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2022上半期facebookいいね!ランキング6位『江戸とアバター』

2022年27冊目のブックレビューです。

松岡正剛さんの塾に通っているのですが、そこに著者の1人の田中優子さんがいらっしゃいます。
江戸文化研究の第一人者で、元法政大学総長です。
松岡さんの塾には錚々たる方々がサポートしているのですが、唯一の女性でもあります。



FBが社名をメタに変更したことに代表されるようにメタバースで生きる事が言われています。
リアルな世界に加えて、バーチャルな世界で生きるという事です。それもメタですので、複数だという事です。
なんだか新しい感じですよね。

ところが江戸時代、実はそうだったという話なのです。
自分を複数持って、様々なコミュニティ(例えば「連」)に別名で複数属していたのです。
そして、そこで様々な創作活動をしていたのです。
身分社会の江戸では、その身分を変えることは簡単ではありませんでした。
だからこそ、様々なコミュニティに属し、絢爛豪華な文化を創っていたのです。
驚きですよね。

遠山の金さんなど、幕府のお偉いさんが市井の人になっているという時代劇を見たことありますよね。
あれはお偉いさんの専売特許ではなく、市井の人々が至るところのコミュニティに属していたのです。
驚きですよね。

ひとりの人間の存在の中に別の存在を他のひとが読み取る。
さらに自ら別の存在に自分を仮託し、アイデンティティをそっと抜き取り
さらに、その名前をいくつも作っていて、
それを使い分けていることに、誰も不思議に思わないで暮らしていたのです。
まさにメタバースですね。
今からは信じられないです。

ところが明治になって、家制度が強化され、家長制度も強化され、
これにより、役割が固定化し、江戸時代のメタバースは消滅したようです。

ちなみにコミュニティの一例が「連」です。
「連」はある意味、隠れ家です。
田中さんは10の特質を挙げてます。
1 適正規模を保っている
2 宗匠(世話役)はいるが強力なリーダはいない
3 金銭がかかわらない
4 常に何かを創造している
5 人やグループに開かれている
6 多様で豊かな情報を受け取っている
7 存続を目的としない
8 人に同一化せず、人と無関係にもならない
9 様々な年齢、性、職業が混じっている
10 個人のなかに複数のわたしがいる。ゆえに多名である。
家と家でないもの(田中さんは別世)があり、この別世側がたくさんあったという事ですね。

この連で連歌などをしたり、絵を描いたりしていたそうなのです。
田中さんの多様性尊重は筋金いりです。

法政大学総長時代の2016年にダイバーシティ宣言を出しています。
そこの文章がイケています。

「ダイバーシティの実現とは、社会の価値観が多様であることを認識し、自由な市民が有するそれぞれの価値観を個性として認識する事です」とあります。
「認識」と「尊重」という「行動」がなければダイバーシティの実現はおぼつかないのです。

「性別、年齢、国籍、人種、民族、文化、宗教、障害、性的少数者であることばどを理由とする差別がないことはもとより、これらの相違を個性として尊重する事です。そして、これらの相違を多様性として受容し、互いの立場や生き方、感じ方、考え方に耳を傾け、理解を深め合う事です」

「受容」し「耳を傾け」「理解を深める」という「行動」もなければダイバーシティの実現はおぼつかないのです。

田中さんの周りは居心地よさそうなのですが、こんなことが理由なんでしょうね。
目から鱗の話が一杯載っています。
お薦めです。

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