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【提言】高校の教科教育において「大学生」を活用してみませんか?

昨日(2020年5月25日)、私の勤務校である私立高校にて、オンラインで大学生を活用した政治経済の授業を行いました。
内容は「法学部の学生と考える コロナと憲法」と題し、コロナに関連して起こっている諸問題(パチンコ店の店名公表や総理による緊急事態条項に関する検討表明など)を題材にして、私たちの暮らしと憲法のつながりを考える、というものです。

私が今回の授業を企画したのは、「日本の高校生は『外の世界』との出会いが少なすぎる」という危機感と、「日本の(特に文系の)大学生は学びの意味を考えたり、学びを深めたりする機会が少なすぎる」という危機感からでした。
そこで、両者に同時に取り組む手段として、「大学生と高校の授業を作る」ことを計画しました。

結論から言うと、以下に述べるいくつかの理由から大学生と授業において協働することには、高校生・学校・教員・大学生自身、そして社会全体にとって大きなメリットがあると感じました。
それを皆さんにもシェアさせて頂けたらと思います。

目次
0 【前提1】授業の詳細
1 【前提2】withコロナ時代の「開かれた教育課程」
2 (教職課程以外の)専門を持つ大学生が授業に関わることのメリット
3 今後の課題

0 【前提1】授業の詳細
対象:高校3年生の3クラス
科目:政治経済
時間:一コマ(今はコロナの影響で短縮時間割のため、30分)
授業名:法学部の学生と考える コロナと憲法
大学生の情報:中央大学法学部の四年生。院試及び司法試験に向けて猛勉強中。
       筆者の教え子。弁護士志望だが、筆者も所属する「法教育研究会」に参加するなど、教育や社会貢献への関心も高い。

1 【前提2】withコロナ時代の「開かれた教育課程」
今文科省では「開かれた教育課程」をスローガンに、学校を社会に対して開き、社会と学校がより接続・協働して学びをデザインするよう促しています。
現状の学校はと言えば、高校生が「社会人」に出会う機会はほとんどなく、それゆえ彼らのロールモデルは「教員しかいない」のが実情です。
しかし、学校を社会とつなぐことで、
①生徒にとってキャリアのロールモデルが多く見つかる
②専門性の高い授業が期待できる
③教員にとっても学びとなる
④社会(人)にとっても、「社会全体で教育を担う」という意識をもつ契機となる
などのメリットがあると筆者は考えています。
そのため、筆者は前任校でも

・労働法の授業with弁護士さん
・財政の授業with財務省職員さん
・地域政治with市役所の職員さん
・キャリア教育の授業with  indeedさん(by Arrowsさん)

などの、外部人材を活用し、社会とつながる授業を実践してきました。
その筆者にとって、今のwithコロナ時代はある意味で追い風であると捉えています。
なぜならば、オンラインが当たり前となり、簡単につなぐことができるため、

・事前打ち合わせの移動にかかる時間的・経済的コスト
・当日のゲストの移動コスト・経済コスト

などが大幅に削減できるためです。

よって、withコロナの時代は社会とつながる授業を展開する好機であると言えます。


2 (教職課程以外の)専門を持つ大学生が授業に関わることのメリット

では、本題である、大学生が授業に関わることのメリットについて考えたいと思います。
先に述べたとおり、外部人材を活用し、学校が社会とつながること自体のメリットが大きいのは当然のものとし、ここでは従来想定されてきた「専門家」(弁護士、市役所職員、大学教授など)だけでなく、「大学生」を活用することのメリットを明らかにするため、両者を比較してみます。
以下、表にまとめてみましたのでご覧ください。

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簡単にまとめると、大学生は「コストが安い上に、ある程度の専門性を持ち、生徒とも年齢的に近いため親しみやすく、最も直近のキャリア選択である大学の生活や学びについて知る契機となり、その学生自身にとってもよい機会となる」と言えます。

最後に書いた「その学生自身にとっての機会」については、今回授業を担当してくれた大学生の授業内でのメッセージ、及び授業後の振り返りのコメントがよく表していますので、以下引用します。


