よそ行き。

「おしゃれになった」


「前とは雰囲気がまるでちがう」


「都会っぽい、って感じ」




続けざまにそう褒められても、

何故だかちっとも嬉しくない。







あぁ、君との時間が

ふだん着から、

よそ行きに変わってしまったのだな。



と、



離れてしまった

心の距離を再度確認する。





私は今日、この時間のためにシャワーを浴びて、

化粧をして、身支度を調えた。

麻のブルーのズボンは、

少し奮発して購入したお気に入り。



もう、あの頃のように、

呼び出された状態

そのままの格好ではなかった。







空の缶ビールは、

もうベンチに溜まらない。



グラスが空く前に、

次のオーダーを聞いてくるからだ。


飲み干すと同時に、

そのグラスはサッと消えてしまう。







君がタバコを吸い終わるのを待って、

それから自転車を二人乗りして

同じ街へ帰宅することも、

もうない。




君は都心から離れた

静かな住宅地へ。


私はこの飲み屋街から3駅先、

夜でも明るいあの街へ。



それぞれに、帰る場所がある。







「終電がいってしまった」

という君の嘘の上に、



「仕事があるから」

と嘘を重ねて、


その場でタクシーに乗り込む。





「また明日ね」

とお互いに名残惜しそうに

さよならしていたあの頃と違って、



「またいつかね」

アッサリ手を振ってサヨナラした。



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