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2017年 8冊目『グラウンデッド・セオリー・アプローチの実践 質的研究への誘い』

自分の研究のためで、Fさんに勧めて頂きました。

この手の研究をされている方にとっては当たり前の基本書だそうです。

手順がよく分かり、参考になりました。

自分自身が、ほぼ同様のステップを踏んでいたのも再確認できました。

1グラウンデッド・セオリーの理論特性

1960年代にアメリカの社会学者グレーザーとストラウスが考案。

カリフォルニア大学看護学部の医療社会学分野で先駆的研究を実施。

現実の実践的課題への対応に有効、つまりアクション・リサーチの方法。

データに密着(grounded on data)

用語説明

 研究方法:グラウンデッド・セオリーアプローチ

 研究結果:グラウンデッド・セオリー

 概念:データを解釈して得られる仮説的なもので、一定程度の減少の多様性を説明できる

 理論:説明的な概念によって構成され。説明できる範囲が個別概念よりも広くかつ関連的である

理論特性5項目

1:データに密着した分析から独自の説明概念をつくってそれらによって統合的に構成された説明力に優れた理論

2:継続的比較分析法による質的データを用いた研究で生成された理論

3:人間行動の説明と予測に有効であり、研究者によりその意義が明確に確認されたテーマによって限定された範囲における理論

4:動態的説明理論(人間の行動、他者との相互作用の変化を説明できる)

5:実践的活用を促す理論

内容特性4項目

1:fitness:現実との適合性

2:understanding:理解しやすさ

3:generality:一般性

4:control:コントロール

2修正版M-GTAと他のタイプの違い

・共通性:データに密着した分析から独自の理論を生成する質的研究方法

・不可欠な条件:オープンコーディング、選択的コーディング、継続的比較分析、理論的サンプリング、理論的飽和

修正版M-GTAの主要特性

1:理論特性5項目、内容特性4項目を充たす

2:データの切片化をしない

3:データ範囲、分析テーマの設定、理論的飽和化の判断において方法論的限定を行う

4:分析ワークシートを作成して分析を進める

5:研究する人間の視点を重視する

6:面接型調査に有効に活用できる

7:解釈の多重的同時並行性を特徴とする

3質的研究

・データの形態と特性:非数量的、言語的な豊富なデータ、詳細なデータ

・収集方法:面接と観察

・分析方法:研究者の解釈

7どのような研究に適しているのか

・人間と人間が直接的にやり取りをする社会的相互作用に関する研究

・ヒューマンサービス領域

・プロセス的性格を持っている

8分析上の最重要点

・コーディングと深い解釈の一体化

・理論を生成するよりも、データに密着していること(Grounded on data)が優位である

・生のデータよりもそこから生成した概念の方が優位

・分析結果は、概念と概念間のカテゴリー、および、その相互の関係、とデータの例示部分だけで表現する

9研究テーマの設定

・目的/意義/先行研究との関係/研究方法/実行可能性と実施予定など

・文献レビュー:検索→要旨査読→論文査読→参考文献査読

10データの範囲と収集法

・最初のデータ収集を重視する

・インタビューとフィールドワークを明確に分離する

・データ収集対象者

 対象者の限定:類似性のある、あるいは関連性の高い微妙な違いを基準に分ける

 人数の最適さ:10-20例

 ベースデータ:主要な質問を準備して、自分のペースで話してもらう(半構造的面接)

 中身:一般論ではなくその人自身についてであることが重要

 記録:録音し書き起こすか、メモを取り書き起こす

11分析テーマの設定

・研究テーマに対して分析テーマを設定する

 研究テーマは大きいので、Grounded on dataの分析がしやすいように絞り込む

・研究テーマの設定は、データ収集後に行う。(データ全体を見て、必要であれば設定しなおす)

12分析焦点者の設定

・焦点者を最初は1人に絞った方がデータの解釈は順調に進みやすい

13修正版M-GTAの分析の流れ

・オープンコーディング

  研究テーマの調整→データ範囲の設定

・選択コーディング

  理論的飽和化

  収束化

・方法論的限定(オープンコーディングの最初と選択コーディングの最後で実施)

14概念の生成法:オープン・コーディングの要点

・データの切片化

  先入観、恣意性の混入を排除し、データの文脈性も解体し、データを細かく区切って、解釈を多角的に検討する

  コンピュータを用いた質的データコーディング:CAQDAS

 修正版M-GTAは、切片化しないでいかに行うのかという問題から要請された

・一般的コーディング法

  データがあり、最初のコード化行い、コード間の関係から二次コードを記入・・・・右側に伸びるイメージ

  コーディングの鉄則は coding & retrieval:コードとデータの対応関係の確保

   c&rに継続的比較分析、理論的サンプリング、理論的飽和化を組み込んだものがグラウンデッド・セオリー・アプローチ

・修正版M-GTAコーディングの特性

  修正版ではコードという言葉は使わない。プロパティの用語も使用しない

  データを解釈した結果は概念(分析の最小単位)

