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タイ生活記2nd🇹🇭2

 いつの間にか陽が昇ってしまった。寝ないとやっていけない暑さだ。なんとかして眠ろうとするも眠れない。寝ようとすればするほど、眠れなくなるのはよくある話だ。しょうがないから諦めよう。そう思った瞬間に記憶はどこかへ消えていた。

 はっと目を覚ますと、時刻は11時半。少しは眠れたみたいだ。準備を済まし、いざ病院へ。裏路地ばかりを通り、向かっていると、この世界で最も美味しいと勝手に評価している「タイティー」に出会った。本来甘いものはあまり飲まないのだが、これだけは別格にうまい。即購入。パッタイに並んでこれまた相変わらずうまい。たまらなくうまい。足取りも軽くなるわけだ。いざ、病院までつくと、所定の手続きだけ済まし、注射を待つ。注射とはいくつになっても怖いものだ。しかし、打ってしまえばなんてことはない。一瞬の出来事。
 無事にイエローカードを手に入れた。そしてあることに気がついてしまう。もうやることがないのだ。タイにいる必要がなくなってしまった。どうしたものか。有名な寺院はある程度回ったし、かといって夜の街に遊びに行くほど元気はないし、かといって何もしないのもストレスになりそうだし。考えた結果、

「散歩しよう」という決断に至った。

ただ、気になった道を歩き、気になった店に入り、気になったものを食べてみる。それだけ。それが案外楽しいのだ。いつの間にかかなり遠くまで歩いてしまったが、普段なら見過ごしてしまうだろう建物や、ローカルな雰囲気のエリアまでゆっくりと見て回ることができる。しかし、これといったものはない。でもそれがいいのだ。

 ひたすら歩いてみて何かあれば立ち止まり、何かあれば買ってみる。それもゆっくりと何時間もかけて。なかなか短期旅行ではできないだろう。見方によっては時間の無駄遣いかもしれない。しかしこれは私にとってはとても重要なことであるのだ。

 その晩もなかなか寝付けなかった。これは単に時差ボケなのか、なんなのか。よくわからなくなる。これまた陽が昇ってから軽く眠り、また散歩に出かける。残念ながらタイは雨季だ。毎日雨は降る。ビショビショになりながら歩く事も、なんでもないところで雨宿りして街を眺める事もこれまた素敵な経験になった。

 いつの日かは30キロ近くも歩いた。流石にその日は疲れたが、なんとも言えない満足感があった。腹が減ったら、うまそうな飯を食う。もちろんレストランのような場所には行かない。屋台が良いのだ。汗の塩分も入っているだろうと思われるご当地フードを食べて、また歩く。最高ではないか。と同時に1つの悩みが生まれる。

「次はどこに行こうか」

 そう。このままタイで毎日散歩しているわけにはいかない。ただ、次の渡航先をどこにしようかは全く決めていなかった。候補としては本来行く予定であった、レバノンやイスラエルに行こうと思っていたが、航空券は高く、2国間の関係も良くないので、陸路移動ができないとのこともあった。さて、どうしようか。一層の事エジプトに飛んでしまおうか。それとも先輩が住んでいるハンガリーに行こうか。悩んだ。本来なら今頃トルコにいたはずなんだけどな。そんなことを思っていたが、トルコは選択肢にはなかった。

 それと同時に得体の知れない恐怖心もあった。次の国にいけるのかという謎の不安。1度切れてしまったものを再度作り上げるのは非常に難しい。今までに感じたことのない恐怖心。1歩踏み出せないでいる自分がまたとんでもなく情けなかった。

 そんな時、アルメニアを一緒に旅した彼らが電話をくれた。彼らは全ての事情を知っていたこともあって日本にいる時も連絡を頂いていた。「何してんの?」「楽しい?」普通の会話だった。それがなぜか非常に楽だった。「次どこ行くの?」その言葉が出た時正直に話した。すると一言目に「来れば?少し一緒に旅してゆっくりしなよ」そういって来れた。しかも場所はトルコ。
 しかし、私はすぐに答えを出せないでいた。それこそプライドが邪魔をして「迷惑をかけたくない」なんてそんなことを思ってしまった。

 本音を言えば凄く嬉しかったし、現状を打破するのにはどこか違う場所に行くべきなのはわかっていた。やっと出た答えは「前向きに考えさせてください」であった。早くここを出るべきなのはよく理解しているつもりだった。なのになかなか動けない。これがなかなか自分自身を苦しめていた。思い通りにならない毎日。気持ちと身体が一致しない毎日。なんとなく航空券を調べる毎日。イスラエル行き、レバノン行き、ハンガリー行き、エジプト行き、そしてトルコ行き。どれも決して安い金額ではない。しかし、ある1日だけトルコ行きが安い日があった。

 これはもしかしたらそういうことなのかも知れない。なんて自分に言い聞かせてみたりもした。しかし、まだ決定したわけではない。他にも調べてみた。なんなら中央アジアでも行こうかとも考えた。ただ、どうしても諦めがつかない、中東地域付近への興味。

 私は1度全てを無にして考えてみた。値段などを抜きにして、1番行きたいのはどこなのか。どのルートで行きたいのか。どうしたいのか。自分に正直になって考えてみた。

すると答えは思ったより簡単に出た。


ここから物語は大きく変化することになる。