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怪異蒐集 『神様の視線』

■話者:Sさん、会社員、30代
■記述者:黒崎朱音

 旅行と写真が趣味のSさんは、旅行先で撮った何枚かの写真を、部屋の机の前に飾っている。先日も山あいの温泉宿を訪れて、道中に山の写真を何枚か撮った。そのうちの一枚を、机の前に飾った。

 写真を飾ってしばらくしてから、部屋の中で視線を感じるようになった。
視線はなんとなく、机の前に飾った写真の辺りからしているような気がする。中でも、先日撮ったばかりの山の写真が妙に気になった。試しに山の写真を外すと視線は止み、再び飾ると視線を感じるようになった。

 気になったSさんは、次の休日に写真の山を訪れた。もしかしたら、写真に写った山の中に、視線の元になるような何かがあるのかもしれないと思ったからだ。首吊り死体とか、廃神社とか、苔むした古いお墓とか…。オカルト好きのSさんは、そんな想像をしながら山の中に足を踏み入れた。
 しかし、山の中にあったのは普通の民家だった。民家は杉林の中に、斜面に張り付くように建っている。近くには道らしい道もなく、Sさんは作業小屋か何かだと思ったという。「こんにちは」と声をかけられ振り返ると、家主と思しき中年の男がこちらを見ていた。
 いきなり現れたSさんを訝しんでいるに違いない。とっさに適当な言い訳をしようとしたが思いつかず、仕方なく、この山を撮った写真から視線を感じて調べに来たのだという話を、正直に男性に話した。不審がられたら、それをきっかけに立ち去るつもりだったそうだ。

 しかし男性は、その話を聞くと急ににこやかな顔になって、
「きっと、神様に気に入られたんですね」
 と言った。男性によると、この山には神様がいて気に入った人物を見守ってくれるのだという。
 男性の言葉に、Sさんは曖昧な返事をしてその場を立ち去った。話自体には興味をそそられたが、初対面のSさんに対してニコニコと微笑み続ける目の前の男性に、気味の悪さを憶えたからだ。

 山を出て、随分離れてから振り返ると、杉林の奥がキラリと光った。あの家があったあたりだ。持ってきたカメラに望遠レンズを付けて覗くと、杉林の境目に立った男性がSさんのほうを見ていた。遠目でわからないが、カメラか何かを構えているように見える。
 Sさんはぞっとして踵を返すと、足早に駅に向かった。

 途中、農作業中の住人を捕まえて山の神様の話を聞いてみたが、そんな話は聞いたことがないと言われた。ただ、山の入口に妙な男が住んでいるから、あまり近づかないほうがよいと言われた。なんでも男性は、家に妙なものを祀っているらしい。もの好きな住人が家にあがりこんだところ、居間に設えた手製の祭壇の上に、手のひらに乗るくらいの鏡のようなものが飾られていたそうだ。

 Sさんは家に帰ると、飾ってあった山の写真を捨てた。しかし今でも、時折どこからかじっと見ているような、嫌な視線を感じることがあるという。


■メモ
・おっとこれはヒトコワ?(水鳥)
・はっきりとした霊現象は起きてないからそうとも言える(朱音)
・写真からの視線って錯視で説明できないかね。「こっちを見てる顔」に見える何かが写真の中にあったとか(水鳥)
・シミュラクラ現象みたいに?(朱音)
・そうそう。実際に顔がなくても、脳が顔っぽいって判断すれば視線を感じたりするのかもしれないなって(水鳥)
・視線を感じるってことは、部屋のどこにいてもこっちを見てる感じがするってことだよね。錯視にそんなのなかったっけ(朱音)
・この辺か(水鳥)
ホロウマスク錯視>平面上の顔の凹が凸に見えるせいで、移動しながらポスターの顔等を見るとこっちを見てるように見える
<モナリザ効果>ポスターの顔がどこから見てもこっち見てるように見える
・ふと思ったけど、パッと見はわからないけど写真の中に霊の顔が写ってたりしたら視線を感じたりすることあるかな(朱音)
・面白い。視線感じそう(亜樹)
・これ、写真からの視線が錯覚でないとしたら、写真を通して山と部屋が繋がってたってことになる?(水鳥)
・写真が撮影場所と繋がる怖い話ってあるっけ?(朱音)
・パッと出てこないけど探せばありそう(亜樹)
・あるとして心霊写真のくくりに入れていいものか(朱音)
・わからん(水鳥)
・そもそも心霊写真ってきちんとした分類法とかあるのかな(朱音)
・ざっと調べたけど見つからなかった。個人的な分類はありそうだけど。あっても良さそうなのにね(亜樹)
・霊は写る系、体の一部が消える系、オーブ系、あと分類するとしたら何系ある?(水鳥)
・念写系?(亜樹)
・中の女の人が見るたびにだんだんこっち向く系(朱音)
・それは怪談の種類ですね(水鳥)
・最後、写真を撮られてる? それとも持ってるの祀ってる鏡の方かな(朱音)
・鏡…かな。鏡なら他の場所につながる系の話ってけっこうある気がするね。雲外鏡とかもそう?(水鳥)
・あれは妖怪の一種(亜樹)
・Sさん、視線感じてるってことだから鏡に映されたんですかね(朱音)
・気に入られたんですねぇ(水鳥)
・男性に? 神様に?(朱音)
・両方(水鳥)


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