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2017年 11冊目『イノベーションはなぜ途絶えたのか 科学立国日本の危機』

イノベーション理論・物性物理学が専門で、理学博士の山口栄一さんの著書です。

薄い本ですが、中身が詰まった面白い本でした。

日本は、かつて民間企業のの中央研究所が基礎学問を研究し、それを製品に活用していました。

1980年代以降アメリカ企業が中央研究所を廃止していった流れに合わせ、日本企業も廃止していきました。

その後の対応が日米で異なりました。

日本は研究者を社内の他部署に異動させ、日本国中で科学者の数を一気に減らしていきました。

一方アメリカは、SBIRという仕組みを設け、大企業の科学者を独立支援していきました。

このSBIRは国が設けた科学者版「スター誕生」の仕組みで、3段階のゲートを設置し、大きなコストの必要な製造業系のベンチャーを生み出していったのです。

大企業内の科学者を社外に輩出する仕組みを国が作ったわけです。

ここから製薬系、製造系ベンチャーが次々に生み出され、投資対効果は40倍を超えるようです。

日本にも類似の仕組みがあるのですが、日米では大きな違いがあります。

目利きをする人が、アメリカでは起業家であり科学者である人が行っており、日本では起業家でも科学者でもない人が行っているのです。

結果、日本では大企業にお金が流れ、起業家には流れにくいようになっており、かつベンチャーもまったく立ち上がっていないのです。

投資対効果は1以下だそうです。

日本を再興させるには、アメリカのSBIRと同様の仕組み(形だけではなく、中身も)をつくると良いと言うのが趣旨です。

これを具現化するために、イノベーションを4つに類型化して説明しています。

どのタイプのイノベーションを起こすべきかと言う話です。

・パラダイム持続型:既存技術を改善、組込み統合。演繹的思考、ロードマップが書ける。携帯電話へのカメラ付与など。

・パラダイム破壊型:既存事業の行き詰まりから基礎に戻り、別技術を生む出す。トランジスタや青色発光ダイオードの発明など。

・性能破壊型:未来の評価軸を新たに設定して開発。高速・高性能プロセッサーを低消費電力性に軸足を置いたARM社プロセッサーなど。

・超域的パラダイム破壊型:学問領域を超えて生み出される発明。iPS細胞とそれに続く再生医療など。

今後日本が再興するには、4つめの超域的パラダイム破壊型イノベーションが起きやすいように、

企業内外で科学者が領域を超えて回遊できる仕組みを作る事が必要だとあります。

納得感高いですね。

科学者は知を発見できるのですが、その瞬間は価値は0だとあります。

発見できた知自身に善悪も無いとあります。

それをどのよう価値にするのかは社会が参加する必要があります。

この社会と科学の共鳴をトランス・サイエンスと表現しています。

両者が相互に歩み寄ることで価値を生み出すと言う考え方です。

これも納得感高いです。

コラム的に書かれた内容も興味深いです。

過去の2つの大惨事について、科学的観点からは100%予見可能だったとあります。

1つは福知山線転覆事故。事故直前にカーブのアールを小さくしました。

これを科学的にシミュレーションすると120km以上のスピードになれば転覆する事は自明だったそうです。

加えて、その前に3分間の直線があり、そこでの設定速度は120kmです。

運転手に突発事故が起きれば、そのスピードのままで突入する事は容易に想像できたわけです。

速度の超過をチェックし、減速させる装置を着けなかったのが、経営の過失だと言えるのです。

当事者の運転手1人の問題ではなく、この時起きなくても、その後起きたとあります。

もう1つの福島第一原発事故も同じです。ベントを開けて、海水を注入する判断のタイミングが経営ミスだそうです。

それをやるしかなかったのに、判断を遅らせた経営の過失だと言えるそうだそうです。

これ以降、大学、企業、社会に対しての具体的な改革の案が続きます。

長い道のりですが、1つ1つ進めていかないと拙いと感じさせてくれる本です。

▼2023年 最も読まれているブックレビューです。


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