新しい人類が困難に直面するたび、それらに応じた科学技術を、姿を見せることなく彼らに授けた。

 北の民の村は、いくつかの大陸や島に点在していた。そのため、北の民は村近くに出現した新しい人類と自然に関わるようになっていった。そして、彼らに建築や造船、航海の技術を授け、魂や波動について説いた。

 新しい人類は、北の民を神のみ使いとして崇め始めた。北の民にとって彼らの誤解は不本意だったが、彼らが生み出した宗教には魂の波動を高める効果があった。
 神のみ使いではないことを理解してもらえなかったこともあり、北の民は宗教という彼らの未成熟な思考を甘んじて受け入れることにした。

 2つの種の人類が繁栄を極めたとき、共同プロジェクトのメンバーは知識を彼らに授けたことを深く後悔した。彼らは負の波動を放つ武器の製造などに、それらの知識を用いたのだ。
 過ちに気づき、知識の伝授を辞めた時はすでに手遅れだった。繁栄する2つの種の人類は、鉱物資源をめぐり戦争を始めた。
 彼らは地球がバランスを取り戻そうと活動を始めるより先に、自ら率先して災害を引き起こしたのだ。


***


2つの都市は焼けて
跡形もなくなり

空は
真っ黒な雨を
降らせた


***


 ほんのわずかだが、生き延びた者は散り散りになり、焼け落ちた大都市から遠く離れた地に移住した。
 移住した地には、別種の人類が小規模な村に住んでいた。彼らは移住者を拒むことなく受け入れ、次第に移住者と交わっていった。

 移住者は、村に様々な知識や技術をもたらした。生活に余裕が生まれた村人たちは、これまでの生物が一度も創出したことのないものを生み出すようになった。
 そこには音楽があり、演劇があり、踊りがあり、絵画があり、文学があった。そして、そのいずれもが何かを模倣するだけではない創造性に溢れていた。
 北の民、南の民、ヨーアは、彼らの創造性に舌を巻いた。そのような体の特性を持たない彼らにとっては、逆立ちしても真似のできないことだったからだ。


***


ヨーアと北の民の中に
新しい人類の創造性に
憧れを抱く者が現れ始めた

彼らは積極的に
新しい人類と接触し
とうとう交わるようになる


***


 彼らは話し合った。
 ヨーアと北の民の体が持つ特性は、それぞれに魂の器として重要であり、交配によってその特性が薄まることは避けたかった。
 しかし、新しい人類と交配することによって得られる新たな魂の器も、彼らには魅力的に映ったのだ。
 彼らは純血の体が後世まで残るように、ほかの人類を村に入れないという取り決めをした上で、ほかの人類と交わるために村を出ていく者を、積極的に外から支えていくことにした。

 新しい人類との交配によって生まれた体には、ヨーアと起源を同じくする魂が芽生え、北の民の魂がその体の内に入ることはなかった。しかし、体の特性はヨーア同様に北の民の特性も受け継がれた。

 やがて、ヨーアと交わった人類と北の民と交わった人類が交わるようになる。そして何世代も経るうちに、体が持つ特性や見た目は次第に平均化されていった。


ホモ・サピエンスの誕生である


 ホモ・サピエンスには、ヨーアの体の特性を強く受け継ぐもの、北の民の体の特性を強く受け継ぐもの、それぞれが交わる前の体の特性を強く受け継ぐものがいるのだ。


***


ヨーアの血を濃く受け継ぐ体は
争いを好まない穏やかな特性を

北の民の血を濃く受け継ぐ体は
見えない波動を感知する特性を

ヨーアや北の民と交わる前の
新しい人類の血を濃く受け継ぐ体は
他を征服したがる特性を持つ

そして
すべてのホモ・サピエンスに
共通するのは

豊かな創造性


***


 ホモ・サピエンスの
  魂は、多様な生物の体を経験してきた

 ホモ・サピエンスの
  体は、多様な人類の血を引いている

 魂も、その器である体も、多様な特性を内包しているのがホモ・サピエンスなのだ。多様で豊かな創造性を持つ、その魂と、その体は、尊き天の宿命を担う。


今このとき
ホモ・サピエンスの体に流れる
ヨーアと北の民の血は目覚める

今このとき
ホモ・サピエンスの魂は
体の支配から解放される

時はきた
天と地の波動は
ひとつになる

目覚めよ
ホモ・サピエンスという名の魂の器

目覚めよ
天の宿命を帯びた悦びの魂



〜 完 〜

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