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ハイエナに会いに行く。~ハンピ#3~

ユウタロウさんが一緒に来る、と誘ってくれるので僕もハンピの遺跡観光に同行することになった。

本来ならハンピの遺跡群を観光しようなどとは思ってなかったが、誘われて断る理由もない、見て損はないだろう。

オートリクシャを雇い、寺院、水道橋、戦車、要塞、レリーフなどあらゆる遺跡を見たが、これといって僕に理解できるものは何一つなかった。

世界遺産に難癖をつけるわけではないが、文化遺産の類は見て周るものではないのではないかと言うのが僕の考えで、見たところでどうなるのだと思ってしまう。

ただ、大昔に使われていたものがいまだに残されているという事実には感動してしまうが。

ユウタロウさんにはタダで同行しておいて今更文句を言うなと怒られそうだが、どうも僕はこういった遺跡やら資料やらに興奮しない性質なのだ。

それよりも炎天下で喉が渇いて苦しかった。


夕食はどこか酒の飲めそうなところで一杯やろうということになって適当な店に入った。

本来ハンピという村は宗教上の理由から酒の提供はどこの店もしていないらしいのだが、それは建前で実は裏で酒を出しているとユウタロウさんが教えてくれた

たしかに観光客相手の商売で酒の提供ができないのはかなり効率の悪い経営になってしまう

したたかなインド人なら宗教上とはいえ密かに出していてもおかしくない。

案の定、しばらくすると向こうからビールはいらないかと聞いてきた。

ね、という風にユウジロウさんは僕の顔を見た

かなり高い値段だったがこれを待っていたのだから飲まないという選択肢はなかった

大きな陶器のマグカップに七割ほど注ぎ外からはビールだとわからないように細心の注意を払いながら店主が持ってくると、僕たちはカップを合わせ乾杯した

バンガロールからバスに乗り今朝ハンピに着いたとは思えないほどの長い一日で、その一日の疲れがどっと押し寄せてき、カップ一杯を飲み終わるころにはすでに瞼が重たかった。

それから何杯か飲み、二人の会話も低調な時間に入るとユウジロウさんが僕に尋ねた

「そういえば、ここに来る前は日本では何をしていたの?」

ユウジロウさんのことは聞いていたが僕のことはあまり話していないことに気が付いた

「うーん、役者やったり、小説書いてみたり…… 飯が食えないので料理をやってましたよ、だから本業は料理になるんですかね……」

なんとも歯切れの悪い答え方になってしまった

「じゃあ、この旅が終わったら?」

「正直、何も考えてないです……」

「じゃあ、この旅はときわくんにとって自分探しの旅というわけだね」

この旅に出る前に知人に同じようなことを言われたことを思い出した。

「この旅で何か見つかるといいね」と

僕はこの旅をそんな風に思って出発したわけではない

ただ本当に野生動物を見たくて、それに自分の知らない世界を見たくて始めたのだ

ただ知的好奇心のためだけに動いたのである。

「僕は日本で自分を見つけれない人が、海外で見つかるはずがないと思ってますよ」

そうユウタロウさんに返した

「そうかなぁ、何もしないより、何でもいいから動くってことが大事だと思うから」

とても冷静な、相手を思いやる大人な回答だと思った。

しかし僕には海外を旅して周ったから何かやりたいことが見つかったり、自分とは何者なのかという哲学的な答えが降りてきたりするとは思えなかった。

しかしこういう中途半端な人間が長い旅に出るとなると傍から見るとそういう風に捉えてしまう気持ちもわからなくはない

しかしただ好奇心のためだけに旅に出ようと思ったのだということを器用な人たちは認めてくれないのである

本当にただ野生動物が見たく、知らない世界が見たいだけなのだ。

自分探しというよりも現実逃避の方が近いのかもしれない。


店主がまだ飲むかと促してくるので、もう一杯だけお互いに飲んでお開きとなった。

明日ユウタロウさんはスリランカを経由して日本に帰る。

ハンピで偶然にも出会って、こうして話していることが不思議な感じがするが、旅をしていると普段は会わない人と出会う

これも知らない世界を見ることになるだろうか。


つづく






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