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教師自身に、夢はあるか?

数日前、私の勤務する学校で離任式が行われ、お辞めになる先生方の発表とスピーチがありました。
その中に、今年60歳の副校長先生のお名前がありました。まだ定年ではなく、早期退職という形です。
お辞めになる最大の理由は「夢を追いかけたい」とのことでした。
その先生の「去り際」を見ていて感じたことを、いくつか書き残したいと思います。

1 夢を追いかけて早期退職した、60歳の副校長

早期退職したのは美術科の教員であり、この数年間は本校で副校長を務めていたS先生。
私は入職からお世話になり、学校改革の仕事を任されてからはこのS先生のいわば直轄で動いていました。
ですので、自分にとっては直属の上司であり、二人三脚で新しい学校改革を0から立ち上げてきた同志でもあると言う方。
S先生は日本画がご専門で、以前から個人で個展を開いたり、本に作品が載ったりするような方でした。
これまで教員として本校に勤務する傍ら、時間を見つけて作品を描き続けてきたものの、残りの人生で作品制作に専念したい、とのことでした。
よくも悪くも「昭和な男」なS先生は、全体の前ではご自身がお辞めになる理由を多くは語りませんでしたが、数ヶ月前に2人で話した時はその想いを聞かせてくれました。

学校改革も道半ばであり、また副校長という重責であることを考えると、途中で退職することに対しては色々な見方があるかもしれません。
実際、私自身もそのことについて思うところがなかったといえば嘘になります。
しかし、それでもなお、私は60歳にして「自分の夢を追いかけたい」と言えるその熱量と生き様はカッコイイなと、心から思います。
自分自身がS先生と同じ年齢になった時に、夢を追いかけているだろうか、と自問自答した時、率直に言って自信がなく、このことについて自戒を込めて書いておきたいなと思った次第です。

2 教師に夢はあるか?

思えば、教師というのはよく夢について語っている気がします。
しかし、そのうち自分自身に夢を持っている教師はどのくらいいるのでしょうか?
もちろん、いわゆる「夢追い型のキャリア形成/教育」に対しては批判もありますし、私自身、「夢がないとだめだ」とは微塵も思いません。
とはいえ、「夢をもとう」とか「自分の夢を追いかけろ」などと金八先生顔負けの熱量で時に生徒に語っている私たち教師が夢を持っていないのだとしたら、なんとも滑稽な話です。

実際、多くの先生方は夢をもっていないような気がします。
「教師になるのが夢でした」という話はよく聞きますが、「教師になってから○○を成し遂げるのが夢です」という話は寡聞にしてあまり聞きません。
その要因の一つには教員の単線型キャリア、そしてそもそものキャリア意識のなさがあり、制度的要因も大きいと思うものの、やはり語るからには私たち自身に夢やvisionのようなものはないといけないように思います。


3 私の夢

こんな偉そうなことを書いていると「お前はどうなんだ」という鋭いツッコミが聞こえてきそうな気がするので、突っ込まれる前に書いておきます。
私には、夢があります。
それは、ミクロには「目の前の生徒を教育の力で幸せにすること」であり、マクロには「そのための教育システムを、多様なアクターと協働して創り上げること」です。
それが私が今勤務校で学校改革にフルコミットする理由であり、また外部で教員養成の仕組みづくりや教材開発、教育改革などに取り組んでいる理由でもあります。

S先生は生徒に向けた退職のスピーチでこう語っていました。
「皆さんには夢はありますか?夢は誰かが見つけてくれるものではありません。受け身で待っていても見つかりません。道は自分で切り開くものです。先生たちにできることはその支援でしかなく、だから皆さんは学校を最大限に『利用』してください。」

私は最初の学校で、教育現場の「闇」を見ました。
ずいぶん戦いましたが、力及ばず、最終的には学校という場所も、教師という存在も嫌いになりました。
それでもそんな私が今こうして学校現場に復帰し、現場に立ちながら学校改革も進められているのは、自分自身が夢と理想を持って教育活動に励み、生徒の夢も、そして私の夢も支援してくれたS先生がいたからこそです。

私は今回S先生の退職の理由を聞いて、ある意味で合点が行きました。私は今まで、S先生に何かを提案して止められたことがほとんどありませんでした。むしろ、必ずと言っていいほど「まずやってみろ。失敗したら修正すればいい」と言われました。

正直、私は学校現場でこのような言葉をかけられたことがほとんどなく、毎回新鮮な驚きを感じたことを覚えています。

また、教育改革について議論している時でも、「そんなの理想論だ」というような意見が出るかと思っても一度も言われませんでした。

S先生とこれほどまでに「理想のあり方」について議論できたのも、そして私自身のvisionも応援して頂けたのも、今となっては納得がいきます。その分、無茶振りも多くだいぶ働かされましたが笑

夢の中を生きる時、人間は人生を「夢中」で生きられるのだと私は思います。
S先生の思いを受け継ぎ、私自身が自分の夢を追いかけながら、生徒たちの夢を実現する支援をしていきたいと思います。

学校や教師がニュースになるのは不祥事ばかりですが、こんな素敵なS先生のような管理職もいるのだ、ということが、誰かの心に届きますように。

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