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2016年 95冊目『問題は英国ではない、EUなのだ』

※以下は、2016年にFBに投稿された内容です。

ソ連崩壊、リーマンショック、アラブの春、ユーロの危機、そしてEU離脱を的中させたエマニュエル・トッドさんの本です。

とても面白くて、参考になり、納得感が高い本でした。

現在先進世界は世界大戦から数えて3つ目の段階に入っています。

1950~80年の経済成長。日本とヨーロッパはアメリカに追いつき、消費社会が到来しました。

80~2010年の英米によって推進されたグローバリゼーション。ソ連や中国は抵抗できませんでした。

2010年以降が第三局面です。それはグローバリゼーションを発生させた2国で起こってるのです。

アメリカでは、不平等の拡大、支配的な白人グループの死亡率の上昇、社会不安の一般化などの結果、ナショナルな方向への揺り戻しが起きています。

トランプやサンダースの台頭はその象徴です。イギリスのBrexitもそうです。この2つはとてつもない逆転現象です。歯止めない個人主義を求めた結果、ネオリベラズム的であることに自ら耐えられなくなってきているのです。この2つの社会は、ネイション(国民)としての自らの再構築を求めているのです。両国は、グローバリゼーション・ファティーグ(疲労)に苦しんでいるのです。

イギリスのEU離脱は、世界規模で起きている大きな現象の一部分です。グローバリゼーションのストレスと苦しみの結果、先進諸国の社会は、開放的になり一致していくどころか、むしろ反対に、それぞれの内部の伝統のうちに、グローバリゼーションに対処して、自ら再建する力を見出しつつあります。

90年の東西再統一の際、統一ドイツは東部ドイツを再建する必要がありました。この一種の時間的先行の結果、偶然にもドイツは2010年ごろからヨーロッパで圧倒的な優位を手に入れることになったのです。

次がロシアです。2000年までの過酷な時代を経て、プーチン大統領がロシアらしい国民的理想への回帰を現実化しました。15年を経て、ロシア人は、経済的に、技術的に、軍事的にアメリカを恐れる必要から解放されたのです。

イギリスのBrexitをめぐる国民投票は、第三段階と言えるのです。

ちなみに、イギリスと張り合うのは、ロシアを屈服させるのと同じくらい常軌を逸しています。イギリスは孤立していません。英語を共有する先進国世界全体とつながっているのです。

第四段階はフランスの目覚めでなければなりません。

ポイントはドイツがどのように振る舞うからです。ドイツには、平常心を失わず理性的なビスマルク行動様式と偏狭的で暴走・敵対するヴィルヘルム行動様式があります。

ドイツはBrexitを大騒ぎせず受入れ、かつその状況を利用し、ヨーロッパ大陸の掌握を完成させることも可能です。わざわざ貿易戦争を仕掛ける必要などないのです。

Brexitに続いてスコットランドは独立するでしょうか。しません。スコットランドがロンドンに不満を持っていたのは緊縮財政です。ところがEU=ベルリンの支配下にはいれば、より徹底した緊縮財政を強いられます。EUに入った小国の悲惨な末路は容易に想像できます。またスペインもカタルーニャ地方を持っているので受入れを拒否するでしょう。

著者のトッド氏は、歴史人口学に基づき、未来を予見しています。統計的な変数を分析して推論しています。例えば、家族構造とイデオロギーおよび経済体制の関係を発見したのは、「外婚性共同体家族」の分布と「共産主義勢力」の分布の重なりでした。

共産主義革命は、プロレタリアート(労働者階級)を有する工業先進国では一度も実現していないのです。つまり、マルクス主義の仮説は、事実によって否定されているのです。事実は、資本主義化以前の断代の家族社会で生まれているのです。

核家族型のポーランドや直系家族型のチェコは共産主義からの離脱がスムースに進みました。しかし、外婚制協働体家族のロシアや中国は、その影響を完全に無化できないのです。

家族形態からいろいろな事実が分かります。ドイツ、スウェーデン、日本のなどの権威主義的な直系家族の方が、イギリスの絶対的核家族やパリ盆地の平等主義核家族よりも概して教育水準が高く、経済パフォーマンスが良いのです。

日独の違いもあります。同じく直系家族なのですが、外向きの拡張志向のドイツと内向きの孤立志向の日本と言えます。ドイツはヨーロッパの中心にあり、日本は島国だと言う違いもあります。1つは第二次世界大戦ごろのイトコ婚(グループ内の結婚)の割合の差で説明ができます。日本は10%程度、ドイツは皆無なのです。イトコ婚は、共同体内の技術の外部流出などを避けるなど、閉鎖的・内向的傾向を示します。

一方でテリトリーのシステムがあります。韓国から子供を養子で貰ってフランスで育てると、フランス人が出来上がります。移民だとしても2,3世代目になると、元の家族システムがどのようだったとしても、受入れ社会の家族システムを採用するのです。