今回の授業を通して学んだことを3つあげたいと思います。
1つ目は、スライドの最後にも書いたように、自分自身と向き合うことの大切さです。
周りの環境に流されるがまま、大学受験に合格する、司法試験に合格する、という目標ばかりがいつも先行してました。それ自体が悪いことだとは思いません。ですが、将来ほんとに自分がやりたいことや、そのために今やらなければならないこと、今まで自分がやってきたことを振り返り、自分自身を客観視することがずっとできていませんでした。自分の本心と向き合うことで色々なことが見えてきたので、今後の教訓にしていきたいと思います。

2つ目は、内なる言葉の解像度を上げることの重要性です。
普段考えていないこと、知らないことについて咄嗟に答えることはできません。このこと自体は以前からすでに思っていたので、なるべく普段から頭を使って考えようと意識してきたつもりです。ですが、頭の中で考えているだけだったので、なかなか解像度が上がりませんでした。手間だけど、考えたことをきちんと文章化するというのはとても大事で、自分の思考の偏りや、思わぬ考えに行きつくことも多々あるんだなと実感しました。今回の授業を機に、一昨日くらいから自分の考えを日記のような形で残していくことにしたので、続けていきたいです。

3つ目は、インプットとアウトプットの順番の違いについてです。
塾のバイトやインターンでは、やるべき仕事が最初に与えられます。分からないことがあれば、必要な知識をその都度補充していけば、仕事をこなすことができます。そのため、アウトプット→インプットの流れが重要になると思います。
ですが授業を作る際には、自分で問いを立ててストーリーを組み立てる必要があるので、土台となる十分な知識を最初からある程度インプットしてないと良い問いを立てられません。そのため、インプット→アウトプットの流れが大事な気がします。


実は、この授業を作るまでにはかなりシビアなやり取りも何度かありました。
本人も書いてくれているように、やはり「知識」はあるのですが、「本質を考える」ことやそれを論理的に表現する機会が普段あまりにないため、結果的に筆者から何度も「公共の福祉の定義は?」「このスライドを通じて一番伝えたいことは?」「総理大臣は行政のトップであると同時に立法府の一員でもあるけど、そこについての考えは?」などとツッコミが連発される事態となり、途中で心がおれそうになっていたこともありました。

しかし、私たち教員はそのような「問い作り」や「論理的思考」では大学生にまだまだ負けないものの、専門的知識では負けていない大学生。最後まで踏ん張り、仕上げてくれました。

また、終了後に高校生に聞いたところ、「最後に伝えてくれた、自分自身や学問と本気で向き合うことの大切さが心にささった」「自分も休校期間を無駄にしていたので、本気で向き合いたい」などのコメントが上がっており、効果はあったと感じています。

とは言え、上記のように「ちょっとした困難」もありましたので、今後の課題についても最後にまとめたいと思います。


3 今後の課題

今回の授業を終えて、今後このような「大学生を活用した教科学習」を進めるにあたっては、以下の2点が課題だと感じています。

①通常の「外部人材活用授業」よりは教員の手間暇がかかる
既に述べたとおり、通常の「外部人材活用授業」よりは教員の手間暇がかかるのは事実です。ですので、「時短のため」「働き方改革推進のため」の外部人材活用という文脈には正直そぐわないと思います。

②「良質な大学生」をどう探し、確保するか
今回の大学生は私の教え子ということもあり、熱量高く、めげずに取り組んでくれました。
しかし、最初にも述べたとおり、多くの大学生はバイトとサークルに明け暮れ、「専門性」がなんなのかわからない方が多いのが実情かと思います。
そのような中にあって、今回の大学生のような「熱量はあり、『お勉強』はある程度できるので専門性もあるが、あと一歩の背中を押してあげる必要がある」生徒はまさにうってつけです。
そのような大学生をもっと発掘していければ、win-winの形でできるのではないかと思います。よって、彼のような学生を発掘してくことが次の課題です。

その解決策の一つとして、このように今後もこの取り組みを発信し、多くの方に拡散にご協力頂くとともに、実は今水面下でそのコミュニティづくりを進めており、その施策も合わせて進めていけたらと思います。

最後になりますが、今回のような前例のない企画をその場で快諾し、むしろ背中を押してくださった勤務校の先輩方、管理職の先生方に心からの敬意と感謝をお伝えしたいです。

ぜひ教員の皆さん、大学生とコラボしてみませんか?
そして大学生の皆さん、力試しをしてみませんか?

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