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雑感70 足よりお尻

 偶然が重なって、山野辺の道を歩くことになった。お天気は快晴どころじゃない快晴。帽子も日傘も持ってきていないという装備で、奈良の古道を全部は無理なので、一部を歩く。
 本当はこの日、大神神社のご神山を上る予定だった。ご神木に日光をさえぎられ、足元はうっすらと湿気があるはずだった。傾斜はそれなりにあるけれど、ガッツリ登山をするのではなかった。ゆるーく考えていたわたしに立ちはだかったのは、コロナ禍の影響で登山は中止の看板。
 このまま帰っても良かったのだけれど、神社参拝だけでは寂しい。この季節だけのご神花・ヤマユリを見たけれど、何か物足りない。同行者と話し合って決めたのが、山野辺の道だった。
 山道のところもあるけれど、ほとんどが舗装された道を延々と歩く、だけ。周りはどこも田んぼで、ここは畔なんだよなぁと思われるところも、きちんと舗装されていて。道案内の表示さえ間違わなければ、古道を歩けるんである。容赦なく降りかかってくる日光の中を。
 途中から、タオルを頭にかけながら歩く。大和和紀のマンガに、平安貴族の女性が薄布を頭からかぶっていた絵があったなぁと思いつつ、そんな優雅ではないのは自分でもわかっている。が、タオルがあるのと無いのとでは、格段に暑さが違うのも事実だった。
 歩くだけもつまらないので、相撲発祥の地とされる相撲神社に寄ってみたり、「梅だー」「なんかの柑橘ー(微妙に言い当てられない)」と言いながら歩いていく。ごく普通の田んぼのすぐ横に、日本のみかんの原種「大和橘」の木があったりして、京都とは違う歴史を感じてしまった。普通の人が暮らす歴史、みたいな。友人に万葉集を研究した人がいるのだけれど、その世界を垣間見たような気がした。
 どこまで歩くんだ…と、だんだん無口になってきたころ、景行天皇陵(山辺道上陵・やまのべのみちのうえのみささぎ)が見えてくる。そろそろ膝が痛いぞ。この辺りで、どこかの駅に向かいたい。
「こっちに崇神天皇陵がある」
 同行者は、まだ行くみたいだ。「帰りたい」という代わりに、「なんで」と聞いてみた。
「崇神天皇の方が有名だから」
 わたしの足の方が現実なんだが。といっても、ここまでスマホの地図を確認してくれたのは同行者で。わたしが一人で歩くと迷うのは確かで。
 崇神天皇陵が大きいので、見えているのが幸い。と思ったら間違っていた。天皇陵の周りをぐるぐる回って正面に。正面、遠っ!
 めっちゃ傾斜のある階段を上る。日光を遮るものは何もない(古墳だもの)。同行者がのんきに話している言葉が聞こえる。
「この階段、傾斜30度くらいかなぁ」
 崇神天皇陵(山辺道勾岡上陵・やまのべのみちのまがりのおかのうえのみささぎ)は、気持ちの良い風が吹くいい場所ではありました(暑いけど)。
仁徳天皇陵にちょっと似てる。ここでも、古代の感触があった。
 崇神天皇陵からは、まっすぐ駅へ。駅のベンチに座ると、足よりもお尻の筋肉が硬くなっていた。もしかしたら、筋肉痛は足じゃないかも。足腰鍛えるって本当だなーと、変なところで感心する古道巡りでした。
 

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