ハイエナに会いに行く。~ケニア~
飛行機が着陸態勢に入り機体が前方に傾くとアフリカの大地が露わになった
アフリカの色だ。
徐々に機体は高度を下げていく
同時に耳がぼーっとなり、外界の音が閉ざされ自分の世界に没入した。
本当にアフリカに来たのだ。
幼い頃、「生き物地球紀行」というNHKで放送されていた番組を夢中になって見ていた
その番組は世界のあらゆる生き物たちの営みを視聴者に紹介するものだ。
中でも楽しみにしていたのが、肉食獣のハンティングの様子だった。
草原を駆け回る、追うものと追われるものとの格闘が映像を通して切実なものとして僕の幼い心の中に残った。
その動物たちの背後には大抵、乾いた大地に根を張る樹木と、陽炎と砂埃、そして地平線があった
アフリカのサバンナという異世界がこの地球上に存在するのだとその番組で知ることになった。
今思えばあの頃からこの日を心のどこかで夢に見ていたのかもしれない。
その幼い頃に点火された炎が大人になるにつれ種火となり、しかしずっと消えずに燻ぶり続け、ようやく今再び炎が燃え盛ろうとしている。
飛行機は無事にジョモケニヤッタ国際空港に着陸し、この日のために用意したイエローカードを提示し入国を果たした。
空港からほど近いゲストハウスに宿をとっていて、そこの送迎を頼んでいた
外に出ると僕の名前を掲げた黒人の男が立っている
一目見て人の良さそうな穏やかな人物だとわかった
その印象とは裏腹に黒人特有の質のいい筋肉をTシャツの袖口から覗かせていて、この男がもし悪者で襲われるようなことがあれば勝ち目はないだろうなという不安が頭をよぎった。
名前はケネディーと名乗った。年齢は聞いていないがおそらく僕と同じ三十代前半だろう
軽い挨拶と自己紹介を交わしケネディーの車に乗り込んだ。
空港をあとにし綺麗に整備された広い道路を走った
目に入ってくるものすべてが新鮮に感じられたのはここがアフリカという日本とは何もかも違う未知の世界だという頭が僕の中にあったからかもしれない
実際、目隠しをされて行先も告げられずここに連れてこられたなら、ここがアメリカの田舎町だと言われても気づかないかもしれない。
しかし、すぐにそれが間違いだったことに気付くことになる
なぜならケネディーが見てみろと指で示した方向の先には二頭のキリンが木の枝に生っている実を平然と食べていたからだ。
ここジョモケニヤッタ国際空港の隣には国立公園があり、そこで野生動物の生態系が育まれている
むしろ元々は大きな草原で、そこを一部飛行場や人間が住む居住スペースに開拓したのだが。
野生動物が生息する国立公園と人間が生息する場所との境界線は金網で仕切られていてこちら側から見ているとなんだか動物園みたいだと思った。
それにしても、こんな都会の真ん中に野生のキリンがいるなどいきなり信じられるはずがない
興奮覚めあらぬ中、僕は子供に返ったように次々とケネディーに質問し、ケネディーはそれに丁寧に答えてくれた
そのうち宿に到着し、自室の一人部屋に入りベッドの上に横になると、空港からこの宿までの道中を反芻した
僕は今、アフリカのケニアにいるのだという実感が込み上げてきた。
つづく
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