  概念の他はカテゴリー

  ポイントは3つ

  1:データと概念の距離はすべて一定

  2:データと概念を「研究する人間」を挟んで非連続化する

  3:概念はバラつきが生じる

・修正版M-GTAではデータの切片化は行わない

・データの見かたと概念生成:最初の着眼点

 最初の概念生成がもっとも重要

 これができると推測的、包括的思考の同時並行化を含め、基本モデルに分析が進められる

1人分のデータ全体に目を通す(ディテールが豊富で多様な具体例がありそうなもの)

 データのどこに着目するのか分析者の判断による

 理論的センシティビティと関係する

「これはこの人にとってのどのような経験のことなのか」

「こうした行為の意味は一体何なのか」

コンテキストを読み取る(データの背後にある意味の流れ)

※薬をきちんと飲むことで他者と交渉をする→他にも類似例がある、対極比較の例も探す

・再び分析テーマとの関連

分析テーマがはっきりしていなくてもこの段階でその確認作業ができる

データ分析時に、ある個所への着目から始まるが、そこで何を自分は明らかにしようとしているのか同時に確認するから

・データからの概念化の方法ーひとつの概念を創る

 1:データの中で着目した部分の意味を考える→適切に表現する言葉を考える→もっとも妥当なものを解釈とする

 2:抽象的意味を考えるのは難しいのでin-vivo概念を先に検討しても良い(データの指示的概念)

 例:終末期患者への「もうすることはない」や「秘密の薬」

 3:概念は動的であった方が良い。(行為者を主語化して解釈する)

 4:概念は一般的すぎないように注意:だめな例 ~の特性、からの事情、~と~の関係

Fit&Work言葉の方からデータを説明できるかを確認すると避けられる

5:1つのデータから概念を考える際、分析中の他データや未収拾のデータにもあるのではと考える

※また容易に1つの概念に絞り込まず、検討した他概念候補もワークシートに記載しておく

・概念の継続的生成

修正版M-GTAでは、並行して複数の概念を生成する

その際に、概念を考えながら(上位概念の)カテゴリーまた(研究成果になる)プロセスについても考える

概念を考える際に下位のデータだけではなく上位のカテゴリー、プロセスも同時思考する

15分析ワークシートの作成

・分析ワークシートの目的

概念ごとにワークシートを作成する

4要素:概念名/その定義/具体例(ヴァリエーション)/理論的メモ 

文章ソフトで1つずつ作った方が良い(表計算ソフトで作らない方が良い)

※データから概念を生成するが、概念ができればデータは捨てる

・分析ワークシートの書き方P188

データの着目箇所→具体例(ヴァリエーション)に記入

※元のデータとの関連が分かるように記号などで分類

※ある程度の多様性があれば概念として有望
→多すぎれば分割の必要の可能性

定義欄:検討の結果採用する解釈を定義欄に記入

※動詞的に考える他の何か(概念)と関連していきやすい

※条件も入れておくと良い

理論的メモ欄:定義欄に記入した以外の重要なものを記入

※対極例を書いておく(分析者の恣意性の排除の担保

概念欄:定義を凝縮表現した言葉を記入単語かそれに近い程度の短い表現

※研究概念として確立されているものを借用するものは避ける

・分析ワークシート例

概念名20:保健室ピアの自然形成

定義:保健室に気の合う仲間がいることや、保健室にいるほかの生徒を仲間だと思う事

概念名22:給水所としての養護教諭

定義:用語教諭と話をすることで、元気づけられたり気持ちがかるくなったりやる気が出る事

・分析ワークシートの完成と精緻化

ワークシート完成=概念生成の完了

ヴァリエーションの多様性と対極例の判断

1:分析について追加データの収集が必要かどうかの判断(10ケース以上)

2:分析焦点者の更なる絞込みの必要性の有無

16理論的メモ・ノートをつける

分析ワークシートとは別に理論的メモ・ノートをつける

日記的に日付ごとにつめるのが効果的

分析を始めたら極力中断しないこと

17カテゴリー生成法

概念からカテゴリーを作り分析結果をまとめていく

前提:概念はどれもデータに対しては同じ密着度である:grounded on data かつcoding & retrieval

※概念の中にカテゴリーになりうるものが混在している

※概念をグルーピングして検討するのではない

1つの概念と他の概念の関係性を検討する

2概念の関係を考える

概念と概念の関係を図にしていく(理論的メモ・ノートに記入)

