2016年 77冊目『「野党」論:何のためにあるのか』
野党は何のためにあるのか?について書かれた本です。
野党は無責任で党利党略ばかり。そう感じる人も少なくないかもしれません。
しかし、野党は民主主義をよりよくする上で不可欠の「ツール」なのです。
与党の取りこぼす民意を掬い上げ、政治に反映させ、争点を明確化し、異議申し立てをする。
それらによって代表民主主義は安定を手にできる。
野党の歴史から各国比較まで、基礎知識の整理がされています。
野党を「上手に使いこなす」ための本です。
想像以上に面白かったです。
有権者は民意を特定の政治勢力に負託します。
このとき負託に与れなかったのが、野党です。
野党は英語で「オポジション」と言い、原義では「反対勢力」を意味します。
つまり、民主主義では、野党は反対する事が役割です。
与党が法や倫理に反するような権力行使をしていないかどうか、様々な少数派の不利益になることをしていないかどうか、つまり適切な権力の用い方をしているかチェックすることが、野党の第一の機能です。
また、野党には争点を明確にすることが挙げられます。
与党の政策に何か問題が生じたときに、別の方法で目的を達する事ができないか、できるとすればそれはどのようにしてか、そもそも目的は正しいのか。そうした政治的目的や課題について有権者に「争点を可視化」することが第二の機能です。
第三の機能は、「民意の残余」を代表すると言うものです。与党には代表しえない民意が必ず残ります。
この汲み尽くせなかった残余を政治的に代表することも重要な機能の1つです。
民主主義の類型で野党(オポジション)を4つのパターンに分類できます。
民主主義を直接(自己統治)か間接(代議制)なのか、集計的(多数決で決める)か統合的(多数の合意を取り付ける)なのかの2×2で分類しています。
現在では大半の国が間接民主主義ですが、古代ギリシャのアテネや現在でもスイスの地方自治体の多くで残っています。
国民投票の制度などもこれに含まれます。
一方、集計的では、多数決で早く決まりますが、民意の残余が残りがちです。
統合的では、その逆になります。
間接×集計的民主主義は、振り子型民主主義と言えます。
ここでは、政権交代型野党が求められます。
間接×統合的民主主義は、コンセンサス型民主主義と言えます。
ここでは、抵抗型野党が求められます。
直接×集計的民主主義は、有権者民主主義と言えます。
ここでは、アドホック(争点ごとに是々非々で賛成、反対に回る)野党が求められます。
直接×統合的民主主義は、参加型民主主義と言えます。
ここでは、皆でコンセンサスを得ながら決めようって話なので、かなり混乱します。
ランダム(場当たり的な)野党になります。
日本は、多党制であり、自民党の「事前審査制度」で、部分社会の利益を反映する党部会や委員会で了承されないと法案は国会に提出されません。
その意味でコンセンサス型民主主義に分類できます。
すると野党は抵抗型野党が求められ、与党の政策に反対し、争点を明確にすることが役割となります。
しかし、90年代に中選挙区から小選挙区に選挙制度が変わり、日本は振り子型民主主義に接近しつつあると言えます。野党の役割は政権を担えることが求められるわけです。
分かりやすいですね。
これら基本的な分類で頭の整理をした上で、日本の野党の歴史、各国の野党の役割について書かれています。
かつての自民党は党内の派閥間で競う事で、自民党内で政権交代をしていたと言えます。
党戦略としては、素晴らしい方法だったと言えます。
しかし、その機能が弱った事、世の中の変化で民主党政権が成立したわけです。
アメリカ、ヨーロッパの主要国の違いが分かり、面白い本です。
▼前回のブックレビューです。
▼新著『業績を最大化させる 現場が動くマネジメント』です。
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