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サウナと銭湯の思い出 天水湯(西成)

サウナレビューをいくつか書いてきたが、今回は地元に帰省した際に入った銭湯サウナの思い出話を書きたい。サウナ施設としての評価は無粋だと思われるので、評価は不可としたい。

昔小さい頃に行った銭湯を彷彿とさせるタイムトリップしたかのような佇まいで、昭和のかほりがする。

下駄箱(と呼ぶのが相応しいだろう)の鍵札も懐かしい。

サウナは1年ほど前にリニューアルしたとの情報があったので若干期待したが、どうやらストーブはそのままのようでかなりの年季を感じた。

一応90℃を指してはいるもののカラッカラで1段しかなく定員3名ほどのため、温まるのにはかなり時間がかかる。

一方で水風呂は水道掛け流しかと思われるが、真冬だったのでキンッキンに冷えていてなかなかのセッティング。

パイプ椅子が1脚だけあったのでそこで休憩するも、ととのいは遠くどこかに行ってしまったかのようだ。

湯船に浸かっていると、唐突に隣の知らない客に100均で手に入れた剃刀の自慢を始めるおっちゃんがいて、さすが大阪と感じる。

「100円で4枚羽やねんこれ。どんなもんやおもてこうてみたらキレ味ええんや!それなんぼや!?」

「ほんまかいな!?これ5枚刃やけど1200円ぐらいしたで!100円てえらい安いな!ワシも買うわ!!」

これまた大阪あるあるの安いマウンティングだが、返しがさすがである。これが東京なら、やれ100円は四枚刃といっても刃の質が〜、だの長持ちしないだの、4枚と5枚の差は〜、だのとここぞとばかりにマウントを取られないように必死な返しがよく聞かれるものだが、こちらはあっさりとしたものである。

否定を前提としないコミュニケーションがそこはかとなく心地よい。
(その前に東京で知らないおっさんから話しかけられても無視する人が大半だとは思うが)

今の東京は日本の中でも競争社会の極致とでもいった趣である。年収600万を超えたと思ったら次は年収800万、1000万そこから先も常に上を目指し続ける終りのないレースを皆が走っている。

婚活や、最近ではもはや恋活と呼ばれるマッチングアプリなどでも年収600万~、800万~、1000万~と明確に区別されていてランク分けが成されている。

さすがに勝ち組、負け組などと表立って口にする人はもういなくなった気がするが、結婚式などに出席すると出席者からは配偶者の職業や会社、年収などをもって、その結婚を“評価”するようなコメントが聞かれることもある。人によっては結婚式の会場がどこか、席の花は、料理は・・といった部分まで目聡く見ていることもあって驚かされる。

確かに、都内での生活はコストが本当に高いので、大台に達したところで大して裕福な生活が送れるわけではなく、そうするとそういった点を「生活」に直結する部分として無視するわけにはいかないのも理解できる。

だが、それにしても他者と比較する必要はないのではないだろうか。そんな数字で人間の価値は決まらないのだから。

そんなことを考えていると、ととのいだけを求めてやたらと高いサウナ施設を巡っていた自分も、何か大切なものを見失っていたのではないかとハッとさせられた。

いつの間にか、サウナ施設でさえもここが良い、ここが悪い、と比較ばかりしてしまっていたのではないだろうか。サウナレビューはこれからも続けたいと思うが、その観点は「シンプルに自分が楽しめるかどうか」で他者の意見や流行などに左右されることがないようにしていきたい。

サウナのクオリティはお世辞にもイイとは言えなかったが、地元、昭和レトロ銭湯、その他様々な要素が、サウナ体験そのものを毎回新鮮な気持ちで楽しめていた純粋な初心を思い出させてくれたような気がする。


また、きっとこの銭湯を訪れることがあるだろう。

ぬるいサウナと、常温の水風呂を味わうことで思い出せるあの日を求めて。


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