ネオリベラリズムの根本的矛盾は、個人主義は国家を必要とするという事です。核家族は①パパ、ママ、子供、②独身者、独居老人といった一人世帯。しかし、ネオリベラリズムの結果、成人になっても経済的に親元を離れられない子供が急増しています。ネオリベラリズムは、個人主義であると言われながら、実際には個人の自立、個人主義を妨げているのです。その例外がデンマークで、国家が個人に様々な援助を影響し、個人を支援しています。

核家族と国家の間には共振関係があります。教育分野で国会が介入することなしに、核家族は成立しません。一方で、直系家族の場合は、家族内の連帯がより大きな役割を果たし、その分、核家族ほど国家を必要としません。

日本では、家族になんでもかんでもさせようという家族イデオロギーが強すぎます。核家族で、家族の教育や介護を賄う事はできないのです。これが非婚化や少子化を促進し、結果として家族を消滅させてしまうのです。

アラブの内婚制共同体家族は、兄弟間の連携が軸になります。実質は父権的家族社会が構成されます。つまりアンチ国家なのです。国家ができても独裁国家になり、特定部族連合が軍事部門を独占すると言う現象が見られます。この家族形態では、独裁国家以外、成立しないのです。結果、空白地帯ができ、ISISが生まれたのです。

今日新たな世界経済危機が迫ってきています。教育、人口、家族の指標で4つの極を比較してみます。

・安定化に向かっているアメリカ:高等教育の普及が他国よりも1,2世代早く起きました。しかし65年から95年にかけて伸びが頭打ちになり、若者の自殺が増え、社会的な不信感が高まり、訴訟が激増しました。ところが95年以降自殺率も低下し、若年女性の妊娠も減り、安定化に向かっています。出生率は2.0で人口学的に安定し、高学歴女性が増え、働きながら子育てできる状況が広がりつつあります。対GDP比で6%あった貿易赤字も改善されつつあります。

・ロシアの復活:ソ連崩壊後困難な時期を迎えました。高等教育が上がり、特に女子の伸び率が高いのです。アラブや中国と家族構造は類似なのですが、女性の地位が高い事が違います。出生率も1.8まで上がっています。ウクライナ危機により、ロシア語を話せる教育水準の高い移民がロシアに流れ込みました。ロシアは既に国土は広く、国土は不要なのです。ただ、国土に比較して人口が少ないのです。これはある意味人国学的なボーナスなのです。ロシアは家族体制が集団的行動文化を維持しています。今後多少の経済的苦境に陥っても、ロシア国民はパニックを起こさず持ちこたえるでしょう。それくらい政府が信頼されているのです。ただ、人口が1億4000万人に過ぎない、ロシアが大帝国化などは不可能です。ロシアは中級のパワーで、安定します。脅威論は幻想です。

・中国超大国論は神話にすぎない:高等教育の進学率が5%未満で、他国より極端に低い水準にあります。また出生率が急激に低下し、女子の子供100に対して、男子117と異常値を示しています。また、GDPに占める総固定資本形成(インフラなど)が4-50%と突出しているのです。中国は経済よりも、人口問題で危機的要因を抱えています。急速な少子化高齢化は深刻で、10億人の人口ピラミッドのいびつさを移民によっては解決できません。中国は不安定な極なのです。

・ヨーロッパなど存在していない:ヨーロッパの各国で高等教育進学率に差異があります。イギリスは上昇をし続けています。

スウェーデンは女子の進学率が高い伸びを示しています。フランスもスタートは遅れましたが、速いスピードで伸びています。ドイツは男性の進学率が下がっているのです。出生率もイギリス、フランス、スウェーデンは2近傍ですが、ドイツは1.4なのです。

ドイツは経済は順調なのですが、人口学的に不安定なのです。これを移民で解決しようとしています。トルコ人も融和できない中、これ以上はかなり無理があります。ちなみにドイツの内婚率はほぼ0、トルコの内婚率は10%、シリアは35%です。

・日本のパートナーは米ロ:アメリカは世界の警察ではありません。同盟国として日本はある程度の負担が必要です。ちなみに安全保障は、過去の歴史と区別してプラグマティックに考えるべきです。

日本が外国を侵略しようとしたのは、長い歴史で例外的な一時期です。むしろ、相対的には平和の歴史です。

アメリカとの関係をこわさずにロシアとの関係を強化する事が必要です。日本の唯一の問題は人口問題です。日本は仲間同士でたがいに配慮しながら摩擦を起こさずに暮らすのが快適で、その状況を守ろうとしています。

その意味で日本は完璧な社会です。ただ、出生率を上げるには、不完全や無秩序を受入れるべきです。子供を持つこと、移民を受け入れる事、移民の子供を受入れる事は、無秩序をもたらしますが、最低限の無秩序を受入れるべきです。

▼前回のブックレビューです。

▼新著『業績を最大化させる 現場が動くマネジメント』です。


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