・コア・カテゴリーがなくてもよい

コアカテゴリーがあれば良いが、カテゴリーの関係で現象の変化を説明できるのであれば良い

・必要な概念数の目安

数字で示せる問題でない事を前提に、10概念を創ったら、すでに概念相互の関係が見え始めるべきである

最終的には20個程度が一つの目安

10創れば十分と言う話ではなく、20作ればまとまらないと言う話ではない

18分析のまとめ方

・結果図をつくる

グラウンデッド・セオリーは分析焦点者を中心とした人間の行動や相互作用の変化、うごきを説明するもの

≒データ→概念→カテゴリーを包括的に収束させるもの

の一連の作業をプロセスと表現

これを効果的にするには結果図をまとめる→概念やカテゴリーの関係を線や印で結ぶ

・理論的飽和化の判断

飽和化の判断は難しい

修正版M-GATでは、分析は一つのプロセスとして展開する

個々の概念生成において小さな理論的飽和化の判断を行っている(概念の数だけ)

※データの範囲を限定する(絵で言うキャンバス)

※導き出されたグラウンデッド・セオリー(絵で言う絵、そのもの)

・ストーリーラインを書く

  論文執筆の前にストーリーラインを書く

  =分析結果を作成した概念とカテゴリーだけで簡潔に文章化する

  ※どんなに長くてもA4一枚以内で、できるだけ短くすること

  最後の分析の位置づけ

  要約→これを説明するために何をどの順番で書くか

  ストーリーラインと結果図を確認してから論文を書く

 1:何を明らかにしようとしたのか

 2:この研究の意義は何か

 3:何が分かったのか。オリジナルに提示できる結論は何か。

 4:どういうプロセスを明らかにすることができたのか

 5:(該当する場合には)、どのような援助の視点が得られたのか

 既知のことがらを細かくまとめたのではなく、新たな理解につながる内容であるべきである

 1つの研究から少なくとも2つの論文を書くことを推奨している

 修正版は、小さくても、ち密な分析結果を重視する

 第一論文で活用しきらなかった、概念やカテゴリーを活用し、関連する第二論文を検討する

  ※追加データを収集したり、対極の対象者を取り上げる

  できた人のできた理由
  →できなかった人のできなかった理由

19論文執筆の要点

 1 結果図、ストーリーライン、上述の5つのポイントの確認

 2 読む側が理解しやすいように書く

・対象者とデータの説明

  対象者数/対象者の条件/面接方法/データの収集/処理(遂語化など)の仕方/理論的配慮

・分析方法の説明

  方法論や手順が明確なのは修正版M-GTA、事例研究、ライフヒストリー、エスノグラフィー

 修正版M-GTAの分析方法を簡潔に伝えるには以下の7点を記述する

 1:分析テーマと分析焦点者に照らして、データの関連個所に着目し、それを1つの具体例(ヴァリエーション)とし、

   かつ、他の類似例も説明できると考えられる、説明概念を生成する。

 2:概念を創る際に、分析ワークシートを作成し、概念名/定義/最初の具体例などを記入する。 

 3:データ分析を進める中で、新たな概念を生成し、分析ワークシートは個々の概念ごとに作成する。

 4:同時並行で、他の具体例をデータから探し、ワークシートのヴァリエーション欄に追加記入していく。

   具体例が豊富に出てこなければ、その概念は有効でないと判断する。

 5:生成した概念の完成度は類似例の確認だけではなく、対極例についての比較の観点からデータをみていくことにより、

   解釈が恣意的に偏る危険を防ぐ。その結果をワークシートの理論的メモ欄に記入していく。

 6:次に生成した概念と他の概念との関係を個々の概念ごとに検討し、関係図にしていく。

 7:複数の概念の関係からなるカテゴリーを生成し、カテゴリー相互の関係から分析結果をまとめ、

   その概念を簡潔に文章化(ストーリーライン)し、さらに結果図を作成する

・結果と考察の論じ方

  修正版では、結果と考察を分ける場合も分けない場合もある。

  ケースバイケースで検討する

・分析結果の記述方法

  概念説明的記述:概念とカテゴリーを1つ1つ説明していく書き方

   概念名/定義/代表的な具体例 を書く:手堅い

  現象説明的記述:分析の結果明らかとなった現象の説明に比重が設定され、概念などは、その説明に使用される

   分析焦点者の動きが分かるので読みやすくなる。ただし、概念などの理解はしにくくなる。

  コンパクトな論文では概念的記述が評価が良いのではないか

・分析内容の記述

  もし書けない場合は、一度止めて見直すことが良い

  修正版M-GTAはそうなりにくい

・補足的事項

  例えば付録として分析の作業記録をつける

20適切な評価法の確立

・質的研究では、恣意性を疑う事が多い→修正版M-GTAはプロセスでこれを排除している

▼前回のブックレビューです。


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